親しき仲にも悪意あり(2/2)

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    「出ねぇ……」

     特別「会おう」などと、約束していたわけではなかったが基本的に俺からの連絡にはすぐに返事を寄越してくれていたはずの幼馴染兼、彼女——しかも��復縁したての�≠ェ肩書きに付く恋人からの返信がない。
     既読もついていないところを見ると、何かしているのか、誰かと出かけているのか……。でも、そんな報告は特に受けていない。とにかく職場(湘北)を出てからすぐに、彼女へ電話をかけてみる——が、一向に出ないという現状。
     おかしい……うまく説明はできないけれど何か胸騒ぎがする。こういう勘は昔から意外と当たるほうだ。
     きっと家にはいるはずだという謎の自信から、『今から家行っていい?』と最後にメッセージを打ってから約一時間……。今では利用することが少なくなった実家の最寄り駅に降り立った先で、見慣れた後ろ姿を発見した。

    「おい」
    「うおっ!?」

     背後から肩に手を置いてしまったのが悪かったのか相手は色気のない素っ頓狂な声を駅のホームに響かせてオーバーリアクションでこちらを振り返った。

    「名前、お前こんな時間に駅で何してんだよ」
    「ひっ、ひさしっ!?」
    「ったくよ……王道なリアクションだな。何度も電話したんだぜ?」

     意識していなくても、自然と眉間に皺が寄ってしまうのはもうどうすることもできない。そんな俺の表情を見てあからさまにギクっと肩を竦めた彼女を俺は見逃さなかった。俺の眉間には、更に皺が深く刻まれる。ついでに「あン?」と発した言葉の裏には『たいそう不服です』という感想もおまけ付きだ。

    「き、奇遇だね!?今帰り?バスケ終わった?」
    「……」
    「あ〜、今日は月が綺麗だねぇ〜」

     そのままそそくさと家路に歩みを進めようとした彼女の腕をぐいっと掴みその歩みを阻止する。

    「ちょっと待て」
    「ん、んん? な、なにかな……?」
    「テメェ……今までどこにいた?ついでに、誰といた?」
    「し、質問は一つまでしか受け付けてません…」

     ギロリと睨みを効かせて掴んだままの腕に力を込めれば「痛い痛いっ!」と声をあげ、大袈裟に痛がる演技をしてみせた彼女のお陰で電車を降りた人たちからジロジロと見られる始末。

    「テメ——そういうの止めろっつってんだろ!」

     と彼女を自身の方へと引き寄せて小声で言えば「初めて言われたけど」なんて、憎まれ口を叩く彼女に馬鹿でか溜め息を吐いて、その手を離してやった。見れば、掴んだところが少し赤くなってしまっていて「ヤベっ」とは思ったが、今はそれどころじゃない。

    「……ん?てか、おまえ香水つけてんのか?」
    「え?こーすい? ううん、つけてないけど」
    「なんか男臭せェ。ついでにタバコ臭せェぞ?」

     片方の眉をこれでもかという程に歪めて問えば彼女が「そうです男といました」とでも表現するかのように顔を茹でダコの如く真っ赤に染めあげた、そのとき——。

    「おー。ミッチーと姐さん」

     背後からした呑気な声に二人で振り返ればそこにはいつもの揃い組……野郎軍団の野間と高宮が手を振りながらこちらへと歩み寄ってきたところだった。

    「おぅ。どーした、水戸の店にでも行くとこか」
    「洋平の店?」

     ぽかんと口を開けて言った野間が、なぜか次の瞬間、名前の方を見て「あれっ?」と目を細める。

    「姐さん、何でミッチーと一緒にいるんだよ?」

     その言葉にチラッと視線を落とせば彼女は野間に対し百面相のように顔を動かして何かを訴えている。それを見て「ああー」と、何やら納得したのか野間はオッケーオッケーとほくそ笑んで右手でOKサインを返していた。ちょっと待て……、なんだこの、除け者扱い満載な感じの展開は。

    「今日は洋平の店、臨時休業だぜ」

     一人、不満を露わにしている俺をよそに高宮が俺に淡々と伝える。それに続いて野間が、「風邪ひいたんだよ、アイツ」と言った。

    「風邪だぁ?アイツが風邪なんか引くかよ。隕石が落ちたって人類でただ一人、生き残りそうじゃねーか」
    「ミッチーも変わらねーだろうが、ある意味な」
    「ミッチーしつこいから生き残りそうだもんな」
    「野間くんも高宮くんも、それ悪口」
    「ワッハッハ!違いねーな!」
    「おいテメーら!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……!」

     俺のツッコミに、声をあげてガハハッ!と笑う野間と高宮。ひとしきり笑ったあと野間が「まぁ洋平も人間だったってことだな」と言いチラッと彼女の方を見た。そうして「なぁ、姐さん」と、何故か彼女に同意を求めている。その光景を見ていてようやく全てが点と点で繋がった気がした。大事なのでもう一度言うが、こう言う勘は昔からよく当たる方だ。

    「ほぅ、なるほどな。看病してたわけだ?俺からの連絡を返せないほど集中して。水戸の看病を」

     シーン……と一瞬にしてその場の空気が淀む。は、マジかよ。抑揚つけて、やや悪ノリ的な感じで言っただけだったのに、この淀んだ空気がそれを正解だと示している。
     え……?男の匂いにタバコ臭さ。自分で発した言葉を頭の中で反芻する。嘘だろ、家に?アイツの……水戸の家に、行ったってことかよっ!?

    「ナニモシテナイヨ、ワタシ」
    「……」
    「……え?」
    「もうそりゃ大嘘つきだろうが……アホ」

     溜め息しか出ないとはまさにこのこと。どんな経緯があったとか、もうそんな事は一切聞きたくもない。しかし、相手があの野郎だったとしても病人ならば話は別だ。病人は悪くない、決して。大人になれ。大人になるんだ三井寿……と冷静に心を落ち着かせていたら。

    「洋平が『ずいぶんと世話になった』って言ってたぜ」
    「ちょっと!? 野間くんっ!?」
    「なんだ姐さん。洋平と、いつの間にそんな深い関係になったんだぁ?」
    「たっ、高宮くん!や、やだなぁ、やめてよその言い方」
    「って言うけどよぉ……洋平が寝てるの、ずっとそばで見守ってたんだろ?さっき連絡したら洋平本人が言ってたぜェ?」

    「まさか、添い寝して看病してやったんじゃねーだろうなァ」と付け加えて言った野間の言葉で、遂に俺の堪忍袋の緒が切れた。こいつら、俺らが復縁したって知ってるはずだよな?ここで「そうだ」とでも肯定してみろ、もうお前とは彼女でも幼馴染でもなんでもねぇ。縁を切ってやらぁ!

    「名前」
    「えっ!?あ、はい……」
    「メシ届けたとか、そんな程度なんろだろ?」
    「ご飯は、軽く作ってあげたけど……それだけ」
    「ほんとだな?」
    「……」

     はい——確定、黒だ。
    言葉を発さなくともわかる。パッと目だけを逸らした瞬間を俺は見逃さなかったし、何年も彼女を見てきたので顔色だけでわかるってやつだ。
     納得したように俺が「へぇ」と何度か縦に頭を振ると彼女は気まずそうに苦笑いをした。爆弾を投げた張本人の野間とそのツレの高宮は「じゃあ俺たち帰るな」と、特に何かを気にする素振りも見せず、軽く手をあげ去って行った。

     ひと気の少なくなった駅のホーム内。ずっと、向かい合ったままの俺と幼馴染の彼女は、どちらからも言葉を紡ぐことはせず、暫くの間そのままその場に突っ立っていた。ややあって、俺が先に「行くぞ」と口を開く。ずいぶん低い声になってしまった事は否めないが。

    「え……? 行くって、どこに……」
    「俺ンちだよ」

     俺はすこし動揺している様子の彼女を無視して強くその腕を掴み、自分のアパートへ向かうべくさっき降りたばかりの電車へとまた飛び乗ったのだった。





     *


    「納得いくように説明しろよ」
    「だから……」

     彼に腕を引かれたまま帰宅したかと思えばそのままベッドに押し倒された。彼は私に覆い被さるような体勢になり今にも唇が触れてしまいそうなほど顔を近づけてくる。

    「それで?」
    「だっ、だから!何度も言ってるように……」
    「突然野間から連絡が来て水戸のとこに行けって頼まれた。んで、それを隠そうとしてたとこに、たまたまアイツらが来てバレた、って?」
    「ちがっ!別に隠そうとなんてしてない!でも、まぁ……そっ、そうです……」
    「に、しては奴の看病を頼まれたこと、満更でもなさそうだったけどな?」

     口元は薄く笑みを浮かべつつも、目は鋭く私を捕らえたままで、なお私を離すこともなく。
     真実は先ほどから話している内容が全てのためどうする事もできずに。抵抗すれば尚のこと彼に誤解を与え刺激してしまうのではないかと思い、下手に動くこともできない。

    「俺にこうされるだけじゃ足りねーのか?」
    「ちっ、ちが……っ!だからっ!」

     言葉を口にした時には遅く彼の手は私の内股をまさぐりながら、きわどい部分まで滑り上がってくる。その手が滑る度に、私は意図せず甘い声をあげてしまう。

    「メシ作るほど仲が良かったなんてな」
    「高熱だったの!さっきも言ったでしょ?それにキッチンの使い勝手は知ってて——あ、」
    「……おい、今なんつった?」
    「……っ、」

     やってしまった。私は彼にこうされると冷静な判断が出来ずボロが出てしまうんだった。
     目を合わせなくてもわかる。その鋭すぎる視線が私に穴を開けるほど強く、こちらに向けられている気配が。

    「ほ、ほら……!どこのキッチンもだいたい同じでしょ?私の住んでたアパートと、似てるつくりだったし」
    「……」
    「近いってば。お願い、ちょっと落ち着こう?」
    「俺にも、同じやつ作ってくれよ」
    「ちょ、ちょっと待って! ねえ、酔ってる?」
    「ああ、酔ってる。お前にずっと」
    「なっ……!」

     嫌だよ、まだ復縁してから体を重ねていないと言うのに。こんな形で、無理やりみたいな流れで寿と結ばれたくなんかない……!

    「これでも結構、嫉妬深いんだよ」
    「し、知ってる……」
    「余裕かましてるだけだと思ってただろ?」
    「いやっ! だから知ってるってばっ!」
    「名前」

     頬に優しくキスを落としたかと思えば、それが合図かのように、彼は私の衣服の中、ブラジャーへと手を伸ばし進めた。

    「ひ……さ、し。やめて……いや、お願いっ」
    「名前、かわいいぜ」
    「——!!」

     一度許したら際限なくあれこれ要求しはじめるのだろうなと思いつつも彼の怒りマックス時の、しかも男絡みというか顔見知りの男性絡みの時に出る腕力に勝てるわけもなく、私は諦めて降参しギュッと目を瞑った。










     愛 と呼ぶには 凶暴 すぎる。



    (おぃ……名前?)
    (……なんか、気持ち悪い、かも)
    (ちょ、ちょっと待て!ここで吐くなよっ!)
    (だめ……ごめん、もう、無理……っ)
    (ダーっ!!待て待て待てっ!!)
    (あ……)
    (わかったわかった!トイレ連れてくからよ!)

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