愛の力(3/3)
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「——じゃあ私は、買い物してから帰るね」
「ああ、わりーな。家着いたら一応連絡しろよ」
「わかった! リョータくんによろしくね!」
「おぅ。帰り道気ィつけてな」
安西先生宅を出て、彼女とその場で一旦別れた俺は最後のひとりとなった人物の元へ向かった。
さてと——三人目、宮城リョータ。待ち合わせ場所は湘北高校の近くにある公園だ。現在東京で働く宮城に合わせてそっちに出向くと言ったら、「そっちまで行きますヨ」と言ってもらえたときなんだこいつ案外イイヤツだな、なんて思った。でも、どうして公園なんだ?と思っていたが辿り着いてすぐにその意味を納得する。宮城が公園内にある古びたバスケットゴール相手に、ひとりでバスケをしていたからだ。思わず鼻で笑った俺はゆっくりとヤツのもとへと足を向けた。
「——小学生?」
俺が背後からそう声をかけると宮城はボールを着く手を止めて振り返った。くちびるを尖らせて眉を吊り上げた高校時代の後輩は「もう、ピッチピチの立派な大人だっつーの」と言って舌を打ち鳴らす。
「ほら、パス」
と、無意識に口角を上げたあと俺が言うと不機嫌そうなツラのまま宮城がものすごいスピードでボールを投げて来やがった。俺が「おっぷ」と、情けなく声をもらすと宮城は、勝ち誇ったように笑っていた。そうして、しばらく二人でバスケをしてから公園のベンチに腰をかけた宮城に近くの自販機で買ってきたコーラを差し出し俺もすこしだけ距離をあけて、その隣に座った。
「……安西先生ンとこ、行ったンすかー?」
「え?……ああ、さっきな」
「ふーん。やっぱ先生にしたんだ、挨拶」
「……しか、いねーだろ。どう考えても」
宮城はまた「ふーん」と相づちを打って俺から受け取ったコーラの蓋をあけて、ぐびぐびと豪快に喉を鳴らしながら飲んでいた。
「——ほらよ、」
そう投げやりに言い招待状を片手で差し出すと宮城は素直に受け取りながらもきょとんとして、冗談抜きに「なにこれ」なんて言い返してくる。
「招・待・状!!」
俺が声を荒げると「ああ」とようやく理解したのか眉を吊り上げて「へえ、なんの?」と、今度こそ揶揄うような視線を俺に向けながら問う。
「——結婚式の!……見りゃわかんだろうーが」
そう呆れ口調で返して溜め息を吐く俺に宮城は浅く笑ったあと「サンキュ」と言い置きその招待状の表裏をひっくり返したりしながら、しばらくそれを眺めていた。
「……俺、はじめてもらったぁー」
「あ?」
「結婚式の招待状なんてさぁ」
「俺もはじめて渡したっつの、招待状なんてよ」
「アンタは初めてで終わりにしときなよ。危なくこれが、
二回目
(
・・・
)
になりそうだったくせしてさー」
俺がぐっと顔を強張らせて面を食らっているとケラケラと宮城の乾いた笑い声が横から聞こえてきて言わずもがなイラっとした。
「名前ちゃんと結婚ねえ……」
「……いろいろと、世話になったな」
「え、三井サン死ぬの?なんかそれ、死ぬまえの挨拶みてえ」
「オイ……」
「はっはー!ウソウソ♪」
軽い口調で言った宮城はこともあろうに渡した招待状で自分のツラを扇ぎ始めた。そんな後輩のあいかわらずな姿に俺はまた溜め息を吐いたあと小さく笑った。
「——あ、呼ぶの?」
「……あん?だれを」
「藤真」
「……!よ、呼ばねーよ!呼ぶかバカやろう!」
宮城はアヒャヒャと腹をかかえて笑っている。俺は舌打ちをして、はあ〜あと抑揚つけて大きく溜め息を吐き散らしてから言った。
「……んでな、宮城」
「ハイ?」
招待状で顔を扇いでいた手を止めて俺を見やる宮城にコホンとひとつ咳ばらいをして、目をやや逸らしながら言う。
「……友人代表の、スピーチ」
「友人代表の、スピーチ……?」
「ああ。やってもらいてーなって思ってて……」
「やってもらいてーなって、思ってて……?」
「……いちいち真似すんなっつの」
「ハハ、ごめんごめん」と笑う宮城を見て彩子そっくりじゃねーかと言いそうになったが寸でのところで、その言葉は飲み込んだ。
「オレが?友人の?三井サンの?スピーチ?」
「ああ」
「堀田は?ダンナとかさ」
「……宮城にした。くじ引きでな」
「ええ〜?なにそれ、ヤダよ」
「——、」
……え。断るとか、アリなのかよこーいうのって。と思わず心の中でつぶやき唖然として宮城をじーっと見つめたままの俺を宮城は相変わらず、楽しそうにしてチラチラと横目で見やってくる。
「……くじ引きじゃねえ、」
「え?」
「ちゃんと、考えて決めたっつの……」
「……ふーん。」
「で?」
「ん?」
「やんのか、やらねーのかよ」
宮城は口笛を吹きながら気付けば招待状の封をさっさと開けて、中を見ていた。目の前で堂々と招待状を開けるヤツなんてこの世にいんの?とか思ってちょっとだけ引いた。やっぱ変えっかな、スピーチの人材。それこそ木暮あたりにしてよ、と頭の中で代替案を巡らせていたとき「あ!」と宮城が突如、閃いたように声をあげた。
「……なンだよ、びびるわ」
「俺に勝ったら、やってもいーよ?すぴーち。」
「ああ?勝ったらぁ?」
「うん、アレ——」
そう言ってバスケットゴールを指差した宮城。俺は指差されたゴールを一瞥したあと宮城に視線を戻し、その生意気な後輩を見下ろして、口角を吊り上げる。
「……上等だ、バーカ。」
俺の言葉を待って立ち上がった宮城が招待状をズボンのうしろポケットに突っ込んで「ウシ!」と気合にも似た掛け声と共に、バスケットゴールめがけて、ドリブルをしながら走って行った。
俺も立ち上がり手首を鳴らして「オッケー」と無意識につぶやいたあと、宮城の背中を追った。
愛
とは、
すべてを包み込むこと。
(マジでうしろ姿、小学生かと思ったぜ)
(うっせ、ロン毛。)
(うっせ、チビ。)
※ image song『やさしさで溢れるように/JUJU』
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