寄り添う二人の幸せな笑顔の日(2/2)
表紙
目次
しおり
しおりを挟む
しおり一覧
前へ
2/2
次へ
「——新婦、入場です」
やけに変な緊張感が走っている気がする静まり返ったチャペル内に、落ち着いた声音のマイクの音が響き渡った。マイクの声を合図に俺らもまた入口の扉を見やる。
三井サンのときとはまた異なる、綺麗な前奏と共に大きなその扉が開かれると、純白のドレスに身を包んだ新婦、名前ちゃんと、彼女のお父さんが一緒に中に入って来た。
「純白だわ……」
「ええ、とっても綺麗だわ〜、名前さん」
彩ちゃんと晴子ちゃんが今日イチのキラキラな瞳で彼女を見つめている。けどバージンロードを歩く彼女は本当に冗談抜きに天使みたいだった。
——なんてことはたぶん三井サンが一番思っているんだろうなーと思って、三井サンをちらっと見てみればこともあろうに目を潤ませていたのでちょっとギョッとした。そしてそのあと、すこし照れたように顔を背けたりしていて「なに照れてんの、目の上のタンコブめ。」と、心の中だけでつぶやきつつポカンとしてしまう。まったく……ほんとに、名前ちゃんを大好きすぎて、こっちが参っちまうよ、センパイ。
一歩一歩交互にゆっくりと歩みを進める彼女が俺らのそばに来たとき、打合せもしていないのに全員が「おめでとう!」や「きれいだよ」と口をついて出て来る光景にやっぱり湘北の生徒たちは息ぴったりだなーなんて感心した。いや、でも。本当に綺麗だもんなぁ、名前ちゃん……。
品よく微笑んで皆に「ありがとう」や「ありがとうございます」と小さく頭をさげている彼女を見ていたら、先ほどのダンナの言葉「あんな男でよかったのか」という台詞が俺の脳内でリピート再生されたのは内緒。
彼女のお父さんから新郎の三井サンへと新婦、名前ちゃんの手が受け渡されたとき反射的なのか小さく拍手していた晴子ちゃん。その姿がやけに印象的で可愛らしかった。
三井サンの腕に自身の手を絡めた彼女はいま、いったいどんな気持ちなのだろうか——。そんな二人の後ろ姿を、パシャパシャと撮影する元湘北メンバーを横目に俺は、過去の思い出が走馬灯のように蘇ってきてまた目頭が謎に熱くなる。
二人が正面に向かって並ぶと再度、綺麗なパイプオルガンが奏でられ先ほど晴子ちゃんが歌っていた讃美歌『いつくしみ深き』が流れはじめる。
【 讃美歌312番 いつくしみ深き 】
いつくしみ深き 友なるイエスは
罪とが憂いを 取り去りたもう
こころの嘆きを 包まず述べて
などかは下さぬ、負える重荷を
いつくしみ深き 友なるイエスは
われらの弱きを 知りて憐れむ
悩みかなしみに 沈めるときも
祈りにこたえて 慰めたまわん
いつくしみ深き 友なるイエスは
かわらぬ愛もて 導きたもう
世の友われらを 棄て去るときも
祈りにこたえて 労りたまわん
上段にいる、白と黒の服に身を包んだ人たちが歌い始めるのを合図に、俺たちもしっかりと新郎新婦へのお祝いの気持ちを込めて歌った。それが歌い終わると神父が、聖書を朗読する。そのあと『誓約』を交わす三井サンと名前ちゃん。
「新郎——寿さん。
あなたはここにいる名前さんを病めるときも健やかなるときも富める時も貧しき時も妻として愛し敬い慈しむことを誓いますか?」
「——はい、誓います。」
「新婦——名前さん。
あなたはここにいる寿さんを病める時も健やかなるときも富める時も貧しきときも夫として愛し敬い慈しむことを誓いますか?」
「……はい、誓います。」
三井サンの真っ直ぐで偽りのない誓い。彼女の涙で声を震わせながらも、いままでの長きに渡る想いが込めらているような、力強い誓い——。
それを聞いていた俺らの席に、すすり泣く声が響きはじめて、あたりを見渡せば、晴子ちゃんと彩ちゃんはいいとして、こともあろうに堀田が、ガチで大号泣をしていた。先ほど自分で宣言したことをしっかりとやってのけた、元湘北の番長に俺らは思わず苦笑いを浮かべる。
指輪の交換のとき新郎から新婦に指輪をはめるターンではやはり緊張していたらしい三井サンが彼女の薬指にスムーズはめられず少々手こずっていた。
「チッ、……これ、サイズ合ってんのかよ」
「合ってるって!スーって。ほらスーって……」
スー、とは……?なんて、そんなことを思っているだろう空気が、俺たちの周りに淀んでくる。
そんな二人のコソコソ話が静かなチャペル内にダイレクトに響いたことで俺たち以外のゲストのクスクスと笑う声が徐々に増えて来た。そのとき俺らをチラ見した三井サンが一度「ふぅー」と、大きく深呼吸をしたかと思えば、背筋を伸ばして再度彼女への指輪装着に意識を集中させていた。まるでスリーポイントを打つときみたいにして。
「ミッチー、ちゃんとやれよ!」
「おお! 頼むぜ、ミッチー!」
煽りにも似た野間と高宮の声が響き渡り、またチャペルの中が笑いに包まれる。しかし、それでいくらか緊張感が解けたのか、無事に互いの指輪交換が終わった。
ベールアップをして誓いのキスをした二人に、全員で大きな拍手と共に安定で俺ら問題児軍団はヤジやら指笛を盛大に送ってやった。だが、挙式終盤に行われていた結婚誓約書に仲良くふたりでサインをするその姿には俺らも自然と笑みがこぼれたのだった。
「三井、幸せそうだなあ……」
感慨深そうに小さな声で木暮さんがひとり言のようにつぶやくと隣にいたダンナも珍しく素直に「ああ」と相づちを打っていた。それを見ていて湘北バスケ部は素直じゃねーやつばっか、なんて思わず小さく鼻で笑ってしまった。
新郎新婦が退場するときバージンロードを腕を組みながら笑顔で歩いてくる二人にあいもかわらず俺らはヤジを投げる。ちょうど俺らのところに二人がきた頃、天井から羽根が降ってきてムードもへったくれもない三井サンの「あ?なんだコレじゃまくせーなあ、チッ。」と空いた手で羽根を払い退けるその仕草にまたもダンナと木暮さん、今度は新婦である彼女までもが一緒になって呆れかえっていた。
「フェアリーウィングシャワーねっ!」
そんな連中をよそに晴子ちゃんは、落ちて来るその羽根を、楽しそうに掴んでいた。それを見た花道がこの瞬間だけは顔を真っ赤にして、今日の主役の彼女ではなく、まさかの晴子ちゃんを凝視して見惚れていたのには笑えた。
そして——その花道を横目に、何を思ったのか水戸は、満足そうに小さく微笑んでいたって話。
そんなこんなで、三井サンと名前ちゃんの幸せいっぱい笑顔いっぱいの挙式が無事に終わった。
披露宴まで、まだすこしだけ時間があったので皆で待合室で待つことにした。待合室まで向かっている最中も堀田が大号泣。お陰でずっと笑いに包まれていた俺らだったけれど不意に彩ちゃんが「結婚したくなっちゃったわー」なんて言うからもはや告白をぶっ飛ばしてもうさっさとプロポーズしちまおっかな、なんて考えてしまうくらいにとても、とっても幸せな挙式だった。
寄り添うふたりの幸せを願うように。寄り添うふたりの笑顔の日に晴れ舞台に立つ三井サンと、名前ちゃん。
そんな二人の胸にも、そして俺ら元湘北卒業生一同の胸にも、幸せの鐘が高らかと鳴り響いた、そんな素敵な、秋晴れの日の物語。
三井サン、名前ちゃん。
長い道のりだったかも知れないけど、ほんとにおめでとう。こんなに幸せな気持ちになれて俺もぜったいほかのみんなも感謝してるよ。末永く、お幸せにね。
……ってのは、披露宴の友人代表スピーチまで取っておくことにするよ。——ねっ?元サラサラロン毛の、クソ俺様で憎たらしくて偉そうで口が悪くて意地っ張りで、プライドだけ無駄に高くて俺様で偉そうな、共にバスケットで青春を染めた俺の大切な、大切なセンパイっ!
幸 せ
を
あ り
が
と う
(結婚してえぞぉ〜!!!)
(俺もだぁー!!!)
(俺もいますぐしてえ〜!!!)
(バカばっかりだ、まったく……)
※ image song『 永遠/BENI 』
※ Lyric by『 幸せをありがとう/ケツメイシ 』
前へ
2/2
次へ
Back
/
Top