旅立つあなたに恋文を(2/6)
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『新郎新婦様がメインテーブルへご到着でございます。皆様今一度大きな拍手をお願い致します』
主役の二人がメインテーブルに到着して揃って姿勢良く立ったままこちらに向かって一礼する。思わず俺と花道もぺこ、と頭を下げてしまった。あー、恥ずかし。
『——ただいまより寿様・名前様の結婚お披露目パーティを開宴とさせて頂きます。開宴に先立ち新郎、寿様より皆様にご挨拶でございます。』
スタッフが新郎のもとへマイクを持っていく。そんな新郎、三井サンだが、すました顔で紳士にマイクを受け取ったかと思った瞬間ガンッ!!と床にマイクを落っことして、会場にキーンという音が鳴り響くという失態をおかしていた。すると花道を含む和光中メンバーは安定で品のない声で爆笑をした。赤面しながらも、マイクを拾い直す新郎、三井サンの姿を、やれやれという効果音を放ちながら新婦である彼女が、横目に見ていた。
三井サンはコホンっ、とひとつ咳払いをすると姿勢を正して再度マイクを握り直し、真っ直ぐに前を見据えた。
「——本日はご多用の中、私達のために披露宴にお越しくださり心より感謝いたします。さきほど滞りなく挙式を行い、晴れて夫婦となりました」
緊張しながらもしっかりとウェルカムスピーチをやってのけるその様に、さっきまで騒いでいた花道たちも真剣な眼差しで三井サンを見ていて、なんだか、ぐっとくるもんがあった。
「これより夫婦としての道を歩んで行ける喜びとともに、責任の重さに身が引き締まる思いでございます。このような佳き日を迎えられましたのはひとえに皆様のおかげでごさいます。心より感謝申し上げます」
三井サンが一度頭をさげたことで会場に小さな拍手が飛び交う。それを見様見真似で俺や花道もパチパチと周りの人たちに倣って、手を叩いた。
「本日は皆様をお招きして感謝の気持ちをお伝えいたしたく、ささやかながらも宴席を設けさせていただきました。行き届かない点もあるかと存じますが、どうぞ楽しい時間をお過ごしいただければ幸いです」
ウェルカムスピーチを終えて今度は三井サンと彼女が揃って、深々と頭を下げた。盛大な拍手とともに二人が顔を上げてようやく席に座る。気が付くと目の前にうまそうな料理が並べられていて流川と反対側の俺の隣に座る花道が、目敏くも、耳打ちをしてきた。
「……りょーちん、ビール頼んだから飲もうぜ」
言ってるそばからビール瓶が運ばれてきたのでそれをしれっとコップに注いで、花道と一足先にこっそりとひと口飲んだ。しかし、なんとなくのノリでちらっと水戸たちに視線を向ければ、同じようにさっさとビールを飲みはじめていて、オイオイ、てめぇらと同類かよと思って愕然とした。
『それでは、ゲストの皆様を代表いただきましてご祝辞を頂戴したいと存じます。まずはじめに、寿様の恩師でいらっしゃいます、安西光義様よりお言葉をいただきます。』
尚もこそこそと酒を飲んでいた花道が司会者のその言葉に「ぬ?」と顔をあげた。そのとき俺のもとへ��友人代表スピーチ�≠�頼みに来たとき、「やっぱ先生にしたんだ、挨拶」と言った俺に、あの高校時代の先輩が「……しか、いねーだろ。どう考えても」と偉そうにもあたりまえのように言い返してきたのを思い出し俺は無意識に苦虫を潰したような顔をした。そんな俺をよそに花道が「いよっ!オヤジ!!」と言いそうになったのを俺が寸でのとこで「花道!」と小声で言って抑え込むと、ふいに三井サンと目が合った。まるで、「よくやったぜ」とでも言いたげに俺を見てウンウンと頷いているその姿に、苦笑いを浮かべる。
そんなことをやっているなか、安西先生が前に出てきて、マイクの前に立つ。歳取ったなあ、と先生を感慨深く俺が眺めていると流川や木暮さんたちも先生に熱い視線を送っているのに気づき、きっと同じようなことを考えているんだろうなと思ったら懐かしさが込み上げてきてほっこりしてしまう。
『それでは安西様どうぞ宜しくお願い致します』
安西先生が慣れた手つきで懐から和紙みたいな分厚い手紙を取り出して品よくその紙をめくっている姿を見たとき、やはりスピーチ原稿は綺麗で古風な用紙に書き直すべきだったかと考えあぐねたが、もう今さらどうすることも出来ないので、余計なことは考えないことにしようと、さっさと諦める。
「三井くん、名前さん、ならびに両家の皆さま、本日は誠におめでとうございます。
私
(
わたくし
)
ただいまご紹介にあずかりました、三井くんの高校時代のバスケットボール部の監督をしておりました安西と申します。」
安西先生が小さくお辞儀をしたことで会場内に拍手が起こる。しかし、俺たち元湘北メンバーの座る席だけはまるでバスケの試合中のタイムアウトのときみたいな、変な緊張感に包まれていた。
「本日はこのような華やかな席にお招きいただきましてありがとうございます。はなはだ僭越ではございますが、ひと言だけご挨拶させていただきたいと思います。」
花道は手に持っていた酒の入ったコップをテーブルに置き姿勢を正して先生を見やる。その姿を横目に見てこいつももう完璧な安西先生信者だなって、あらためて思った。
「��バスケット�≠ニ申しますと野球などの球技とはすこし異なり華麗な印象を持たれるものですが実際は他の体育会系と同じでありまして、学生は朝早くから夜まで体育館に入り厳しい練習をこなしながら部活だけではなく試験や、なかにはアルバイトなどをしながら、生活を両立する非常にハードな日常を送ります。」
今度はちらっと流川を見てみれば、ヤツもまた真っ直ぐに先生を見据えていて真剣に安西先生の言葉に耳を傾けている。こいつも、信者か——。
「三井くんは現在母校、湘北高校の教師としてはもちろん、バスケットボール部の顧問としても、活躍が期待されているエース教師とのことですが高校や大学を卒業してもプロのバスケットボール選手になれるのは、ごく一部です。その狭き門をくぐり、今でもバスケットボールに携われるのは本人の努力もありますがその礼儀正しさや丈夫な体はきっと、ご両親から受け継いだものではないかと思います。」
最後に元キャプテン・副キャプテンに目をやると、湘北バスケ部を支えた父と母の二人はなにを思っていたのかまるで昔を懐かしむような視線で安西先生をじっと見つめていた。
「またスポーツマンは周囲の理解や応援をなくしては、とても成り立つものではありません。三井くんには、ご家族や仲間への感謝を忘れてはいけないと伝えたいと思います。」
安西先生は手に持った祝辞の内容が書いているその紙から一度、視線を三井サンに向ける。三井サンは一瞬だけ目を見開いてはいたが、すぐに、それに返すようにひとつ大きくうなずいていた。
「バスケットというスポーツは、一人ではできません。一緒にコートを走り抜ける仲間や応援してくださる人たちがあってこそ成り立つものです。コートに立つ者、ベンチで支える者、みんなで、切磋琢磨していくことから感動が生まれます。」
オレは不意に、あの、山王戦を思い出す——。安西先生に言われた『宮城くん。ここは君の舞台ですよ。』という言葉が鮮明に蘇ってきて目頭が熱くなった。
「またスポーツはそのときの心の内が非常によく表れてしまうものですから健康で充実した日々を送らなくては、良いプレイを導き出すことはできません。」
ダンナと木暮さんは反射的なのか、先生のその言葉に大きくうなずく。そんな二人の姿が、高校時代のキャプテン、副キャプテンの面影を彷彿とさせた。目を瞑ったら体育館で二人が先生と話している情景まで容易に思い浮かびそうでもある。
「スポーツマンはとかく、非常識だと言われがちですので三井くんはご家族やお友達に迷惑をかけないよう、生徒の司令塔として、また一家の大黒柱として、しっかり務めてください。」
平常ならば、年配者の挨拶や堅苦しいスピーチなんかは早々に飽きてしまうものなのに会場内にいまスピーチを読み上げている安西先生とともに戦って来た戦友たちが多いからかなんだかその場が少ししんみりしたみたいな空気になっていた。
「——三井くん、」
ややあってから、三井サンのほうを見て言った安西先生のその呼びかけに、三井サンは思わず、「はい……」と返事をしていたのが俺の位置からでも、その口の動きで、はっきりとわかった。
「いろんなことが、ありましたね——。」
俺はその言葉に、体育館に土足で入って来た、サラサラロン毛時代の、先輩の面影を思い返す。それに思わず小さく自嘲したら、三井サンも同じことを思い出していたのか目を伏せてフッと浅く笑っていた。謎のシンクロに、さらに俺も笑えてくる。
「どんな人間になってもかまいません。優しくても利口でも。なりたいものになれても、なれなくとも。どんなに落ちぶれても、私は怒りません」
「……先生。」
「どんな人生でもかまいません。ただし、自分を好きと言える人間に」
「……、」
「自分にだけは嘘をつかないで、誤魔化さないで信念を持って、真っ直ぐに——」
「……っ」
「……洗脳、かも知れませんがね。私は、あなたたちを信じている——。」
安西先生の『
あなたたち
(
・・・・・
)
』という言葉に俺らの席、元湘北バスケ部のスタメンメンバーの全員が息を呑んだのが、静寂のなかでも伝わってきた。きっと三井サンと彼女に向けての言葉であることは明確だった、けど……買いかぶりかも知れないけど、俺たちにも向けて言ってるような気がしたから——。
「二十年後、なりたい自分を想像してください。未来を、想像してください、幸福な未来を——。それが私からの、最後の宿題です。」
名前ちゃんは優しげな眼差しで安西先生を見ていてこともあろうに三井サンは目を真っ赤にしていた。その眉間に力いっぱい皺を寄せている姿を見ると、油断をしたらいまにも泣き出してしまいそうなんだろうなぁと思った。あのひとって実は涙脆いとこあるし。
「素晴らしいパートナーを得てこれからまた三井くんが次のステージでどのようなシュートを魅せていくのか、楽しみにしていますよ。」
「せん、せい……っ」
「いつも朗らかで、優しく思いやり溢れるお二人ですのできっと温かい家庭を築きこれまで以上に仕事にも励んでくれる事を楽しみにしています」
「………はい、っ。」
三井サンはうつむきがちにそう返事をしながら小さく何度も頷いていた。そんな三井サンの姿をやっぱり優しい眼差しで隣に座る彼女が見つめていて、その二人の雰囲気は側から見ても、揶揄いなしに、とても温かくて素敵なものだった。
「——長くなりましたがお二人の輝かしい未来をお祈りしまして私のお祝いの言葉とさせていただきます。どうか、末永くお幸せに。」
安西先生が、マイクスタンドから横に移動して一礼したことで会場がまた拍手で包まれる。花道なんて両手を高く挙げて、スタンディングオベーションでもしそうな勢いで拍手をしていた。まぁうん。気持ちはめちゃくちゃわかるぜ花道……。
『——安西様、ありがとうございました。皆様を代表いただきまして、お祝いのお言葉を頂戴いたしました。』
いやいや……代表どころじゃねーっしょコレ。俺でも額に飾っておきてえ言葉だっつーの——。
鳴り止まない拍手の中、安西先生が自分の席に着くと、先生と一緒の卓に座っていた現、湘北の先生らがぺこぺこと頭をさげていて、安西先生はそれに対しても謙虚に振舞っていた。その姿に、歳を取ろうともやっぱりその貫禄にはさすがだななんて思った。
*
『さて、皆様のグラスにも乾杯酒が整ったようでございますのでこれよりは乾杯へと進めてまいりたいと思います。本日乾杯のご発声を頂きますのは湘北高校の校長先生でいらっしゃいます……』
その司会の人の声を聞き流して、花道があたりまえにボソッと「すくねえ」とぼやいてスタッフから注がれた酒の入ったコップに、ついに自分で酒を継ぎ足しはじめて笑った。
『——それでは皆様、恐れ入りますがご起立の上グラスをお手元にご用意ください。』
司会の進行に従って、座っていたゲストたちが席を立ち上がり始めたので俺らもそれにならって席を立つ。そんなことをやっているうちに乾杯を頼まれたらしい、湘北の現、校長先生がマイクのまえに移動して来たのが視界に入る。
「……ええーと、今日はあえてこう呼ばせてもらいます。ミッチー先生、それに名前さん。本日は本当におめでとうございます! 乾杯っ!」
本来ここは形式上というか、かたちだけなので周りの人たちはひと口だけ飲んでグラスを置き、拍手をしている。が、そんななか花道は、一気にコップの中身を飲み干してしまい「バカモノ!」と、ダンナからの鉄拳を食らっていた。
『ゲストの皆様もありがとうございました。皆様どうぞご着席くださいませ。さてこれより皆様のテーブルに並びますお食事、お飲み物は、お二人から大切なゲストの皆様へのおもてなしでございます。どうぞごゆっくりとお寛ぎくださいませ』
その言葉も待たずに、目の前の食事にがっつく花道を、もはやダンナは呆れ返って見ているし、そんなダンナを木暮さんが昔みたいに「あ……、赤木、まあまあ。なっ?」と、なだめていたのであった。
*
花道の飲むペースに押されて序盤なのにも関わらず俺は、けっこう酔っぱらってしまっていた。三井サンたちの席は、色んな人たちが行き交っていてゆっくり話せそうにもなかったのでダンナや木暮さんはタイミングを見計らっていたようだが俺は別にわざわざ行かなくてもいいかな、なんて思っていた。それでもなぜか、何回も三井サンと目が合ってしまい、お互いに気まずく目を逸らす仕種がまるで「
元カレ
(
・・・
)
かよ」って、思わず自分で自分につっこみを入れたくなるほどだった。
『それではこの辺でお二人のプロフィール紹介をさせていただきます。』
わいわいと騒がしく会場内が盛り上がっているなかマイクを通して司会者のそんな声が聞こえて来た。きっとこれが、親戚かなんかの結婚式だとしたら、あたりまえに聞き流すことの多い、このシチュエーションにも自然と耳を傾けていたのはやっぱり元湘北のメンツだった。
『新郎、寿さんは5月22日、三井家の長男として神奈川県で生まれました。4000グラムの大きな赤ちゃんで、ミルクの早飲みが得意。その頃から食いしん坊だったそうです。』
三井サンが不思議そうに司会者の声に聴き耳を立てている。それに気づいた彼女が隣でこそっとなにかを三井サンに耳打ちをしているその姿が、なんとも微笑ましい。きっと「プロフィール読んでるみたいだよ」とかそんなことを耳打ちしたんだろうなと思う。なんかいいなー、ああいうの。三井サンのくせしてさ、と流石の俺でも嫉妬してしまうくらいに、羨ましい光景だった。
『幼い頃からバスケットが大好きでお父様に買ってもらったバスケットボールを大切にしていて、名前さんやお友達にも貸さないほどでした。いまでも高校教師としてバスケットボール部の監督を自ら志願し、職業にしてしまうほどにバスケットボールへの愛は変わりません。』
俺が「これって、事前に用意すんのかね?」と誰に問いかけるでもなく口にしたとき聞こえるか聞こえないかの声量だったにも関わらず、丁寧に返してくれたのは、やっぱり木暮さんだった。
「一応な。けどほとんどは司会者と新婦でさっさと決めちゃうらしいぞ?」
「へえー。まぁ、だよなぁ。男なんて、ここまで細かくやんねーもん、ぜったい。」
そう言って俺は空になっていたコップに自分でビールを注ぎ足す。そんな俺に木暮さんはいつものように、アハハと苦笑いをしていた。
『地元の小学校、中学校に通い目立つのが大好きで、本人曰くクラスの人気者だったそうです。』
「うそつきー」と俺が口元に手を添えれ叫べば三井サンが「うるせえ!」とすかさず言い返してきてもはやお決まりみたくなっているこの流れが今日に限っては、ちょっと楽しいかもと思えた。
『中学三年生のとき本日もお越しの安西様と出会い感銘を受けた寿さんは湘北高校バスケットボール部に入部。毎日、必死に練習に励みました。』
俺が「かつての混乱時代のことは言うんスかねー?」と揶揄うような口調で問うと、木暮さんとダンナが苦笑いを浮かべる。しかし、ややあって木暮さんが「言わないよう、お願いしてるだろうなぁ、きっと。」と、情けない声でつぶやいた。
『バスケットはチームプレイなので仲間を大切にすることやチームワークを一番に考えていたそうです。』
また俺が「チームワークなんて、一回も言ったことねえのに、あの人」なんてぼやくとダンナが「まったくだ」と同調して腕を組み鼻を鳴らす。
『高校三年間、真面目に部活動に取り組んでいたので勉強がおろそかになってしまい三年生の頃には赤木さんや木暮さんにはいつもノートを見せてもらったことを大変、感謝しているそうです。』
それにはぎょっとして俺たちの卓の全員が顔を見合わせる(なお流川以外)。そして、いちばん最初に言葉を発したのは、やはりダンナだった。
「三年間、なのか……?」
「三井サン、三年間やってたことになってらぁ」
「どあほう……」
ダンナのあとの俺と流川の言葉に、木暮さんが慌てて「休部だったから!まあ、やってたことになるんだろうなっ、あはは。」と、付け加えた。そんな木暮さんの焦る様子を見て、俺とダンナと流川が三井サンを見やると「あ?」となんのことなのかマジで分からないような間抜けな顔を返してきて自然と三人でやれやれと首を横に振った。
『大学卒業後は湘北高校の教師になり、優しくもあり、厳しい姿を慕う生徒もたくさんいるそうで愛称は『ミッチー』で、親しまれております。』
案の定、どっ!と会場が一瞬ざわつき、花道と元和光中のメンバーが「ミッチ〜!」とそろって野太くも、黄色い声をあげる。それに三井サンが一気に赤面して「やめろっ!」と席に座ったまま大声で怒鳴っていた。
『名前さんとの再会は寿さんが高校三年生の春、名前さんが、湘北高校へ転入してきたことがきっかけでした。今日のこの日があるのも、ご両親がしっかりと高校まで通わせてくれたおかげだと、お二人とも感謝しております。』
つづく新婦側のプロフィールをBGMに、新郎新婦の席を見やれば、ちょうど二人のところに、彩ちゃんと晴子ちゃんが出向いていて木暮さんがそれを見かねてシャッターを押しにいったあたりやっぱり気が効くなあと感心しながら見ていた。
『寿さんから見た名前さんの第一印象は『笑顔が素敵な人だなあ』名前さんから見た寿さんの第一印象は『あかるくてやんちゃな子だなあ』と思ったそうです。」
俺が思わず「はじめから、べた惚れでしたって言えばいいのにさー」と嫌味っぽくつぶやくと、花道のとこに来ていたらしい水戸に「はははっ、ちがいねーな!」とつっこまれた流れで、水戸と二人して顔を見合わせて笑った。
『時を経てもお互いに安らげる人だと思い二人で明るく笑顔の絶えない家庭をつくって行きたいと仰っておりました。以上、誠に簡単ではございますが、お二人の、プロフィールを紹介させていただきました。』
流川が安西先生のところに行ったので、空いたその席に水戸が腰をおろす。そして慣れたように俺に向かってビール瓶を翳す仕種に面を食いながらも、俺はおろおろとコップを差し出した。
水戸の店にはよく行くほうだし酒をともにする機会だって増えたけど水戸は店側の人間だし酒を注いでもらうなんてなかったもんな、と。こともあろうに後輩に、しかも、あの水戸洋平から酒を注いでもらうなんて夢にも思ってなかったので、なんだかとても、不思議な気分だった。
「すげー酔ってるでしょ?宮城さん」
「あ、えっ? わかる?」
「顔、真っ赤だもんな。」
そう言った水戸がへらっと笑ったその表情が、高校時代に見たものとまったく変わり映えのないことに、あらためてどんなに大人びてもそういうところは変わらず��不良少年�≠フままなんだなぁなんて何故か感心してしまった。けれどそのまま相手にその事実を伝えるわけにもいかず俺は頭をポリポリとかいて、誤魔化すしかなかった。
「スピーチ、やるんだろ?」
「へっ?」
「みっちーの、友人代表で」
突拍子もなく水戸からそんなことを問われて、「あー、うん。まあな」と短く返事をしたあと、ふと思い立って、急いで聞き返す。
「——え、なんで知ってんの?」
「さっき、番長が嘆いてたぜ?俺んとこにお願い来てくれなかったーって」
「……」
「じゃあもう残りは、一人しかいねーよなって、思っただけさ」
飄々と言う水戸に苦笑いを向けて今度は俺からビールをつぎ返してやれば水戸はやっぱり淡々とそれに応える。俺なんかよりよっぽど大人っぽい振る舞いのその姿に居た堪れず、気まずくなる。
「……行かねーの?みっちーんとこ」
「え?……あー、なんか混雑してっからねえ」
「ふうん、あ。でもなんかわかる気がするぜ?」
「へっ? なにが?」
水戸はだらしなく流川の椅子の背もたれに片腕を投げて他の人たちと楽し気に談笑している三井サンと名前ちゃんの座っている新郎新婦席の席に視線を向け遠くを見るように目を細めて言った。
「あそこに座ってんのが花道だったら俺たぶん、ずーっと喫煙所にいるよ」
「え……?」
「なんか、感慨深くなっちまう、きっと。」
「……」
「そーいう、感じだろ?」
眉毛を下げへらっと笑って言った水戸はやっぱり高校時代のあの頃と同じ雰囲気のままだった。
俺はつい言葉に詰まる。そんな俺を見て水戸はさとしたように、フッと小さく笑っていた。
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