旅立つあなたに恋文を(3/6)

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    『——さて、ここからのお時間はゲストの方にもご登場いただき、お二人へのお祝いをいただいてまいりましょう。』

     花道や水戸と楽しく酒を飲みながら会話を交わしているとまた司会者が前に出てきて何やら進行をしはじめたので反射的に司会者の方を見やる。

    『まずはじめに寿さんの後輩で名前さんとは高校時代の同級生でいらっしゃいます宮城リョータ様どうぞ、宜しくお願い致します!』

     急に名前を呼ばれたことに、思わず飲んでいたビールをブハッ!と噴きそうになった。しかし、会場内はさらに騒がしくなって拍手が沸く始末。キョロキョロと辺りを見渡す俺に水戸が「ほら、行ってこいよ、みっちーの親友。」なんて揶揄いながら促してくる。次いで花道が「いよっ!りょーちん!」とバカでか声でヨイショしてきてこの辱めを三井サンは、今日一日中ずっと受けていたのかと思ったら、ほんのすこしだけ反省した。

    「——えっ、もう?早くね?」

     と、席に座ったまま慌てているあいだも水戸らに急かされて、渋々と言った感じで立ち上がる。そうして、正面のマイクスタンドが設置してあるところに向かう最中、司会者は淡々と三井サンと俺の馴れ初めを語っていた。

    『——新郎、寿さんとは高校では先輩後輩、またバスケットボール部と部活も一緒で他の部員の中でも常に二人一緒に行動していたことから周りからは『付き合っているの?』と、疑われたことがあるくらいに仲がいい親友、もとい戦友です。』

     会場内に『付き合っているの?』のくだりで、どっと笑いが起きる。いつもなら「付き合うわけねーだろ!」と、すかさず啖呵を切りそうな場面でも今日の寿は正面に向かって歩いてくるリョータくんの姿を、なんだか嬉しそうに眺めていた。

    『バスケットボール部の時代は寿さんがシューティングガード、宮城様はポイントガードでした。これからの長い人生においても『たくさんパスを出してくれよな』と、寿さんからのメッセージです。それでは宮城様、よろしくお願い致します』

     リョータくんが照れながらマイクの前に立つが顔は珍しく真っ赤でそうとう飲んでいるんだろうなと、誰が見てもわかるほどだった。そんな寿も今日はかなり飲まされていてすでに顔が赤かったので、まぁ……、おあいこというところだろう。
     そんな寿はリョータくんに向かって「ちゃんとやれよー」なんて、いつも通りにヤジを飛ばしている。

    「ええーっと……三井サン、名前ちゃん、結婚おめでとうございます。あーご両家並びにご親族の皆様も、本日は誠におめでとうございます。ただいま紹介に預かりましたぁ、宮城リョータと申しまーす。どうぞ、よろしくお願いしまーすっ!」

     一度マイクから横に移動し、大きく頭を下げたリョータくんに会場は拍手と共に桜木くんたちのヤジや指笛が飛び交っていた。

    「えーっと、ですね。このあと新婦、名前ちゃんのスピーチを暗記でスラスラと読むであろう彼女の親友みたくは出来ねーんで自分は三井サンとの思い出を思い出しながら紙に書いてきましたっ」

     そう言ってリョータくんはややくしゃくしゃになった封筒を胸ポケットから取り出し翳してみせる。ここで会場内は謎の「おぉー」という歓声が上がる。その正体はもちろん堀田先輩や水戸くんたちで、それでもリョータくんは突っ込むこともなく、ガヤ芸人の彼らに今日だけはご満悦な様子だった。

    「ええ〜、ここでは三井サンに『絶対にふざけんなよ!』と釘を刺されてたんスけど、いつも通りやらせてもらいますんでとりあえずガッツリ紙を見ながら読ませてもらいまーすっ!」

     ピューピュー!と、なおも堀田先輩たちの席のほうから指笛が鳴り響く。

    「えっ、と、まずは……三井サン、名前ちゃん。あらためて、結婚おめでとう。」

     そう言ったあとにリョータくんがこちらを向いたので寿とふたりで軽く頭をさげる。さっきまで盛り上がっていた会場内も一気に静まり返った。

    「三井サンと僕は高校時代、一年間だけの顔見知り程度です。なので親友ではありません!ただの高校の先輩です!司会者さん、そこ訂正よろしくお願いしやすっ!」

     またもや一気に会場がどっと笑いで沸き不意に隣を見れば寿が不機嫌そうにして小さく舌を打ち鳴らしていたので私も思わず笑ってしまいそうになった。

    「三井サンはよく一年ンときのお前のバスケスタイルは、ほんとワンマンだったよな〜としつこく話してきますが、僕は一年生のとき、三井サンのことを知りません。それでも楽し気に肩を組んで話しかけてくる三井サンには、そのことをずっと言えませんでした」

     水戸くんが「いいぞー」とヤジを飛ばす。それに合わせて桜木くん含む桜木軍団もガハハハ!と大声で笑う。そのおかげで誘い笑いが起き、ちらほらと、他の席からも笑い声が聞こえてきた。

    「ねえ、三井サン、教えてもらっていいスか?」

     急なリョータくんからの問いかけに、寿は未だ不機嫌なまま「あ?」と素直に口に出して返していた。その流れにも、会場内に笑いが起きる。

    「なんで僕の高校一年生のときのバスケをやっている姿を、知ってんでしょーかぁ?」

     そう問いかけるように言ったリョータくんに、会場がまたどっと沸く。途端に寿は気まずそうに面を食らったあと、いつもの癖で後頭部を掻いていた。

    「三井サンを知ったのは僕が高校二年、三井サンが三年生のときです。い・ろ・い・ろ!あって」
    「ガハハハ!」
    「三井サンがバスケ部に復帰後、すぐに一丁前に彼女を作りやがりましたがそのときの彼女が実はいまその隣に座っている、名前ちゃんです。」
    「おぉー!」

     と、元湘北のお調子者たちや、寿の大学時代の友人、職場の湘北高校の参列者からの声が会場内に響く。それに対してちらっと私を見やるリョータくんのしてやったりな顔に私はクスッと笑みをこぼした。

    「部活の休憩時間にお互いの好きな女の子を語り合ったのは、不覚にも三井サンが初めてでした。なんで三井サンなんかに相談したのか、自分でもよくわかりません」

     あいかわらず会場が賑やかな中、ちらっと寿を見れば、今度は私に対して睨みをきかせながら、「あ?」と返して来たが、それがすぐに照れ隠しなのだとわかった。だからこそ、なんだか今日はその憎たらしい仕種さえも、可愛らしく見えた。

    「こっからは一人称を『俺』とさせてください。あと相手に関しては、彼女の名誉もありますんで『A子ちゃん』と、呼ばせてもらいます。」

     途端に、珍しく今日はすこし酔っているのか、いつも以上にテンションの高い桜木くんが「彩子さん!!」と言って彩子を見やる動向にみんなが彩子に視線を向けた。彩子はそれにぎょっとしている。

    「俺がAちゃんを好きなのは、バスケ部みんなが公認だったのにも関わらず、なんも知らねーで『おまえ、もしかしてA子が好きなのか?』と、聞いてくる三井サンが仲間はずれ感満載で不憫でならなかったっス。」

     桜木軍団がガハハハ!と涙を流して笑いながら「ぃよっ!アネゴ!」と、ハモる。それに対して彩子は「よしてよ!」と、小声で赤面していた。

    「彼女が好きなんだと打ち明けた次の日『お前が好きなA子なんかよ意識しちまって可愛く見えてきたわ』とふざけたことを抜かして来て可愛いっしょ?と言い返しましたが内心うわー引くわーと思ってました。」

     会場の止まない笑い声に反してリョータくんのスピーチのお題にあがっている二人、彩子と寿が面を食らっていて、その姿に私も思わず、品なく「ぷっ!」と吹いて、声を出して笑ってしまう。

    「そして俺は忘れません——三井サンがスポーツマンらしからぬサラサラロン毛ヘアーだったあのときその俺の想い人を『オレも好みだ』と言ったことを。ご両親には申し訳ねーですけど末代まで呪ってやろうと思ってますんでっ!」

     寿の両親が座る卓の方に体を向けて言ったリョータくんに寿のお父さんとお母さんが立ち上がりノリよく素直に深々と頭をさげるので、会場内がまた笑いに包まれる。
     リョータくんは苦笑いしながら「大丈夫っス、座ってくださいっ」と丁寧に二人に促したあと、またマイクに向かって先をつづけた。

    「そんな三井サンは、彼女の名前ちゃんがいるくせに県予選後は、なぜかずっとモテてました」

     ヤジるメンバーの「ひゅーひゅー」という声に寿が得意のドヤ顔をする。どうせリョータくんの言った「モテてました」のワードで調子に乗ったのだろうとすこしイラっとして、心の中で思わず舌打ちをした。

    「三井サンは中学時代の財産だけでバスケをやってた分際でバスケセンスは抜群。陰では人気者のそこに座っている世界の流川を差し置いて��三井親衛隊�≠ェ設立されるほどでした、目の上のタンコブのくせして……。」

     赤木先輩が腕組みをしながら大きくうんうんとうなずいていてそれを見た寿が「ぐっ、赤木…」と小声で唸っていた。赤木先輩がうなずいたのはリョータくんが言った、��目の上のタンコブ�≠フ部分だろうと思う。いや、もしかしたら��バスケセンスは抜群�≠フ部分かも、しれないね……?

    「俺の学年、二年生の半数くらいの女の子たちが三井サンのことを好きだった時期があり『これを総なめ、と言うのよ』と、保健室の先生が教えてくれました。」

     大楠くんや高宮くんが「あーあのババアか!」と言い保健室の先生を思い出して耳打ちし合っている姿がここからでもはっきりと見えた。そして現、湘北の先生たちのなかにも、当時の保健室の先生を知っている人たちがいたらしく顔を見合わせて微笑んでいるのが見える。

    「心と体に傷のついた男子はね、モテるのよ?とわけのわからない持論を語られたとき俺のバスケセンスに嫉妬して、ぼっこぼこに俺をぶん殴った
    ……ああ、すんません。えーっと、あ、躾をしてきた三井サンのバッシュを、仕返しにいつか絶対隠してやろうと密かに目論んでました。」

     ついに出た桜木くんの「いよっ!女男っ!」のヤジに合わせて桜木軍団もそれに安定で乗っかり「いよっ!女男〜っ!」と、しっかり復唱する。もはや寿はやれやれと溜め息しか出ない様子だ。

    「三井サンは自分では否定しますが多分すっげー天然で練習中にダンナから愛のゲンコツをくらってる花道を見てあのあたりには急所があるからなあと1cmずれてたら桜木死んでたぜ、と真面目くさって言い張ってましたが、多分そんなんで死なねーしと、思ってました。」

     今度は赤木先輩と桜木くんに視線が集まり二人が言葉に詰まって「ぐぬっ」と、仲良く赤面していた。寿は隣でぼそりと「ざまーみろ」なんて、つぶやいて、勝ち誇ったような顔をしている。

    「三井サンたちの卒業が翌月に迫っていた二月、なぜかバレンタインデーに女子たちからたくさん話しかけられました。」

     桜木軍団の「いよっ!二代目キャプテン!」という酔っ払いのオヤジノリみたいなテンションにさすがのリョータくんも「うるせえ!黙って聞いてろって!」と、そこは元キャプテンらしく突っ込んで、会場がまた笑い声に沸く。

    「三井先輩どこ?これ三井先輩に渡しておいて、終いにはこれ三井先輩に渡す勇気がないから宮城にあげる!とまで言われる始末であの人体力ねーし大事な試合中ぶっ倒れるし、どこがいいの?と聞きそうになったのを飲み込んで、ありがとう!と受け取りました。そのことを今ここで初めて、三井サンに打ち明けてます。受け取ったぶんは、俺が、きれいさっぱりぜんぶ食いましたんで!」

     桜木くんが「ズル!俺食ってねえ!」と言ったとき隣に座っていた赤木先輩がついに痺れをきかせて桜木くんに鉄拳を食らわせた。一番前の卓の目立つ位置で、そんなコントまがいなことが繰り広げられているのだから、ゲスト全員の目にその光景が派手に晒されてしまい、安定で会場にまた笑いが起きる。赤木先輩は「すみません」というように座ったままで頭をペコペコと下げていた。まるで、高校時代のワンシーンだ。

    「名前ちゃんにひとつ、気を付けてもらうことがあるとするならば海外旅行です。三井サンはダンナにも木暮さんにも内緒にしてますが英語のテストを全てフィーリングで乗り切ったという伝説をもってるんで、英語が必要な場面ではぜひ助けてやってください。」

     赤木先輩と木暮先輩が一緒になって、ギロっと寿を見やって、それを正面から受けた寿が「もう勘弁してくれよ……」と、撃沈していた。

    「名前ちゃんの存在が三井サンを支えていたのはまぎれもねえ事実ですが、そんな二人にもみなさんが知り得ないロミオとジュリエット時代がありました。」

     終始、笑いに包まれていた会場内が突如シンと静まり返る。その雰囲気に気圧されて、私と寿も自然に背筋がピンと張った。

    「昔からバカみてえに真っ直ぐすぎる三井サン。どうやら諦めの悪い炎の男らしいんで名前ちゃんを幸せにしてくれることは間違いねえです。名前ちゃんも安心して三井サンを頼ってください」

     リョータくんのスピーチが、一気にしんみりとしたものに変わった。そんな空気のなかリョータくんが手に持っていた便箋の今から読むであろう先の文章を自分で見返すように目をちらっと動かしたのが見えた。そうして、なにかを思い出したみたいに彼は、小さく笑った——気がした。

    「——インターハイで絶対王者、山王工業に勝てたのは、三井サンあってのことでした。」
    「……宮城。」

     ぽつりと小さく後輩の名をつぶやいた寿の声のあとに会場を見渡せばヤジを飛ばしていた人達もみんな静かにリョータくんのスピーチに耳を傾け思い出を懐かしむような優しげな視線をリョータくんに送っていた。リョータくんは、手に持っていたくしゃくしゃの便箋を、乱暴にジャケットのポケットにしまうと、コホン、とひとつ咳払いをしてから、私と寿のほうを真っ直ぐに見据えた。

    「三井サンがいてくれてよかったって、いまでも俺を含む湘北バスケ部OB全員が思ってるんで」
    「……、」
    「今度は三井サンが名前ちゃんに『ずっとそばにいてもらってよかった』と思ってもらえるような男になってください。」
    「……リョータくん」
    「最後になりましたが……三井サン、」

     リョータくんが今度は寿だけを見据えたことに寿は不思議そうにしてリョータくんにその視線を返していた。

    「——よかったね、名前ちゃんと結婚できて。」

     寿は一瞬、目を見開かせてからフッと鼻で笑い小さな声で「……ああ。」とつぶやいて、そっと静かに微笑んでいた。

    「今日は本当におめでとう。末永く……お幸せにねっ!!」

     その言葉締めの後にリョータくんが一礼すると会場内が、拍手と指笛で沸き上がった。私と寿もしっかりとリョータくんに、感謝の拍手を送る。

    『ありがとうございました!宮城様よりお祝いのお気持ちを頂戴いたしました。』

     リョータくんが席に戻る間も拍手が止まず寿も笑顔で手を上げて拍手を送り続けていて、後輩を慈しむような、そして、とっても嬉しそうなその横顔に、ほっこりとした。

    『続きまして寿さんとは高校時代、部活のマネージャーとして、名前さんとは高校からの親友でいらっしゃいます彩子様、どうぞ宜しくお願い致します。』

     俺が席に戻ると卓のみんなが「よかったぞ」とか「おつかれ」や「笑わせてもらった」と労いの言葉をかけてくれてなんだか素直に嬉しかった。
     彩ちゃんを迎えるようにパチパチと拍手が鳴っているなか、座ってる席からチラっと三井サンを見やればなにやら口元が動いている気配。どうせ「バーカ」とでも言われるのだろうなと思いつつその口元の動きを解読してみたら——まさかの、「サンキュ」と言っていたようで、がらにもなく照れてしまった。

     けれどそれが本人にバレるのはゴメンだと思い口パクで「ハイハイ」と言いながら面倒くさそうな演技で手をヒラヒラ振って余裕のフリをしたがこういうときこそ素直に気持ちを伝えた方がいいんだよな〜ほんとは、と、恥ずかしさなんて捨て去ってやって、思い切り両手で○マークを作ってやったって話。

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