旅立つあなたに恋文を(4/6)

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    『ここで新婦様はお色直しのためご中座をさせて頂きます。それでは、ご一緒にエスコートをしてくださる方をお呼びしたいと思います。赤木晴子様!こちらへどうぞ』

     サプライズで名前を呼ばれた晴子ちゃんにライトが当てられるとはじめは本人も驚いていたけどすぐに嬉しそうに照れながらも満面の笑みでスタッフにエスコートしてもらい、前の方へと歩いてくる。隣で「晴子さん……」となぜか花道が赤面していたのが笑えた。

    『それでは新婦様と赤木晴子様がご一緒にご中座です。皆様、拍手でお導き下さい。』

     拍手が送られるなか、仲睦まじく名前ちゃんと晴子ちゃんが会場を出て行ったあと『続きまして新郎様をエスコートをしてくださる方をお呼びしたいと思います』という司会者の言葉にみんなが興味津々で誰が選ばれたのかと胸を躍らせる。

    『赤木剛憲様、堀田徳男様!こちらへどうぞ』

     まさかの選ばれたその二人の名前に、俺ら後輩チームがダハハ!と手を叩いて爆笑する。会場に笑い声がこだまするなか、ただのでっけえ男衆のかたまりが中座して刹那、会場内がすこし静かになった。

    『——皆様、新婦様・新郎様の再入場までご歓談ください。』

     司会者のその合図と共に水戸たちの席の連中は一服のためか、こちらも仲睦まじく会場を大勢でぞろぞろと出て行った。
     俺もここで一応トイレにでも行っておこうかと思い立ち会場を出ると袴姿の三井サンが見えた。ついさっき一緒に出て来た堀田とダンナと話したあとだったのか、堀田とダンナが会場内に戻っていく後ろ姿に軽く手をあげて見送っている。なんだか気まずかったのでしれーっと三井サンの横を通り過ぎてトイレに向おうとした瞬間、案の定、「オイ、宮城っ!」と背後から声をかけられて、仕方なく振り返った。

    「……なに、トイレ行きてーんだけど」

     ぶつぶつと、くぐもったようにつぶやく俺に、「もうすぐ俺も着替えに行かなきゃなんねーから少しだけ付き合えよ」なんて言う新郎様に俺は、文句を垂れつつも、近くにあったソファに二人で腰を掛けた。

    「……だいぶ飲んでんな」
    「三井サンもね……」

     なんとなくそれ以上お互いに言葉が出てこず、二人して目を泳がせたりしていた。その間もお手洗いに向かう女の子たちの楽しそうな会話とか、式場のスタッフの明るい声が、俺たちのあいだを無情にも通り抜けていく。

    「——さっきの、」

     沈黙がつづくなか三井サンがぽつりと言った。俺はゆっくりと視線を三井サンのほうに向けて、「え?」と腑抜けた調子で返す。

    「あの……スピーチの原稿」
    「うん」
    「もういらねーなら……その、もらっていいか」
    「え」

     ぎょっとして思わず三井サンを凝視する俺に、「な、なんだよ……」と言ったあとメンチを切る元ヤン先輩。しかし、眉間に皺を寄せたその顔が高校時代の元ヤン上がりのまんますぎて、思わず吹き出してしまった。そうして俺は半笑いのまま言い返す。

    「いや、欲しい?あんなの」
    「……まあ、記念にな。」

     そう言い切られてすこし躊躇ったあとに俺は、ジャケットに突っ込んだままでいたぐっちゃぐちゃの封筒を取り出した。だが「いやぁ……」と、渡すまえにやっぱりなぁと思いとどまる。そんな様子の俺に、今度は三井サンがきょとんとして、「あ?」なんて腑抜けた感じで聞き返して来た。

    「うーん、やっぱ恥ずかしーからいいよ」
    「は?」
    「……捨てるし、これ」
    「いいって!……ホラ」

     そう言ってそっぽを向きながら手を差し出してきた三井サンに、俺は小さく唸ったあと溜め息をつきながら仕方なくその封筒を手渡した。渡したあとやっぱり無性に気まずくてとりあえずなにか言わなきゃなと、必死に話題を探した。

    「——そうだ。綺麗だねー」
    「え?」
    「名前ちゃん」
    「あ……ああ、うん」
    「よかったねー、結婚まで漕ぎついて。マジで」
    「漕ぎついてって、お前なぁ……」

     やっぱり今度は三井サンが溜め息を吐く番だった。それを見て鼻で笑った俺を見たあと三井サンがすこし遠い目をしながら「あのよ、」と言葉を繋げたので珍しく憎まれ口を叩いてこない先輩を不審に思う俺。しかしつづいた言葉は、なんとも予想外の台詞だった。

    「ありがとな、マジで」
    「——え。なに……? 怖えーんだけど」
    「いや、お前らがいてくれて、その……」
    「……う、うん?」
    「ほんと、よかったよ」

     会場の扉が開閉されるたびに会場内の賑やかな声や音が、ここまで聞こえてくる。
     俺が「よいしょ!」とわざと声に出してソファから立ち上がれば、三井サンの視線が俺を追ってくるのが目の端に映って見えた。

    「まあ……こっちも?ウソじゃねーからね」
    「あ……?なにが」
    「アンタがいてくれてよかった、ってやつ」
    「……。」
    「——じゃ!俺、トイレ。漏れそうだし!」

     そう言って三井サンには背を向けたまま俺は、トイレをめがけてダッシュした。——まぁ、でも照れ隠しっつーのは、本人にバレバレだったんだろうけど。だって恥ずかしすぎてその場にいられなかったから……。ごめんね、今日は許してよ、センパイ。


     *


    『——皆様、大変長らくお待たせいたしました。装い新たな新郎新婦様を、会場にお迎えしたいと思います。』

     ……花道がまぁ、飲む飲む。ほんっとに飲む。しかも、顔色ひとつとして変えねえで。とはいえ俺も調子に乗ってそれに付き合っていたお陰で、もうほんといい気分でこのまま帰り道に彩ちゃんに告白しよーかな〜なんて思っちゃうくらいには上機嫌だった。

    『——新郎新婦、入場です!大きな拍手でお迎えください!』

     でも気分がいいのは、酒の力だけじゃなくて。先輩と親友が、今日はずっと幸せそうにしているから。まるで高校時代の頃のような、キラキラとした笑顔で笑い合っているからなんだろうなって自分でもわかってっけどね。そんなこと、恥ずかしいから、ぜったい本人たちには言わないけど。

    『新郎新婦のお二人が皆様のテーブルへご挨拶に伺います。』

     入場曲と共に扉が開いて、二人が入って来た。新郎は挙式のときとは異なるタキシード。新婦は華やかなカラードレス。きっとこれを選んでいるとき二人で喧嘩をしながら決めたんだろうなって容易に想像ができた。たぶん、水戸たちや、他の連中もそうだろうと思う。

    『——お二人がテーブルへ伺いましたその際には皆様お二人を素敵な笑顔で囲んで差し上げてください。』

     鳴り止まない拍手が送られるなか、新郎新婦の二人が、ゲストの座っている各卓を回る。最後が俺たちの卓だったみたいで盛大に花道とヤジったあげく他の卓よりもたくさん新郎新婦と卓のメンバーみんなで一緒に写真を撮りまくっていたら、司会の人に丁寧な言い回しで早い話が「もうそのへんでやめろ」と促されて、みんなで笑った。

    『皆様にご挨拶をさせていただきましたお二人をメインテーブルにお迎えいたしましょう。』

     二人がメインテーブルに向かって歩いて行って段差を目の前にしたとき三井サンが彼女を慣れたような仕草ですんなりとエスコートしている姿に初めてあの人をちょっとだけかっけーと思った。たぶんオレ、酔ってんだな、うん。

    『——ここからのお時間はお二人にも少しお寛ぎいただきながらお過ごしいただきましょう。』

     二人が拍手に包まれる中メインテーブルの席についた。花道はビールに飽きたのか一丁前にワインをジュースみたいに飲んでいて、さすがにそのザルっぷりには唖然とするしかなかった。

    『新郎新婦とご歓談されたい方は是非メインテーブルへお越しください』

     その司会の言葉を待って木暮さんから「宮城、行かないか?俺たちも」と言われて、すこし言い淀んでから俺は「いやぁ」と、断りを入れ言葉をつづけた。

    「あの、さっき……外でちらっと話したから俺は大丈夫っス。」

     木暮さんは「そうか?」と言い置いて、ダンナとか流川、花道をつれて、三井サンたちのとこに向かって行った。
     なぁ、水戸——。お前の推理、大当たりかも。なんかオレ、やっぱ行けねーや……なんつって。


     *


     しばらく会場内が緩く歓談していたころ司会者がまた前の方に出て来たのを目敏く見ていた木暮さんが「そろそろ、メーンイベントかな?」と、つぶやいたので首を傾げつつ、俺も司会者の方を反射的に見やる。

    『これより、新郎新婦様には大切なセレモニーを行っていただきます。』

     それを聞いて木暮さんの言葉の意味を理解している中、花道が「ぬ?何すんだ?」と聞いて来たので「晴子ちゃんとの予行練習のためにちゃんと観察しとけよ?」と耳打ちをしたら、酒を飲んでいたときは顔色ひとつとして変えなかった花道が一気にそのトレードマークの髪の毛と同じように顔を真っ赤にした。

    『それではケーキ台の前へご移動頂き、お二人によります、ケーキ入刀、ファーストバイトを行いたいと思います!』

     もはや、スタッフから頼まれたのかと思わしき効果音のごとく堀田や水戸たちの座る卓一同と、赤面から通常運転に持ち直した花道が、場を盛り上げるように「待ってました〜」と声をあげる。

    『皆様、どうぞケーキ台の前までお集り下さい。お手元にカメラや携帯をお持ちの方は是非お二人のこの幸せなお姿を、お写真に収めて頂きたいと思います。 』

     司会者の声を待ってからぞろぞろとケーキ台に群がって行く人たちを横目に花道を迎えに来たであろう酔っ払い軍団が、俺にも声をかけてきた。

    「行こうぜ!真ん前でイジってやんねーとな!」

     大楠からのその言葉に俺も「だな」と悪い笑みを返してみんなで急いで前に出てケーキ台の真ん前を陣取った。他の人たちの邪魔にならないようしゃがみ込んでスマホのカメラを向けてくる俺達を見下ろした三井サンが「近けーんだよ!」と、お決まりのように怒鳴る。

    『それでは参りましょう!新郎新婦様によりますケーキ入刀です!お願いしまーす!』

     その司会の掛け声に合わせて俺と花道率いる、桜木軍団が「よいしょー!」や「せーのっ!!」や、はたまた「よっこらしょー!」とバラバラに声を掛けると会場が笑いに包まれ、三井サンは、「そんな掛け声あるかっ!!」とちゃんと安定のツッコミをいれてくれる。
     たくさんのカメラのフラッシュと賑やかな笑い声が溢れるなか、三井サンと名前ちゃんがケーキ入刀をする。俗に言う、初めての共同作業というやつだ。
     堀田たち、元不良仲間たちから飛び交う、謎の「ヒュゥ〜♡」という掛け声や指笛に合わせて、俺たちの「ミッチー!ミッチー!」やら、しまいには「キース、キース!」などと煽る声に、またもや三井サンが「黙ってろ!!」と顔を真っ赤にして声を張り上げたのが爆笑ものだった。

    『新郎新婦、ウェディングケーキご入刀です!
     おめでとうございます!!』

     入刀の形のまま二人が静止してそのままで撮影タイムに入り、ヤジを飛ばしながら俺らも個々に己のスマホで写真を撮りまくるが当の本人、三井サンは「これ、いつまで止まってねーといけねえんだよ?」と隣に肩を寄せて立っている新婦様に耳打ちしてぼやいていてその新婦、もとい新郎の幼馴染は、苦笑いを浮かべていた。

    『たくさんの皆様に見守られる中、今お気持ちをひとつに、ナイフを入れていただきました。このお二人の表情、ぜひ皆様のカメラにもしっかりとお納めくださいませ。』

     一応、俺らもヤジをいったん止めて周りに倣い拍手(と、指笛)を二人に送る。それでも「おめでとー」とか、祝福の言葉を投げかける俺たちの声が、その場にいた誰よりも一番デカかったのは言うまでもない。

    『——続きまして。お互いに、ケーキを食べさせ合っていただく、ファーストバイトを行っていただきます。』

     高宮の「ぃよっ!待ってました〜!」の悪ノリヤジに合わせて堀田たちがすかさず指笛を吹く。もうこれは、セットになっているといっても過言ではない。

    『それでは——はじめに、ご新郎からご新婦へ。お願いしまーす!』

     残りの連中も待ってましたと言わんばかりに、ヤジがヒートアップする。そんな中、空気の読めない三井サンはスプーンいっぱいにケーキを取りそれを迷いなく相手の口に運ぼうとするので新婦が「小さくしてよね」と小声で注意をしていた。それでも呑気に「あン?おまえ、ケーキ好きじゃねえかよ」と言い返し、会場がどっと笑って本日初の新婦の赤面を拝むことが出来た。彼女は赤面しながらも、たまらずスプーンに乗ったケーキをそばにあったスプーンで三分の一にして、余分な部分を、皿に寄せている。それを見ていた軍団の中の誰かが「そんなのズルだぞー!」とヤジるとその声に面を食らう名前ちゃん。

    『はい、皆さん掛け声をお願いいたしまーす!』

     言われて俺らが揃って「ア〜ン♡」と掛け声を送ると彼女が三井サンからのケーキを口に含み、女の子たちからも、黄色い歓声が沸き上がった。

    『おめでとうございまーす!続いて、ご新婦からご新郎へ。お願いしまーす!』

     その司会の声に水戸が「スプーン、小せぇーんじゃねーのぉ?」とヤジを飛ばすと次いで周りにいた俺らも「小せえ小せえ!」とヤジを投げる。そのとき彼女がしたり顔で「もっと大きいのお願いします!」と声を張れば三井サンは「は?」と腑抜けて困惑していた。あたりまえに聞かされていなかったのだろうなと思えばすこし可哀想でもあるが、この流れは結婚式でのお決まりなので、致し方がない。間もなくして運ばれてきてのは、なんとバスケットボールの絵柄がついたスコップサイズのスプーンだった。それをそばで見ていたゲストたちや、座って見ているゲストたちが爆笑したことで、また会場内が笑い声に包まれた。

    「マ、マジかよ……」

     三井サンがガチめに青ざめたことで俺らも腹を抱えてひーひーと品なく笑い声を上げた。彼女がそれに、めいっぱいケーキをすくい俺らは俺らで「もっと乗せろー!!」と、煽りにも似たヤジを飛ばしまくる。

    『それでは、準備はよろしいでしょうかー!』

     司会者のその合図で「三井サン全部食えよ!」とか「ミッチー男見せろよ!」という俺と花道の煽りに三井サンは、今世紀最大の睨みをきかせてきたが「全部、食べてよね?」とぴしゃりと言ってのける新婦様にゲッと面を食らった三井サンを見てそこにいた俺らは思わずハイタッチをする。
     その背後で彩ちゃんが「ほんとタチの悪い連中よね」と、ため息交じりに笑っていて傍らで晴子ちゃんのクスクス笑う声も聞こえてきて、思わず俺は我に返って苦笑した。

    『はい、皆さん。掛け声をお願いいたします!』

     言われて俺らはまた「ア〜ン♡!」と今日イチの大声で掛け声をかける。三井サンが顔面ケーキまみれになったところで、司会者の『おめでとうございまーす!』の声と共に全員で笑顔と拍手を二人に送った。

    『新郎新婦お二人によりますウェディングケーキ入刀と、ファーストバイトのセレモニーでございました。お近くでご覧いただきました皆様もありがとうございました。皆様もどうぞ元のお席へとお戻りくださいませ。』

     みんなが席に戻るあいだ、ちらっと二人に目を向けてみれば、彼女が「ごめんね」と言いながら三井サンの顔を拭いてあげていた。三井サンも、「いや、大丈夫だぜ」と優しげに気を遣っていて「なんだよ、お似合いじゃねーかよ」と言葉にはしなかったが、心のなかでつぶやいたのは事実。そして嫌味を通り越して嫉妬にも似た感情が芽生えた。それでも、あーあ、いいなぁ結婚式って、と、素直に思ったのは内緒。

     三井サンたちも席に戻って会場内がまたしばらく歓談していたとき、ふと名前ちゃんがこちらに向かって、なにかを口パクで言っているのに気がついた。
     なんとなく「楽しんでる?」と聞いてきたんだろうなと解釈してコクンと頷けば横で三井サンが「あ?なに話してんだよ」と新婦様につっかかる口の動きまで見えてしまって、俺は鼻で笑う。
     もうずっと側にいてもらうという誓いを立てたくせして、その独占欲なんとかなんねーのかよ、なんて思ったら思わず「バッカじゃねーの?」と声に出してしまっていたのだった。

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