旅立つあなたに恋文を(5/6)

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    『ただいまより花嫁のブーケトスおよび、花婿のブロッコリートスを行います。お席に、赤い花のあった方は、ぜひ前にお進みください。』

     司会者の言葉を待って、酔っ払い集団の指笛が背後から聞こえた。花道が「ブロッコリぃー?」と首を傾げ片眉を歪めてつぶやくと、木暮さんが苦笑いしながら言った。

    「新郎から独身男性に投げるんだ。たぶん参列者の中で独身の人には、この赤い花がそばに添えられてるんじゃないかな?」

     木暮さんの解説に、俺と花道が改めて卓の上を見やれば、たしかに全員のネームプレート横に、ひっそりと小さな赤い花が添えられていた。全然気にしてなかったけどそーいうことだったのか。
     てか……みんな独身かよ。大丈夫なんか、湘北バスケ部OBは。なんて思っていると、後方から彩ちゃんたち女性群が、キャッキャと騒ぎながら前のほうに出て行くのが見えた。
     あたりまえに堀田らの卓も全員が前に出てきて思わず「花道!」と俺が気合いを入れて声をかけると「おうよ!」と、奴も勢いよく椅子から立ち上がったので、二人して急いで前方へと向かう。

    「……あれ? 流川、行かねーのか?」

     ふいに振り返って、俺が問い掛ければ「俺らは大丈夫」と、木暮さんがダンナと流川のぶんまで纏めた感じで断りを入れてきたので「そスか」と言い置き、花道のあとを追った。
     到着すると女性群が遠慮をしているのか全員で小さく集まっていた。堀田や大楠たちが我先にと前を陣取ったことで三井サンが顔を真っ赤にして怒鳴りつける。

    「お前らな、慎みやがれ!女どもに気を遣えよ!もっとさがれって、ほら!」

     そのクソバカでか声に会場内が笑いで溢れる。彩ちゃんの「……三井先輩が一番、気遣えてないわよ」という、鋭すぎる突っ込みに、会場にまたどっと笑いが飛び交った。こういうとき、堀田や花道あたりは背が高くてずりーなァと思って俺が咄嗟に「不公平だぁー!」と、三井サンの背中にめがけて叫ぶと三井サンがまた振り返って今度はくちびるをやや尖らせながら言う。

    「……徳男、桜木。」
    「あん?」
    「ん?なんだ、三っちゃん」
    「てめえら、一番うしろな」

     「ん。」と、うしろを指さす三井サンに安定で花道の「ズル!ズル!!ブーブー!」というブーイングが轟くと会場が沸く。三井サンは決まってそれに対し赤面していた。そして新婦様の彼女が三井サンの隣でマジで女神様?と思えるくらいに綺麗に笑っていて、一瞬、見惚れてしまった俺。いけない、いけない。オレには彩ちゃんが……。

    『ぜひ、夫婦で息を合わせていただきたいので、お二人で掛け声をお願いします。』

     司会者のその言葉に三井サンと彼女が「はい」とハモる姿が、すでに息ぴったりで驚くレベル。

    『会場の皆様もぜひ、ご一緒願います。それでは『せーの』という合図で、お二人にブーケトスをしていただきましょう! せーの!』

     俺らに背を向けている三井サンと彼女はほんと息ぴったりといった具合にブーケとブロッコリーを同時に高々と上に放り投げた。そのとき不意に彼女からの直筆メッセージの内容を思い出して、俺は彩ちゃんを横目に見ながら今世紀最大というほどのジャンプを披露した。
     たとえ身長が足んなくたってオレは、ジャンプ力なら県内イチだ!——と、心の中で叫びながら三井サンを、飛び蹴りしたときのことを思い返しつつも高々とジャンプをしたけれども、やっぱりあの花道には敵わなくてすんなりといとも簡単に三井サンが投げたブロッコリーを獲得したのは、言わずもがな花道だった。そんな花道のジャンプ力に笑いとは異なる「おお〜っ!」という歓声が会場に響き渡る。それを見て、水戸を含む軍団や堀田たちは「てめえかよー!!」と、これまた、息ぴったりに声を合わせて叫んでいた。
     新婦様からのブーケは、しっかりと彩ちゃんがキャッチしていて、なんだかほっとしてしまった自分にハッとして自嘲する。

    『新婦様はご友人の彩子さま、新郎様はご友人の桜木さまがめでたくキャッチされました!幸せのバトンの意味を込めて、お写真を撮らせていただきますので、どうぞ前にお越しくださ〜い!』

     彩ちゃんの「え〜!私でいいんですか〜!」とはしゃぐ姿に俺が見惚れていたら隣に来た水戸に「アネゴ、一番高く飛んでたぜ」と言われ何故か俺が面を食らった。
     三井サンの隣に花道、彼女の隣に彩ちゃんと、四人仲良く並んでみんなから写真を撮られている姿をぼーっと眺めながら、あらためて三井サンと花道のその高身長ぶりに「絵になるよなァー」とすこしだけシュンとしてみたりする。やっぱ男は身長なんかなぁ?と思っていたら隣にいた水戸が「やっぱさ、男は身長なのかもな」と飄々と言いやがったので、お前は身長がなくても人間ができすぎなんだわ……と、口から出そうになったが、それを飲み込んで、浅く笑って返すだけにした。


     *


    『それでは皆様どうぞごゆっくりお寛ぎ下さい』

     ブーケトスイベントから席に戻って、酒ばかり飲んでいたせいか、腹がすいて来たので、花道と一緒に、ダンナたちが食べ残した残飯処理をしていたとき、水戸がふらっとまた俺たちの卓に来てメモを見ながら二次会の点呼を取りはじめた。

    「——行く?二次会」
    「えっ?ああ、行くけど……」
    「だよなっ。じゃ、これで元湘北メンバーは全員マル、っと……」
    「え?水戸、お前が二次会の幹事やってんの?」
    「そっ。みっちーに頼まれててさぁ」
    「へえ」

     何か意外だった。でもまぁ水戸の店を貸し切る予定ならば、水戸に頼むしかねーんだろうけど、とか思いながらも、あの三井サンが、ある意味、��宿敵�≠フ水戸に二次会の幹事を頼んでいる姿を想像したらめちゃくちゃ滑稽だなと思った。ぜひ二次会のときに聞いてみたい、どうやって水戸のところに出向いて「二次会の幹事、任されてくれねーか?」と、頭を下げたのかを——。

    「貸し切りにすんの?」
    「うん、貸し切り。名前さんが呼んだ東京からの子たちも来たいって言っててさぁ」
    「あー、そっか。」
    「あと、みっちーの大学の連中とかもな?店パンパンになりそーだ。」
    「ふうん」
    「あっ! もちろん、アネゴも来るってよ?」
    「えっ? あ、そーなんだ……」
    「こーいう日こそ、チャンスだぜ?」
    「へ?」

     俺は思わず間抜けな返事を返しをしてしまう。ぱちくりと目を瞬かせる俺を水戸はいつもの調子で流し見て、メモに視線を落としながら言った。

    「——吊り橋効果、って。よく言うだろ?」
    「………え!? 無理だって、さすがにさ」
    「男見せろよ、リョーチン。」

     水戸は俺の肩にポンっと手を乗せて、ウインクひとつを残して手に持っていたメモをひらひらとさせながら、俺らの卓をあとにした。……てか、はじめて呼ばれたし。あいつから「リョーチン」なんて。なんか照れるんですけど。なんつって。

    『さて、皆様方と過ごして参りましたこの素敵なお時間ですが、そろそろ、御開きが近づいて参りました。いま新郎新婦様は大好きな方々に祝福をされ、幸せの絶頂にいらっしゃると思います。』

     ��楽しい時間はあっという間�≠ニいう迷信は、本当なんだなぁと、あらためて思った。気付けば司会者が��宴も酣�≠トきな披露宴終盤のくだりに入っていたからだ。

    『この素晴らしい日を迎えることができたのも、これまで大切に育ててくれたご両親のおかげではないでしょうか。』

     俺たちも飲み食いをいったん中断して、姿勢を正し、新郎新婦のほうへと体を向き直した。

    『本日、新婦名前様は日頃なかなか伝えることのできない感謝の気持ちをお手紙に認めてこられました。皆様の前でお伝え頂きたいと思います。』

     三井サンと彼女が席を立って、テーブルの前に出てきて、肩を並べる。そこに司会者がマイクを持って行き三井サンに差し出す。今回はマイクを落とさずにしっかりと握り締めててほっとした。三井サンの両親と彼女のお父さんが後方に並んで立ち晴れ舞台に立つ我が子を真っ直ぐに見据えている。

    『皆様、本日は私たちの結婚式にお集まり頂き、ありがとうございます。この場をお借りして育ててくれた父親と寿さんのご両親への感謝の手紙を読むことを、お許しください……。』

     彼女がすこし、震えた声で手紙を持って読んでいる傍らで三井サンがしっかりとマイクを握っていてその視線は彼女のことを真っ直ぐに見つめていた。その途中、言葉につまる相手に三井サンが「大丈夫だ、ゆっくりでいい」と声を掛けている姿が男として、なんかぐっとくるものがあった。

    『私は今日、寿さんと結婚しますが、いつまでもお父さんの娘であることに変わりはありません。これからも、ずっと、心の支えで……っ、』

     ついに言葉に詰まって泣き出してしまう彼女に空いた手からハンカチを差し出す三井サン。会場では貰い泣きした三井サンの母親や女の子たちのすすり泣く声が聞こえるなかで真っ直ぐに響いた水戸の「頑張れ!」という声を筆頭に元湘北メンバーの野郎たちの「がんばれー!」という声も、バラバラに飛び交う。それが届いたからなのか、ぎゅっと一度くちびるを噛み締めた彼女が、最後までしっかりと、自分の父親への感謝の気持ちを伝えきった。

    『寿さんのお父さん、お母さん、私を温かく迎えて下さってありがとうございます。まだ未熟者の私ですがこれからどうぞよろしくお願いします』

     そう言い切って深々と頭をさげると、会場内が温かい拍手に包まれた。そうして、拍手が止んできたのを確認した司会者が和やかで且つ優しげな声で、進行をつづける。

    『ご新婦名前さんに今の素直なお気持ちをお伝え頂きました。これよりは、その溢れるお気持ちを花束に乗せてお父様へしっかりとお渡しいただきましょう。』

     三井サンと彼女が、両親たちのいるところまでゆっくりと歩いて行く。辿り着いた先、三井サンのお母さんが彼女に「きれいよ、ありがとうね」と声をかけているのが、とても印象的だった。

    『それではお父様、お二人からのお気持ちです。どうぞ、お受け取り下さい。』

     彼女のお父さんが花束と手紙を贈呈されると、鳴り止まない拍手のなか、彼女のお父さんが三井サンと握手を交わした。そのあと彼女のお父さんからハグを求められた三井サンが、素直にそれに応えたとき、まさかの堀田が「うおぉ〜!」と、声をあげて号泣しはじめて、ぎょっとする。
     二人と両家の親が整列したところで司会者が、『今ここに、新たなご家族の誕生でございます。本日は本当におめでとうございます!』と言ったことで、また拍手が大きくなる。
     花道の「ミッチー幸せになれよっ!!」と手を高く挙げて拍手をしながら大声で言ってのけたのにはさすがのダンナと木暮さんも感心していた。

    『ここで両家を代表致しまして、新郎、寿さんのお父様より、ご挨拶でございます。』

     三井サンの父親は、あの人から、この口の悪い元不良が生まれたのかと疑いたくなるくらいには品があって紳士的で驚愕レベルだ。やっぱり育ちよかったんだな、実は、あの元エセヤンキー......

    『新郎、お父様からのご挨拶でございました。』

     拍手喝采の中、司会者が『ただいまのご挨拶を持ちまして、お二人の結婚披露宴を、おひらきとさせていただきます』と、締めの挨拶をする。
     俺たちも指笛やら愛のこもったヤジを、拍手と共に、ふんだんに二人に向かって送ってやった。

    『寿さん、名前さん。本日は、本当におめでとうございます!それでは新郎新婦のお二人には一足お先に、お進みいただきます。』

     退場ソングが流れはじめ三井サンの腕を組もうとする彼女を待って堀田らの卓全員がガタン!と立ちあがった。……あーね?やっぱ、やるんかと思った俺が、ひとつ溜め息を吐くと木暮さんが、「なんだ、どうしたんだ?」と戸惑いを見せる。

    「……胴上げでしょ?」

     俺が飄々と言うと、すくっと立ち上がったのは意外にも流川だったのでぎょっとして俺が流川を見上げていれば花道が「よし行くぞ!」と掛け声をかけたことにより残りの野郎たちが三井サンと彼女の元へ走る。きょとんとしている木暮さんとダンナに「んじゃ、いってきまぁーす!」と言い置いてから、俺も走って新郎新婦のところに向かった。
     突然、野郎どもが突っ込んで来たことで「え、え。」と、三井サンは呆気に取られていたけれどそんなの無視して、みんなで、この大男を担ぐ。

    『——お二人にとっての、新たな人生の第一歩、皆様どうぞ今日一番の大きな祝福でお見送りください! おめでとうございます!』

     その司会の声と共に「俺たちは、つよーい!」と三井サンを、高々と胴上げしているとき——、ちらっと見えた湘北の先生たちの座るの卓。安西先生の優しい笑顔が、俺の目にも焼き付いた。
     彩ちゃんに晴子ちゃん、新婦様が写真なんかを撮りながら「ワンスモア!」と、掛け声をかけてきたので三井サンを高々ともう一度天井めがけてみんなで、持ち上げてやった。三井サンを胴上げしてから間近で二人の退場を見送ったあと花道が「よーし飲み直すぞ!」と言って席に歩いていくのにならって、俺らも席に戻った。

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