旅立つあなたに恋文を(6/6)

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    『ご準備の整いましたところでご案内申し上げますので皆様はどうぞお帰りのお仕度を整えて頂きながら、今暫くお席にてお過ごしくださいませ』

     残った酒や料理やらを片っ端から花道と一緒に片付けているとき会場が突如暗くになって花道が隣で「ぬ?」と不思議そうに、ちらちらと辺りを見渡していた。

    『ここで、ご出席頂いた皆様に新郎新婦のお二人より感謝の気持ちを込めてスペシャルムービーをご用意致しました。左手スクリーンにご注目ください。』

     司会のアナウンスと共に俺らが座る左側の壁にどデカいスクリーンが突如下りてきて、花道が、「おおー」と謎の歓声をあげる。会場にいる全員が左側のスクリーンに視線を送る中、俺らも酒の入ったコップを手に持って、椅子を品もなくスクリーンのほうにぐいっと回転させて座り直した。ムービーがはじまるのに合わせて、会場のスピーカーからはBGMも流れてきた。冒頭に新郎新婦三井サンと名前ちゃんの直筆のメッセージが映し出される。


     『 今ここにいる皆様は私たちにとって
       一番の宝物です。
       私たちの新しいスタートの日に
       一緒にいていただいたことに
       心から感謝しております。これからも
       末永くよろしくお願いいたします。寿 』

     『 今日の私たちがあるのは他でもない
       皆様のおかげです。
       どんなときも今日の日の感動を忘れず
       力を合わせて、明るく楽しい家庭を
       築いていきます。名前 』


     柔らかくて可愛らしい高校時代と何ら変わらぬ彼女の文字に反して汚ったねーザ・メンズ文字とでも言いたくなるような三井サンのそれには思わず乾いた笑いがこぼれてしまう。これでも、高校教師ってんだから、世も末ってヤツだ。けれども三井サンのそのお世辞にも綺麗とは言い難い文字で書かれた『一番の宝物』という言葉には、いろいろと過去を思い出して感慨深くなったりした。
     そんな二人の直筆メッセージがスクリーンから消えた直後に映ったのは白無垢姿の彼女と、黒い袴姿の三井サンの写真だった。次いで、披露宴の序盤でも着ていた和装姿の二人の写真が流れる。仲睦まじく二人並んで正座をしている定番ポーズは「え?ゼクシィの表紙ですか?」とでも言いたくなるくらいの出来の良さでさすがの俺でも三井サンの写真写りのよさを認めざるを得なくなってしまうほどに、良い写真だった。悔しいけど。


     ♪風の強さがちょっと
      心を揺さぶりすぎて

      真面目に見つめた 君が恋しい♪



     BGMに合わせるようにして、前撮りなんかのオフショットが流れてくる。まぁ、お互いに鼻をくっつけてるやつとか、三井サンが彼女をおんぶして相手が柿?か何かをもぎ取ろうとしてんのかそんな楽しそうなオフショットまではいいとして撮影の休憩中の中庭で彼女の膝に、膝枕している三井サンの写真に関しては安西先生と喧嘩はもうしねえと、誓いを立てた俺でも、一発ぶん殴ってやりたくはなったけどね。
     ——つか、そんなことより名前ちゃん、ほんと綺麗だなあ。三井サンに腕を絡めて振り向く彼女の和装姿がすっごく綺麗で思わず「こりゃ見返り美人だな」って、中年オヤジみたいにつぶやいてしまうほどだった。

     ふたりのラブラブな前撮り写真のあとは、最近撮ったであろう友人たちとの写真やら動画が流れてくる。改めてこの二人って、昔から周りに人が集まってくるよなーなんて物思いにふけってみたりする。そんな中、昔の携帯から見つけてきたであろう、高校時代の写真や動画も流れてきたので俺が反射的に「お!」と声を出すと、後ろの席の水戸たちもハモって「おお!」と言っていて思わず背後の卓を見やれば不意に水戸と目が合って、本日二度目である水戸からのウインクを食らってしまい、あいつ昔からあーやってスカしてっけど実のとこ、すげえモテてたんだろうなー湘北でもと、過去を振り返ってみたりする。


     ♪でんぐり返しの日々
      可哀想なふりをして
      だらけてみたけど 希望の光は

      目の前でずっと 輝いている
      幸せだ♪



     懐かしい高校時代の写真や映像が映し出されるなか、BGMの曲の歌詞が、申しわけ程度にスクリーンの下に表示されていて、もはやただの酔っ払いと化した堀田たち元不良仲間が、泣きながら大声で合唱していた。ったく、卒業式かっての。


     ♪麦わらの帽子の君が
      揺れた マリーゴールドに似てる

      あれは 空がまだ 青い夏のこと
      懐かしいと 笑えた あの日の恋♪



     俺も、適当に聞き流す程度には色んな曲を聴くほうではあるけれども、そういや、曲の歌詞まで噛みしめて聴くことなんてないもんなーと思ってあらためて、画面下に流れているその曲の歌詞を意識して見てみたら、まるで二人のテーマソングみたいで笑えた。そんなことを考えながら俺は、高校時代の懐かしい写真やはちゃめちゃに画質の悪い動画が流されているのに合わせて一緒にスクリーンに映っているその歌詞を、ぼんやりと眺めながら手に持っていた酒を、またちびちびと飲み進める。


     ♪「 もう離れないで 」と
      泣きそうな目で 見つめる君を

      雲のような優しさで そっと ぎゅっと
      抱きしめて 抱きしめて 離さない♪



     「もう離れないでと、泣きそうな目で見つめる君を」——って。それ、三井サンの気持ちかな?それとも彼女かな?いやいや、離れないでなんていうのは三井サンだな、絶対。あの人、幼馴染のまえじゃ甘えてそうだし。……てか、確実に甘えまくってるし、実際のとこ。
     あらためてこの曲ってこんなにいい曲だったんだなーとか思った。きっと、きょうのこの酔っぱらった勢いで帰り道にダウンロードなんかしちゃうんだろうな。でもきっと朝起きたら二日酔いの頭痛と共に、ダウンロードしたのも忘れ去られていて、そのさき一度も聴くことはないんだろう。こうして、歌詞を噛みしめて曲を聴くのだって、きっとこんな日だから。結婚式だから。思い出の写真の、BGMだからだ。
     大切な人の——特別な日だからだよな。うん。きっとただ、それだけのことだ。

     たとえ、明日からは他の曲たちも歌詞の意味を考えながら聴くようにしようとか、決意をしたとしても三日後には忘れてて歌詞を噛みしめながら聴くことなんて二度となくなるんだろうし。それでも、そうだとしても、さ?今の俺なら思うよ?あーこの歌詞ってやっぱり、名前ちゃんの気持ちなんかなー、とかね。
     そんなことを考えちゃうくらいに俺は、相当、酒と幸せな気分に、酔っぱらっているらしい。


     ♪本当の気持ち 全部
      吐き出せるほど 強くはない
      でも 不思議なくらいに
      絶望は見えない

      目の奥にずっと 写るシルエット
      大好きさ♪



     そのままスクリーンをぼーっと眺めていると、不意に目の前にビール瓶が翳されて、我に返る。意外にもビール瓶を翳して来た相手は、あの流川だった。「あ、わり。サンキュ」と言いコップを差し出せばやっぱり「ウス」と、あいもかわらず不愛想な元スーパールーキー。しかし、ちゃんと慣れた手つきで酒を注いでくれたかつての生意気な後輩のその仕種に、俺は笑みがこぼれる。


     ♪柔らかな 肌を寄せあい
      すこし 冷たい空気をふたり

      かみしめて歩く 今日という日に 何と
      名前をつけようか なんて話して♪



     この曲ってきっと彼女が選曲したんだろうな。だってこれさ、彼女から三井サンへの究極の——��恋文(ラブレター)�≠ネんじゃねえの?……なんてことは、たぶん三井サンは知らねーんだろうなあ。やっぱあの人って、不憫だよなぁ〜、なんつって。


     ♪ああ アイラブユーの言葉じゃ
      足りないからと キスして

      雲がまだ ふたりの影を残すから
      いつまでも いつまでも このまま♪



     「あぁ〜アイラブユ〜の♪」と堀田たちが熱唱していて、うるせーとか思いつつ、ふとその卓をまた見やれば、こともあろうに、水戸以外の堀田たちと元和光中メンバーが、肩を組んで酒片手に大熱唱をしていた。思わず「ここは甲子園のアルプススタンドかよっ!」と、心の中で今日イチのつっこみを入れる。それでも、椅子の背に、だらしなく腕をなげスクリーンを見ていた水戸も酒の入ったコップを片手に流れているBGMを笑顔で軽く口ずさんでいたので、その姿に条件反射なんかな?と、なんだか情けなくも笑ってしまった。


     ♪遥か 遠い場所にいても
      繋がっていたいなあ

      ふたりの想いが

      同じで ありますように♪



     遥か遠い場所にいても繋がってたい、ねぇ。
     たしかになぁ……あんたらって、何年も会っていなかったくせして、ずっと想い合っていたんだろうからさ、そりゃあ繋がってたんでしょーよ、
    ——ってね。
     そのまま今度は視線を彩ちゃんたちの卓に向けてみれば、昔を懐かしんでいるのか感動しているのかは定かではないけれど、ハンカチで涙を拭きながらスクリーンを見上げている。晴子ちゃんと一緒に彩ちゃんも曲を小さく口ずさんでいたのでそっちの美人二人に関してはほっこりして、俺も頬がだらしなく緩んだ。
     またスクリーンに視線を戻せばちょうど俺達が山王戦に勝ったとき撮影してもらった集合写真が映し出されていて予想外のことに思わず俺も泣きそうになったが寸でのところで堪えた。ちらっと花道を盗み見ればやっぱり顔色ひとつ変えないで酒を飲みながら生意気に口角をちょっと吊り上げスクリーンを真っ直ぐ見ている。
     こいつ、肝座ってんなあって改めて感心したとともに、実は、こいつが一番男前なんじゃね?と思ったりして、まさかなって自嘲する。やっぱりきょうのオレは、相当酔っているらしい。

     映像が、披露宴での写真に切り替わったとき、俺ら参列者の名前が順に流れてきた。その名前の横には二人からの直筆のメッセージが添えられていて自分宛のメッセージのところでスクリーンをスマホのカメラや手持ちのデジタルカメラで撮影している人たちがけっこういた。
     いい演出すんなあって関心してんのも束の間、やっぱり俺宛への三井サンからのメッセージは、むっちゃ短かった。たぶん——みんなのなかでもダントツにね。


     ♪麦わらの帽子の君が
      揺れた マリーゴールドに似てる

      あれは 空がまだ 青い夏のこと
      懐かしいと 笑えた あの日の恋♪



     次いでスクリーンには、高校時代の三井サンと名前ちゃんの笑顔の写真が映し出されている。
     大人になって再会して、それからもそれまでもいろんなことがあって——。


     ♪「 もう離れないで 」と
     泣きそうな目で 見つめる君を

     雲のような 優しさで
     そっと ぎゅっと
     抱きしめて 離さない♪



     俺もさんざん振り回されたけど……まあ、もう済んだことだから、そろそろ葬ってやらねーと。
     だけど今日、二人が俺らに見せてくれた沢山の笑顔は今このスクリーンに映っている高校時代の二人のまま、なぁーんにも変わってなかったよ。
    ——に、しても………さぁ、

    「あぁ〜アイラブユーの言葉じゃ足りないからとキスしてぇ〜♪」

     うっせーんだけど……堀田たち元湘北不良どもがよっ!もう二次会は、勝手に、カラオケにでも行きやがれってんだ!


     ♪雲がまだ ふたりの影を残すから
      いつまでも いつまでも
      このまま 離さない

      いつまでも いつまでも
      離さない♪



     まあ……でも。もう今後は遠回りなんかしないでさ、ずっとずっと二人一緒にいてくださいよ。
     これからは俺とか、彩ちゃんとか水戸たちに、手間、かけさせないでよねっ。

     ほんと、結婚おめでとねっ!
     名前ちゃん——あと、三井サンも。


     *


    『それでは皆様お二人と親御様のご準備が整ったようでございますのでお支度の整いました方からどうぞ、扉口へとお進みくださいませ。』

     ダンナが「さて行くか」と言って荷物をまとめて立ち上がったので俺たちも足元に置かれていた紙袋を持ち椅子から立ち上がる。そのとき自分のネームプレートもしっかりと袋の中へと仕舞っている流川の姿を見て少し考えあぐねたがみんなが席からいなくなったのを見計らい、読み返す気もなくすような短文だった三井サンからの直筆メッセージの添えられた自分のネームプレートを一応袋の中にこっそり入れた。

    『——これよりは、新郎新婦のお二人とご両家の親御様で皆様をお見送りさせていただくお時間となります。お忘れ物などなさいませんよう……』

     そんなアナウンスを聞き捨てながらぞろぞろと扉から出て行く人を見送って俺たちも会場を出ると両家がずらっと横に並んで、参列者を見送っている姿が目に入る。
     彩ちゃんに晴子ちゃん、堀田らと水戸たちに、ダンナ、木暮さん、流川、花道という順で両家の親や新郎新婦と短く挨拶をして、その場を去っていくのを見ていた俺が、すこし遅れて最後に三井サン率いる、両家が立っている目の前を通る。
     一番手前にいた三井サンの両親に声をかけられ「スピーチ最高だったよ」とか「寿が、お世話になってます」とか言われて、苦笑いを返す。次に並んでいた新婦様のお父さんには「ようやく会えましたね」なんて言われてしまい「こっちがいっつも世話なってんで」と照れながら、はじめてに近しい挨拶を交わした。
     通称��目の上のタンコブ��——の、隣に立っていた彼女には「二次会でゆっくり話そうね今日は本当にありがとう」と握手を求められて、それに応えたあと目の端に確認する最後の人物。最後はやっぱりあの人、三井サンが待ちかまえていた。


    「——サンキューな。」

     ニッと、俺が付けた傷のある方の口の端を吊り上げて言って、右手を差し出してきた三井サン。
     スピーチの原稿を作っていたときにふと握手の意味について調べた瞬間があった。握手は利き手を差し出すことで武器を隠し持っていないことを示すための意味がこめられている、とかなんとか書いていたネットの記事を思い出して、ふっ、と思わず鼻から乾いた笑いが出てしまう。俺が差し出されたそれを握らずパーン!と叩くと「痛って!」と痛くもないくせに大袈裟なリアクションを返してきたセンパイに、俺は言い放つ。

    「痛くねーっしょ」

     そう言って、口を尖らせて目をそらした刹那、ぐいっ、と右腕を引かれて肩を組まれたあげく、こともあろうに、その肩をポンポンとされた。

    「——宮城。ほんと、ありがとな。」
    「……。」

     ——だから!生き別れの恋人かって!……なんかさ、今日の三井サン、ずっとこんなんだから、調子狂うんだけど……。

    「……ケッ。なんだよ、こんくらい」
    「あ?」

     三井サンから体を離し、眉を歪めて見せれば、三井サンは目を細めて俺を見下ろした。

    「山王戦のほーがよっぽど緊張したっちゅーの」

     俺がそう言うと一瞬、目を見開いた三井サン。途端に二人で目を見合わせて噴き出し、ガハハと品なく笑い合った。

     そんな——高校時代にちょっとした痛み分けをしたセンパイの、結婚式でのお話。










     幸 せ を フ ォ ー エ バ ー 。



    (たくさん、パスを出してくれよな?ってね。)
    (……!? バカ、やめろ!)
    (まぁー仕方ねえからさ?たくさん出してやんよ)
    (あ? なにを?)
    (人生に迷ったときの?救いのパスを、ね?)
    (はっ……バーカ。眉毛歪んでるくせしてな)
    (それいまカンケーねー、サラサラロン毛。)


    ※image song『 幸せをフォーエバー/MISIA 』
    ※Lyric by『 マリーゴールド/あいみょん 』
     

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