想いをのせた歌(1/3)

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     ふたりですごした時間が積もる
     募る想い出がふたりを包む

     繋ぐ手が離れて行かないように
     あなたの気持ちが近づくように

     俺にもっと、聴かせてくれないか?
     お前の夢や理想、泣いたあの日のエピソード。

     心の扉が開いたら
     空いた傷をすべて埋めるのにな。

     この先、五十年愛します。
     いや、生命の終わりまで一緒だ。

     小指に結ばれた糸がきっと
     いつもふたりを離さないよ。


     大切なお前を守るために
     愛に正直に生きる価値に
     強く感じ 迷わない想い
     共に生きましょう、この一生。


     二度とはない、いまという時間
     一番好きな、あなたといるなら

     変わらない、ずっと想ってる。
     いつも、あなたのすぐ側で立ってる。





     *


     結婚式は——あふれる愛に何度でも立ち戻れる場所。数十年、時代は変わり、世の中も変わっていったけれど。これからの数十年、ふたりの生き方や愛し方もすこしずつ変わっていくのかもしれないけれど。それでも、ずっと変わらないと思うこと。父の『幸せになるんだぞ』も、今は天国にいる母の『いつまでも私たちの娘だからね』も、友の『今日はとびきり、きれいだよ』も、みんなからの『本当におめでとう』も、ふたりで想う、『ありがとう』も。それはぜんぶ��愛�≠セから。

     幾千の涙の雨も長い冬を乗り越えて、何度でも立ち戻り、確かめながら、ずっとふたりで生きていこう。あの日、あの時に感じた愛を胸に。これまでに積み重ねてきたもの。今この瞬間に生まれるもの、そしてこれからもつながるものたちに。さあ、愛を祝おう。
     たくさんの光に包まれて、ふたりで手を取って眩しい未来へと、ふたりで歩いてゆく。


     結婚式前日——式のために美容院で高級ヘッドスパをしてからネイルサロンでウエディング仕様に施してもらった新しいネイルを眺めて、思わずニヤリと、片方の頬が吊り上がってしまう。
     帰宅して部屋の時計を見れば、まだ時刻はお昼過ぎだったのだけれども、肌の手入れや、浮腫み対策、デジカメの受電などなど、案外パタパタと忙しなくしていた。
     あとは式の当日、披露宴を行うホテルの最上階で宿泊をする予定になっていた私たちの持ち物の最終確認やらなんやらと。それを、あたりまえに新郎にも付き合ってもらって終いに彼の晩御飯は浮腫み対策のため、もはや味のない卵スープに、五穀米。そこに申しわけ程度に添えられた、味の薄いおかずたちに心ばかり罪悪感を抱きつつ……それでも新郎様である彼は、文句ひとつ零さずにしっかりと綺麗にたいらげてくれたうえに洗い物まで率先してやってくれた。
     その日の晩、さっさとお風呂に入った私が寝る準備を済ませて一度ベッドに入ったとき、急いでシャワーを浴びてきたらしい彼が、髪を乾かさぬまま、ベッドへと潜り込んできた。

    「——ちょっと! 式の当日に風邪でも引いたらどうすんの!?急いで乾かしてきてっ」

     ベッドに潜り込むや否や私を後ろからぎゅっと抱きしめる彼の体には、ボクサーパンツ一枚しか纏われていなかった。

    「……あ? だって、ンなことしてる間におまえ寝ちまうだろ」
    「寝るよ。明日早いんだもん」

     結婚式当日の新婦は新郎よりも早くに、式場に向かわなければならない。朝は顔が浮腫みやすいし、早朝四時には起きて準備をする予定なので、わたしはさっさと、眠りにつきたいのだ。

    「だから急いで来たんだよ」
    「な、なんでよ?」
    「ヤりてえからに決まってんだろ」
    「……はあ?」
    「結婚前夜の営みをしなきゃならねえからなぁ」

     「バカじゃないの?」と呆れ返って、私の肩に埋めている彼の頭を思わずパン!と叩いたらやっぱりその短い髪の毛は多少まだ濡れていて冷たい雫が微かに飛び散った。いつまでたっても私から離れず、こともあろうに、腰やら尻をやわやわと触ってくる彼に溜め息をつき私から先にベッドを抜け出して寝室を出た。飼い犬のごとく、それに着いて来た彼をソファに無理やり座らせて洗面所からドライヤーを持って来た私はブツブツ文句を言いながら、髪を乾かしてあげた。それに素直に従う新郎——もとい、幼馴染の初恋の人。

    「俺の髪を乾かすなんてよ〜名前にしか出来ねえ特権だな」
    「はい……?あのねぇ〜、好んでやってあげてるわけじゃないんですけどーっ!?」
    「それ湘北の生徒が聞いたらおまえ刺されるぜ」
    「はあ? 意味わかんないんですけど……」

     このでっかい子供はパンツ一丁で腕組みをしながら目を瞑ってされるがままになっている。なにが私しか出来ない特権なものか……こんな大きな赤ちゃんがなんで女子高生に人気なのか、本当に理解に苦しむ。いまの若い子たちは、ダメンズが好きなのだろうか。そんな彼が呑気に吹いている口笛に「夜に口笛吹かないの!」なんて、まるでおばあちゃんみたいに注意をすると彼はふはっ、と機嫌よく笑っていた。とりあえず、しっかりと乾かしてあげたあと、ドライヤーを片付ける私のあとをまたも分離不安症の犬のごとく追って来た彼が、うしろから私を抱きしめる。

    「——うお!?」
    「なあ、名前ー。……な?」
    「な、なに……『な?』って。」

     そう言い返した私の耳元に顔を近づけて、ぐりぐりとしてくるので、くすぐったくて、反射的に私は首をすくめた。そうして彼は、そのまま私の耳をはむっと甘噛みしながら言う。

    「シようぜ、って……」
    「……シない、ってば」

     はあ、と溜め息をわざとらしく吐き、すっ、とそこから抜け出してドライヤーを洗面所に置きに行った。洗面所を出るとすでに寝室に入ったらしい相手が「早く来いよー」なんて楽しそうに声を張っている。それを聞き捨ててリビングの電気を消し不意にカーテンから漏れる月明かりに誘われるように窓際へと向かう。シャッ、とカーテンを開けて夜空を見上げてみれば、月明かりと満点の星空がとっても綺麗で思わず「わあ、」と、声をあげた。
     しばらく夜空を窓越しに見ていると暗がりの中彼がこちらへ向かって来る姿が窓に映る。慣れた動作でいつもするように、また後ろから抱きしめられた私に、彼が耳元で問う。

    「なに、見てんだ?」
    「星。降って来そうだよ、星が」
    「降って来ねえよ、星は」
    「もー。もののたとえだよ、わかってよ」
    「わーってるよ、バーカ。」
    「口癖みたいに、バカって言わないで」
    「好きだ。」
    「——。」

     間髪入れず耳元でそんなことを言われてしまったら、もうなにも返しようがない。案の定ぐっと喉を鳴らして、私は言葉に詰まってしまった。

    「名前」
    「……ん。」
    「好きだ、お前が」
    「……」
    「ずっと、名前だけだ」
    「……うん、わかってるよ」

     横に顔を向ければ、彼の顔がすぐそこにある。そのまま吸い寄せられるように互いにくちびるを触れさせたとき、このまま流されてもいいかも、なんて思ってしまう思考を掻き消して私はそっとくちびるを離した。そんな私のくちびるを名残り惜しそうに見つめる彼の顔が月の明かりでいつもよりも色っぽく、はっきりと見える。
     ややあった沈黙も「寝ようぜ」と優し気に言われた言葉でさえぎられそれに微笑み返して自然とふたりで手を繋いだまま一緒に寝室に向かった。そして私たちはベッドに入って向かい合う体勢を取った。彼は私をそっと抱きしめ背中と頭に長い腕を伸ばしてきて、手を添える。微かに聞こえてきた彼の子守歌のようなご機嫌な鼻歌に「なんの曲?」と問えば「湘北の校歌。」なんて即答されて、ムードもへったくれもないなと思わずプッと笑ってしまった。

    「結局どのドレスにしたのか聞かないまま本番を迎える感じだな」
    「そうだね、でもきっと寿も気に入ると思うよ」
    「まあ……名前が着るなら、何でもシンデレラになんだろうよ」

     寿はベッドの中では素直にこうやって甘い言葉なんかを投げ掛けてくれる。こういうところが、なんとも女子みたいで可愛くて実は私が大好きな彼の一面でもある。絶対本人には言わないけど。

    「シンデレラなの? お姫様じゃなくて?」
    「あ? シンデレラもお姫様だろ?一応。」
    「うーん、どうかな。ちょっと違うと思う」
    「なんで」
    「シンデレラってなんか不憫だし、実は、腹黒いから」
    「……そーいうの、めんどくさくね?」
    「……」
    「やっぱ出来ねえわ……こういう臭せぇ会話。」

     「俺には性に合わねえ」とため息交じりに彼がつぶやく。私はそれにまたクスクスと笑ってから落ち着いたトーンで言う。

    「はは、頑張って言ってくれたわけだ?」
    「あ?」
    「結婚前夜だから」
    「そういうこった」

     彼は眠れない子供をあやすようにポンポンと、ゆっくりとしたリズムで私の頭を優しく叩いたり撫でたりしてくれている。

    「……中三のときに、引っ越した先がさぁ」
    「ああ」
    「星が、いーっぱいのとこだったの」
    「へえ」
    「ほんと星がいつか降って来るんじゃないかってくらいに多くてさ?」
    「……行ってみるか?今度」
    「ん?」
    「俺と名前が離れて過ごしてた、三年間の時間を埋めにな」

     言って彼は、私を抱きしめる腕に力を込めた。幼い頃から側にいたはずの幼馴染が、こんなにも逞しく、そしてこんなにも安心感を与えてくれるということに不思議な感覚に覚える。ずっと側にいた幼かったはずの彼が明日、タキシードを身に纏って一緒に将来を誓い合う場に立つからだろうか。そんなことをぼんやりと想いながらも、彼の温もりと幼馴染のその大好きな匂いに包まれて、気付けば私は、夢の中へと落ちて行った。

     私が眠りに落ちて行く間際、彼の優し気な声で「おやすみ」と聞こえた気がして「おやすみ」と返したつもりだったけれど、それが現実で言ったのか、夢の中で言ったのかまでは覚えていない。

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