想いをのせた歌(2/3)

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     どんなに甘えてきたのか?
     どれだけ乗り越えてきたのか?

     そうだ俺が、これから守るべき
     永久にそっと、瞳を閉じる日
     までの、道しるべに迷って争って
     励まし合って、ひとつになっていく。
     支えあっていく
     ずっと、もっと愛し合っていく。

     知ってるよ、良いとこも悪いとこも
     すべて含めて、小さなその手をとるよ。
     なにがあったって決して離さない
     ふたりの未来を、話さない?

     桜が咲く木の下で眠ったり
     この海で腹をかかえて笑ったり
     夕日がそっと近づけた日や、
     粉雪がやさしく包んだ日の話。

     言葉だけじゃ伝えきれない
     この想いは誰にも見えない。

     お前のためなら、壁になったり
     時に潰れるくらい抱きしめたい。

     いま、あなたへ向けたすべての誓いを
     このリングの輝きに変えるよ。

     マスカラが涙で滲んでる
     幸せの音響け、ウェディングベル。

     世界に一人のシンデレラ
     お前の仕草をいつも近くで見たい。
     泣いて 笑った、過ごした時間が
     ふたりを作る、
    ふたりを結ぶ。

     世界にふたりだけの地図が
     すべて書き記そう、ふたりの実話。
     泣いて 笑った、積もった想いが
     真っ直ぐに延びた、路を照らした。





     *


     朝の四時——。彼と向き合って抱き合うように眠っていた私は、彼を起こさぬようにベッドから抜け出した。が、やはり物音で起こされてしまったらしい彼が呆れ顔ですぐに寝室から出てきた。一度、私が目を覚ましたときは気づきもしないでぐっすりと寝ていたのにも関わらず。

    「はよ……。まじで四時起きなのな」
    「おはよ、うん。起こしちゃってごめんね」
    「いや、べつにいいぜ。ソファで仮眠するわ」
    「そっか。出るとき起こすね」
    「ああ」

     まだ朝方とはいえ、今日は結婚式当日だというのに、とくに私たちのあいだには甘い空気が漂うわけでもない。だけども、そっちの方がなんだかいつもの私たちらしいな、とか思ったりもして、無駄なことは言わず、私は情けなく彼に笑い返すしかなかった。

     そうして迎えた二人の結婚式。挙式、披露宴は滞りなく順調に進んでいった。泣き、笑い、幸せいっぱいの時間を大切な人たちと共有できる今日という日に私は、感謝という言葉しかなかった。きっとそれは、彼もおなじだろうと思う。
     披露宴でお色直しを終えて彼と一緒に扉の前に立つ。挙式のときとは異なるタキシードとドレスを纏った私たち。とはいえやはり私自身も緊張はしていたようで、スタッフの人の「新郎様、もう少し前に出ていただいてもよろしいですか?」という声をぼんやりと聞き捨てていた。この状況に今でも現実味が沸かないと同時に、ずっと心臓がバクバクしている。そんな私の様子に気付いたのか案外余裕な雰囲気を醸し出していた新郎、寿が私の顔を覗き込んでくる。

    「……ん? なに?」
    「顔、引きつってんな。」
    「……。」

     ギロッと私が視線を送れば彼はふはっと笑ったあと「はい、可愛い可愛いー。」と棒読みで言いながら姿勢を正面へと向き直した。それでも私がぶつぶつ隣で文句を漏らしていると、私の右側に立つ彼が、不意に私を見下ろす気配を感じ取る。

    「ドレス——。」

     彼はそのまま私の真横の、大きなガラス張りの窓の外に映っている晴れ渡る秋空を見るように、遠い目をして微かに目を細めながら言った。

    「やっぱ、その色にしたんだな」
    「……あ、うん」
    「似合ってるよ、まじでシンデレラみてえだ。」
    「……。」

     ��綺麗に笑う�≠ニいう表現は、いまこの瞬間に使うために生まれてきたのだろうと思わせるくらいの彼の綺麗に笑って言ったその顔を見上げながら思わず私は見惚れてしまう始末。そのとき扉の向こう、会場内に入場ソングが流れ始めたので、私と寿も反射的にしっかりと正面に顔を向けた。

    『——皆様、大変長らくお待たせいたしました。装い新たな新郎新婦様を、会場にお迎えしたいと思います。』


     ♪そっと繋いだ手から愛を感じた
      その涙は 奇跡を映した
      美しい色だった

      初めて 見る景色
      初めて 描いた未来

      どんな明日が来ても♪



     寿が「名前」と、私の名前を柔らかく呼ぶ。
    私が彼を見上げてみれば「ん」と、慈愛に満ちるように細めた瞳で、腕を通せと言わんばかりに、左の腕をすこしだけクイッと上げた。私もそれに微笑み返しそっと彼の左腕に自身の右腕を通す。腕を通したとき、なんども触れたはずの幼馴染のぬくもりがダイレクトに伝わってきて、なぜだかドキンと胸が高鳴ったけれどきっと緊張も相まってのことなのだろうと私は小さく深呼吸をする。

    『——新郎新婦、入場です!皆様、大きな拍手でお迎えください!』

     司会者が会場の中で進行している声が扉越しに聞こえてくる。それに合わせるようにして、目の前の扉が、ゆっくりと開きはじめた。


     ♪あなたがここにいて
      抱きしめることができるなら
      私もう 他になんにもいらない

      どんなときも そばにいたいよ
      なによりも 愛しいから♪



     私と寿は眩いくらいのライトが当てられるなか会場の温かい拍手(と、ヤジ)に包まれながら、一緒にそろって、一礼をする。そうして顔をあげふたりでゆっくりと会場内へと足を踏み出した。


     ♪あなたは あなたのままで
      そのままで 大丈夫 私がいるよ

      数えきれない 季節を越えて
      あなたと 歩んでいきたい♪



    『——新郎新婦のおふたりが、皆様のテーブルへご挨拶に伺います。』


     ♪きっと 誰にも言えない辛いときは
      思い出すよ あのときつないだ
      あなたの手のぬくもり

      強くなりたかった
      逃げ出したくなかった
      もう ひとりじゃないから♪



    『おふたりがテーブルへ伺いましたその際には、皆様おふたりを、素敵な笑顔で囲んで差し上げてください。』

     私たちはフォトラウンドのため、各テーブルを順に回っていく。みんなから、たくさんの祝福の言葉をかけてもらったり、テーブルごとに式場の専属カメラマンに記念写真を撮影してもらったり先と変わらず、和やかな時間が流れていく。


     ♪あなたが笑って
      私の隣にいてくれたら
      ありふれた 毎日で かまわない

      自分以上に 大事な人
      心からそう思えるの

      あなたの弱いところを知るたびに
      大丈夫 強く抱きしめるよ
      数えきれない 季節を越えて
      あなたと 歩んでいきたい♪



     彩子と晴子ちゃんも座っている女子たちの席に着いたときその場には黄色い声援が飛び交った。私の招待客、湘北メンバー以外の女の子たちが、「寿さんかっこいい〜」とか「綺麗〜」と、場を盛り上げてくれる。
     私は晴子ちゃんと目があうやいなや「さっきはエスコートしてくれて本当にありがとう」と声を掛けた。すると彼女から「嬉しかったです!」と満面の笑顔を返されてしまい、なぜだか私は急に照れくさくなって、少々頬を赤らめた。


     ♪愛が想いをつないで
      運命で結ばれて 奇跡が起きて
      喜びが生まれるの

      いつも あなたを 愛してる♪



     最後に回る予定だったテーブルが元湘北バスケ部のスタメンチームが座っている席だったのだがもはや水戸くんたちのテーブルを回っているときからリョータくんと桜木くんからの愛のこもったヤジが寿の背に向けて容赦なく飛んで来ていた。


     ♪あなたがここにいて
      抱きしめることができるなら
      私もう 他になんにもいらない

      どんなときも そばにいたいよ
      なによりも 愛しいから♪



     水戸くんたちの席では堀田先輩がすでに大号泣していてBGMに負けないくらいの声で「三っぢゃぁ〜ん」と、自身の袖で涙をガシガシと拭っていた。それでも寿はそんな友人らを見て揶揄っているのか嬉しいのか、はたまた照れ隠しなのか、ずっと楽しそうに笑っていた。
     そんななかで、水戸くんと不意に目が合った。それに対して眉をくいっとあげた水戸くんはゆっくりと口元を動かし、何かを私に言っているようだった。しかし一瞬のことだったのでそれを読み解くのは難しい難題ではあったが「ず・っ・と・泣・い・て・る」と、堀田先輩のことを口パクで伝えてきたのだろうと、勝手に解釈した。それに笑ってうなずいた私を見ていた寿が「あン?」とすこし不機嫌そうに私の顔を覗き込む。きっと、水戸くんとアイコンタクトをしていたから怒っているのだろうとこちらも勝手に解釈をする。そもそもあなたとの晴れ舞台なのだから今日くらいはその独占力を抑えてほしいものだ、なんて思ったのは、内緒だけど。


     ♪あなたはあなたのままで
      そのままで 大丈夫 私がいるよ

      数えきれない 季節を越えて
      あなたと 歩んでいきたい♪



     そしていよいよ、最後の卓。高砂の真ん前——元湘北バスケ部スタメンチームの座っている席。私と寿が到着すると待ってましたと言わんばかりに、リョータくんと桜木くんが盛大にヤジってくる。背後からは、桜木軍団の「ピュ〜ゥ!」という指笛も聞こえてきた。すると桜木くんが、「もっと撮れよ」なんて言ってカメラマンに肩を組んで絡んでいったおかげで、他の卓よりもたくさん写真を撮ってもらっていたらついに司会者がマイク越しに丁寧な言い回しで「もうそのへんでやめろ」と促してきた。私たちはそれに対して、元湘北バスケ部のみんなと思わず顔を見合わせて笑った。会場もお決まりのように、どっと沸いてくれるから、これはもはやコントと言ってもいいだろうと思う。

    『皆様にご挨拶をさせていただきましたお二人をメインテーブルにお迎えいたしましょう。』

     私と寿がメインテーブルに向かって歩いて行き段差を前にしたとき、彼がすっと私の手を引き、エスコートをしてくれた。それに面を食らって、はじめてこの幼馴染をちょっとだけ、ほんのちょっとだけ「やるじゃん」って、見直した。そしていままでで一番、かっこいいなと思った。たぶんこれはタキシード効果だな……うん。そうに違いない、ということにしておこう。

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