想いをのせた歌(3/3)

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    『ここからのお時間は、おふたりにも少しお寛ぎいただきながらお過ごしいただきましょう。』

     鳴り止まない拍手の中、メインテーブルの席に二人でついて、椅子にそっと腰をおろす。

    『新郎新婦とご歓談されたい方はぜひメインテーブルへお越しください。』

     そのアナウンスを聞いてからぞろぞろと順番にいろんな人たちが私たちのもとへと、足を運んでくれた。はじめは安西先生を含む湘北高校の教員やら関係者の方たちが来てくれた。寿が仲の良い教員たちと楽し気に談笑しているとき私が不意に湘北スタメンチームの卓に目やると、木暮先輩がなにやらリョータくんに話しかけている姿が目に入る。リョータくんは木暮先輩に何かを言われて少し言いよどんでいる。そして「いや、」と軽く手を翳し断るような仕草を見せていた。木暮先輩はそんなリョータくんに軽くうなずいてから席を立つ。それにつづいて赤木先輩や流川くん、桜木くんが私たちのところに向かって来た。

     チラと寿の方を見たら、こちらに向かって来る木暮先輩たちを微笑みながら一瞥したのち視線を席に座ったままでいる、リョータくんのほうへと向けた。なんでテメエは来ねえんだよ、と今にも口から零れ落ちそうな面持ちでじーっとリョータくんを凝視していたけれども木暮先輩が「三井、名前ちゃんおめでとう」と、寿の椅子の背に手を添えて言ったので彼もすぐに彼らの方へと何事もなかったかのように視線を向けた。しかし「サンキュー」と笑顔で返す言葉が心なしか寂しそうに聞こえるのはきっと、今この場に��親友�≠フ姿がないことが原因なのだろうと察した。そんな寿に気付いていたのか偶然なのか木暮先輩が申しわけなさそうにして言った。

    「……宮城、遠慮しとくってさ。」

     「さっき外で話したからいいって」なんて付け加えて言った木暮先輩に彼は「あっそ……べつにアイツはいいよ」なんて言い返していたけれども本当は、一番話したかった相手はその��アイツ�≠烽ニい、リョータくんだったんじゃないかなって瞬時に思ったことは、とりあえず新郎様本人にはあえて言わないでおこうと思った。

    「流川くん、久しぶりだね」
    「ウス。……おめでとうございます」
    「あ、ああ……は、はい……あ、りがとう、」

     気を取り直して私が流川くんに声をかけると、現在は世界でも有名になってしまった後輩くんにぺこっと頭を下げてそう言われてしまい私も面を食らって、思わず吃りながらペコリ、と頭を下げ返してしまった。そして——私が高校二年、彼が高校一年だったときの文化祭でなぜそんなことになったのか、この��世界の流川楓�≠ニキスをしてしまったことを思い出し、途端に気まずくなる。

    「いやぁ〜、めでたいですね!名前さんっ!」

     しかし、そんな私には気にも留めず桜木くんはそう言ってガハハハ!と笑いながら、流川くんの肩に腕を回し豪快に笑っていた。そんな桜木くんに「離せ」と冷たくつぶやいた流川くんだったがとくに、自ら離れる素振りなど見せないところを見れば今では二人も、寿とリョータくんのような関係性になったのかな?と思い、なんだか嬉しくなった瞬間だった。
     もちろん、そうであって欲しいし、そうなるに決まっているなんて思ったら、何故か目頭が急に熱くなった。年を取ると涙腺が緩くてどうもダメだな、と自嘲する。

     お色直しの前に安西先生やリョータくん、彩子からのスピーチをありがたくも頂戴して、それも笑いあり、涙ありで素敵なものだったが——次はいよいよ、余興の時間だ。
     新郎側はリョータくんにお願いをして、新婦である私は晴子ちゃんにお願いをした。そんな晴子ちゃんが用意してくれたのは、なんと、私と寿の高校時代の再現ムービーであった。私役を彩子が演じ、なんと寿役をあの水戸くんが演じたのだ。さすが晴子ちゃん、と思ったのはリョータくんはそのまま本人が演じたことと、彩子を脚本家兼、演出担当である晴子ちゃんが演じたのがなんともおもしろかった。
     軍団もそのまま、本人たちが演出していたが、そんなことよりも、あんな大画面に、水戸くんが主役で晒されたことで、途中から湘北卒ではない他の女性ゲストたちからの黄色い声援に会場内が切り替わっていったことで隣に座っていた新郎、寿は少々、不機嫌そうにしていた。ともあれ……これでまた��水戸信者�≠ェ増えたというオチだ。

     新郎側の余興ではすこし前に、寿にドッキリをかけたあの映像が流された。誰が小細工したのかもはやユーチューバーが作りそうなクオリティの高すぎる映像に会場も大いに盛り上がった。そのドッキリ映像のあと、まさかのサプライズで当時湘北バスケ部が戦った強敵の陵南、海南、翔陽のスタメンチームや元監督たちからのお祝いメッセージが個々に流された。「すごいね」と、小さく私が耳打ちすると「宮城だろ」なんて誇らしげに言い切った、新郎様のその姿に、思わずクスッと笑ってしまった。
     お祝いメッセージが流されているあいだ、隣を何度かチラっと盗み見たとき、映像の相手を見て「牧じゃねーか」とか「仙道か」と無意識なのかぽろっと零したりしていた彼はそれはそれは嬉しそうに目を輝かせて大画面のスクリーンを眺めていた。基本的に私とは面識も少ない人も多かったため彼へのお祝いメッセージが多かったけれども彼がとっても幸せそうなので私もなんだか幸せをおすそ分けされた気分だった。
     それにしてもリョータくんのネットワークってほんとにすごいや。もはや、感心すらしてしまうレベルだ。いまとなれば、その元強敵の中には、流川くんと同様に有名人もいるわけなので映像に流れてくる相手によっては、会場に時おり歓声があがっていた。まるで芸能人の結婚式でも開かれているみたいだ。でもよくもまあここまで集めてくれたもんだよ、リョータくん。素晴らしいよ。アンタ、さすがだよ……なんてね。

     お祝いメッセージの映像が全て終わったあとは会場にも大きな拍手が沸いた。完璧すぎる余興をプレゼントされて幸せの溜め息が零れてしまう。笑い疲れたというのもあるかもしれないけれど。
     私と寿も一緒になって拍手をしているとき寿が不意に私に耳打ちをしてきた。

    「宮城の結婚式の余興、大変だな、こりゃ……」

     と——。私は、ウンウンと何度もうなずいた。実際に私も彼と同じことを思っていた。こんなに盛大にやってもらって私たちがもしも、リョータくん(と、彩子)のときの余興を任されたら重大任務すぎるし大変だろうなって。それでも寿は、やっぱりひと言が多い人間なので「アイツが結婚出来ればの話だけどな」なんて軽口を叩いてからふはっと笑っていた。
     まったくもう、素直じゃないなあ。もし本当にリョータくんにスピーチなんかを頼まれたあかつきには、当日、号泣して読み切れないくせして。とは、言わないでおこうと思う。

    『——皆様、楽しい時間をお過ごしいただけたでしょうか?』

     司会者のそのマイクの声に響き渡っていた笑い声や拍手の音が、徐々に止んでいく。会場全体がそうするように、私と寿も自然と司会者の方へと顔を向けた。

    『本日お越しの皆様から沢山の祝福をいただいているお二人でございますが、お二人にはご祝電も頂戴しております。』

     突然、優し気なオルゴール調のBGMがながれはじめて、そのリズムにタイミングよく合わせるようにして、司会者が祝電を読み進めていった。
     
    『——ここで、新郎新婦にいただきました祝電をご紹介させていただきます。順不同でのご紹介となりますこと、どうぞお許しくださいませ。』

     その祝電のなかには、あの元山王工業のバスケ部のメンバーからのメッセージもあった。しかし現在海外で活躍している沢北さんからは、単独の祝電であったことから彼の名前が読み上げられるや否や女性群に限らずバスケ好きのゲストの方や湘北高校の先生たちからも興奮気味の黄色い声が飛び交った。
     今でも山王工業と湘北高校のバスケ部は繋がりがあるらしいことは寿からも聞いていた。そしてあの��沢北栄治�≠ニリョータくんが実は友人関係である事も元湘北バスケ部員のあいだでは有名な話だが、その前になんで寿と私が結婚したことを沢北さんが知っているのかな?なんて思ったり。もしかすると、寿からなんらかの流れで知らせるきっかけがあったのか、もしくはリョータくんが伝えたのか……そんなことを考えていると、なんだか私って、とんでもない人と結婚しちゃったのかな?と、一瞬あたまの中が混乱した。
     そもそもの話、この会場には、今では世界的に有名なあの��流川楓�≠ェいるのだから、その彼と先輩後輩関係にあるとこ自体もう私の旦那さんはすごい人なのだろうけれども。桜木くんだって、日本では有名であるから、そんな二人が一番近い友人卓に座っていることがよくよく考えてみればいまではなんだか、信じられないくらいだ。

     そんなこんなで、緊張しっぱなしだったからか楽しかったからかあっという間に私たちの披露宴は、お開きの時間を迎えた。会場の外でゲストをお見送りするため三井家と名字家が会場の外に整列する。
     そのとき、隣に並んだ新郎様が「あ〜あ、ようやく終わったかぁ」なんて、一番楽しそうにしていた分際で偉そうに、一仕事終えたみたいにして言い放つもんだから、私はあたりまえに呆れて、返す言葉もなかった。だが、ふと思い立って声のトーンを上げつつ彼に声をかける。

    「……ねえねえ、」
    「あン?」
    「お祝いメッセージと祝電さぁ〜?すごい顔ぶれだったねー」
    「……あー。ああ、だな。」
    「沢北さんって、いま、NBAでもめちゃくちゃ活躍してるもんねぇ?」
    「ああ。けどよ、それ言ったら流川も似たようなもんだろ。新人賞とってるしな、アイツ。」

     まるで「俺が流川を育てました」とでも言わんばかりに胸を張ってそんなことを言う彼を、ジト目で見上げる私。そんな私を気にも留めず彼が、ぽつりと言った。

    「——でもまあ、やっぱりなかったな」
    「ん、なに?」
    「藤真からの、祝福のメッセージは。」
    「……。」

     彼が腰に両手をあてがい少しかがむように私を覗き込む。私はそれにさっと視線を逸らしてから言い返した。

    「豊玉メンバーからだってなかったじゃん」
    「あー、そう言えばなかったなぁ。今でも南とは繋がりあんのによ。はは、ヤツららしいぜ」
    「じゃあ……、いいじゃん。」
    「……。」

     ん……?と、思った。相手がなにも言い返してこなくなったからだ。ちらと目の端だけで相手のことを確認してみれば、いったい私のどの部分が不服だったのか、自分から話を振ってきたはずの彼は「気まずそうにすんじゃねえよ。」と、ややくちびるを尖らせていた。

    「……ったく、なぁんで藤真が元カレなんだよ」

     彼は、は〜あ、と抑揚をつけ溜め息を吐き散らす。今さらそんなことを言われても……と、言いそうになる口を噤んで私は、もう一度そっと彼を見上げた。

    「寿、」
    「あ?」

     と、彼が心底めんどくさそうな仕草で、視線を私に寄越してくる。私は彼に、ニコと微笑んだ。そうして、小さな声でつぶやいた。

    「——でも私は、どんな有名人よりも寿が世界でいちばん、好きだよ。」

     司会者の人が彼の両親と私の父に何やら説明をしていたので、私のいまの言葉はきっと隣に立つ彼には聞こえていなかっただろうと思っていた。しかし、彼の耳にはきちんと届いていたようで、一瞬で茹でタコみたいに赤面した彼が、ぶっきらぼうに言い放つ。

    「バーカ。」

     そう言って私から顔をプイッと背けてしまった新郎様は、つづけざまに照れながら言った。

    「俺だって、宇宙一 名前が好きだっつーの」

     「言わせんなよ」と誰も言ってと頼んでいないのにそんな台詞を恥ずかしげもなく言ってのける彼を、やっぱり素直に大好きだなぁって思った。
     すぐに正面を向き直った彼は、まだすこしだけ頬を紅潮させて、せっかくかっこよくセットした髪の毛——その後頭部をガシガシと掻きむしる。

    「あーだめだめ!せっかくセットしてんのに!」

     思わず手を伸ばして彼の手をつかめばその私の手を取った相手が、ニッと口の端をあげて笑い、その繋がったままの手を恋人繋ぎに変えて、下におろした。

    「手ぇ繋いで、みんなのこと見送ろうぜ」
    「——バ、バッカじゃないの!?どこの世界に、手を繋いで見送る新郎新婦がいんのっ!」
    「あ? ここ。」
    「なっ………!」

     と、自分と私を交互にあたりまえのように指を差す彼に「もう……」と今日にかぎっては幸せな溜め息が漏れてしまった私。ほんと、重症だな。

    「——さって、最後の大仕事だな。」
    「うん……。」

     何年も見つづけていたはずの幼馴染の横顔が、今日は本当に一段とかっこよく、そして頼もしく見えるよ。幸せを噛みしめながら、これからも、私の隣に立っている幼馴染に全てを預けて生きて行こうと、私はそっと目を伏せた。

     きょうみたいな、穏やかな昼下がり——うつらうつらと過ぎるこの時間が私は大好き。隣にいるあなたの気配と、扉の向こうから聞こえる大切な人たちの楽しそうな声。何気ない日常の一コマの中に、こうしてあなたと私がいる。
     いつも夢の入り口で感じるのは、髪をすくう、あなたのながい指先で、やさしい子守歌のように流れるのは、あなたの声。これからも私はいつも安心したように目を閉じて、しばしの眠りの中で夢を見るんだね。あなたのゆりかごの中で。

    ——ねえ、寿?これから先も、ずっとずーっと、わたしの側にいて……ね?


     たとえばまた、お前と離れていた日々のことを想いだして眠れなくなったとしても。夜の隙間にお前をさがしていたあの頃のように、変わらないこの気持ちで命が果てるまでお前を想うと誓う。

     これから先も目に映る青い空、海、太陽、緑の大地を感じるままに、愛を放つからこそ繰り返す何度も、間違いなく——名前、お前は俺にとってたった一人だけの……










     世 界 に 一 人 の シ ン デ レ ラ 。



    (——なあ、名前。)
    (ん……?)
    (ずっと、俺のそばにいろよ。)
    (……うん。)


    ※image song『 Bloom/ Superfly 』
    ※Lyric by 『あなたがここにいて抱きしめることができるなら/miwa』
    『 世界に一人のシンデレラ/PENGIN feat.U 』

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