愛をありがとう(2/3)
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二次会は言わずもがな水戸の店で執り行われることになっていた。いまここにいない者たちや、披露宴には参加しなかった仲間たちとも、そこで合流することになる。
勝手に、二次会の練習をしていた元湘北の連中たちと俺も水戸の店へと移動をはじめた。準備のため水戸はすこし先に店を出て行ったので、俺の隣には彩ちゃん、すこし後ろをダンナや木暮さん晴子ちゃんに流川。俺たちの少し前を堀田たちと花道を含む野郎軍団3人が「ラブソぉぉ〜ング!もうひとりじゃあ〜生きてけねぇ〜よぉ〜♪」とまさに、自分たちを具現化したとも言える某アーティストの代表曲を仲良く肩なんか組んだりして熱唱しながら歩いている。それをBGMにして、俺たちも緩く、雑談していた。
「水戸の店を貸し切りにして結婚式の二次会なんて、すごいなぁ」
木暮さんの言葉に彩ちゃんが「三井先輩直々にお願いしたらしいですよ?」なんて言う。それを聞いて呆れたように溜め息をついたダンナの姿は昔と全く変わらない。しかし話題はすぐに世界で活躍する流川のネタへと移行し、そんなたわいも無い会話に花を咲かせながらも水戸の店へと向かう足取りは皆、軽かった。
店にたどり着くと、すでに大勢の招待客が店の外で集まっていた。なかには、見知った顔もちらほらといて二次会ではカジュアルな格好もOKと言われていたせいか、皆がめいめいに好き勝手な格好をしている。
「宮城、久しぶり。」
急に名を呼ばれて思わず振り返る。そこには、大学時代のバスケの先輩で三井サンとも大学から交流のあった人物が立っていた。
「ああ、ども。久しぶりすね」
「あれ?カジュアルでいいって言われてたのに、なにをそんなに、めかしこんでるんだ?」
先輩は俺の装いを見て笑った。とか言って自分だって、季節ものの明るいカジュアルスーツに、Yシャツ。ついでに、洒落たネクタイまで締めてんじゃねーの、とか思いつつ、言葉にはしないでおこうと口をつぐむ。恐らく、今日のために新調したのだろうと察するが、まるでこれからシティホテルでデートでもしようか、それとも、バーにでも行って一杯飲もうか?とか、言い出しそうな感じのそのスタイルに俺はバレないようクスッと笑った。
「俺たち、ちょっと時間あったんでそのまま軽く練習してたんすよー」
「練習?」
「そー。二次会の。」
酒を飲む仕草で手首をぐいっとやってみせるとすぐに理解したらしい先輩が「あー」と相づちを打つ。そして「そっちこそなんなのその格好」とやっぱり口をついて出てしまった俺に先輩は諭すように言った。
「バカだなぁ、知らないのか?結婚式の二次会と言ったら、出会いのチャンスの場だろー?」
「で、あいの……ちゃんす?」
「そう。チャンスってのはな、掴めるときに掴んどかなきゃ、意味がないんだよ。」
俺がハイハイと頷けば「変わってねぇな、そういうトコ」なんて返される始末。しかし次に彼は俺の肩をポンと叩いて言った。
「スーツ、似合ってるよ。宮城だって男前だぜ」
そのときガラガラと扉が開き店の店主、水戸が顔を覗かせた。中に入っていいと言われぞろぞろと店の中に入っていく面々を横目に、俺もそれにつづく。
適当に座った俺の隣に、すかさず腰を下ろしたのはさっき外で声をかけてきた先輩だった。彼はちらりと向かいのひとつ隔てたテーブル席を見て言った。
「三井の嫁さん、女子大出だっけ?あの子たち、嫁さん側の友人一同かな?」
言われて見ると7、8人の女の子たちが運ばれてくる料理なんかを見ながら、なにやら話をしている。そしてこっちに気付いたようで、今度は、俺たちをチラチラと見ていた。そんな中、先輩は言った。
「——あの、左から三番目の子。あの子いいな」
俺は先輩が目をつけた女の子を探した。ああ、ああいう子が好みなんだ。そういえば、以前付きあってた子も、ああいうタイプだったよな……と俺が、そんなことをぼんやりと考えていたとき、その中の女の子のひとりが吹き出した。そして、彼女たちはなにやらひそひそ話をし、めいめいに笑いはじめた。あきらかに俺たちのほうを見て、笑っている感じで。
「ほらー。見すぎるから笑われてるじゃーん」
「そんなハズはないだろ?なんでこんなイケメン見て笑うんだよ?」
なにそれ、と俺は突っ込みを入れようとしたが突っ込む前に先輩がさっと席を立ちその子たちの元へと行ってしまったので、もう気にしない事にしようと何となく意識をカウンターの奥に向けてみれば彩ちゃんや晴子ちゃんが、率先して水戸の手伝いをしている姿が目に入り、俺はぜったいにこっちの二人のほうが、いいけどなぁ〜、なんて思った。
そんなことを悶々と考えている内に時間だけが過ぎていき、目の前にはたくさんの料理が並び、酒も運ばれてきた。
気づけば俺のいた卓には、ダンナや木暮さんに堀田たち三井サンの元不良仲間。後は花道を除く野郎軍団たちが座っていた。花道と流川はヤスやシオのいる席で、楽しげに会話を交わしている。こちらも、近くに座っていた人たちと軽く会話をしていた数分後『あ。あぁー、マイクチェック、マイクチェック〜』と、突然、マイクが入った。見ればテレビに繋がれたゲーム機のカラオケ機能を利用しているようだった。
『ただいまよりミッチー夫婦の結婚式の二次会を行いまーす!それでは新郎新婦の入場で〜す!』
大ボリュームで、明るいポップス調のBGM(完全にゲーム機のカラオケの曲)が流れだし、さっきまで、おなじ卓にいたはずの野郎軍団が、前に立って進行をしている。その進行と共に新郎新婦があらわれた。店内では拍手がわき上がり、皆の視線は入り口に立つ今日の主役の二人に注がれる。
『装いを新たに』なんて式のときに言っていた司会者の言葉を思い出させるような華やかに着替えて来た二人の姿を俺はなんだかぼーっと眺めていた。俺たちの座る卓を横切る三井サンを追うように見ていた俺の目線がなんとなく、三井サンのジャケットの下に向いたとき、そこで初めて気がついた。え?三井サン……もしかして、Yシャツ裏返しに、着てね?——って。
『さぁさぁ、主役はこっちに立って〜!』
「お、おぅ……」
高宮の誘導に柄にもなく照れる先輩の姿を見ていや、笑っちゃいけない、笑っちゃ……、こんな席で笑うなんて、と思い、自分を必死に抑えた。しかし、いや待てよ。と俺はある疑惑を持った。三井サンのことだ。もしかしたら、これはタチの悪いジョークなのかもしれない……と。
そうこうしているうちに、正面に立った主役の二人が軽く挨拶を終えて席についた。雰囲気からして、しばらくはだれも、彼のシャツのことには気付かないだろうと俺はホッと胸を撫でおろす。
とは言え、俺は三井サンに声をかけるのをためらってしまった。だって、もしかすると本気で、ジョークでもなんでもなく彼なりのファッションかもしれないからだ。だが、そんなことが、有り得るのか?やはり、間違ってシャツを逆さに着てしまったというほうが彼の場合は、可能性として高い。
ど、どうしよう。ここはやっぱり、こっそりと言って、先輩を救ってやるべきなのだろうか……
俺が考えあぐねている内にゆるゆると二次会のプログラムが進む。新郎新婦の馴れ初めの映像が流れたり二人への質問コーナーや、元不良仲間と野郎軍団のカラオケ大会があったりもしたが俺の席と三井サンが座っている席は遠いし、シャツのことを言う機会が、なかなか作れない。
もう少し様子を見ながら機会を待つしかないと思ったがその間も俺は三井サンのシャツのことが気になって気になって、しょうがなかった。他のことなど、なにも考えられないほどに——。
*
そうしてやっと、フリータイムがやって来た。新郎新婦の二人が席を立ち友人たちに挨拶回りをはじめている。——今だ!今こそシャツのことを言うときだ!と俺は三井サンがこちらの席に来る瞬間を狙ってこっそりと三井サンに声をかける。
「あ、あの、三井サン……」
そのときだった。つかつかと、こちらにやって来る女性の姿が目に入ったのは。
その女性の正体はまさかの——三井サンが高校時代、不良仲間たちと一緒に体育館にバスケ部を潰そうと襲撃に来たとき「俺も好みだ」と言ったあの、彩ちゃんだった。彩ちゃんは、真っ直ぐに三井サンを目指して歩いてくる。そして「あの、三井先輩……」と、彼に耳打ちをした。
「あ?」
「……シャツ、裏返しに着てますよ。」
つぎの瞬間、三井サンの顔が、真っ赤になる。そして一目散という言葉がぴったりな程の早足でその場を、去って行った。さすがに心配になった俺も、そのあとをついて行って、席を後にした。そうしてトイレの前。俺はしばらく、三井サンが出て来るのを待っていたが彼はいつまで経っても出てこない。よっぽどショックだったのだろうと俺はかなり落ちこんだ。なぜ、すぐに言ってやらなかったのだろう、と。もっと、早くに知らせるべきだった。迷ってないでさっさと最初の段階で言ってやれば良かったんだ……。
「……ついでに、ウンコでもしてんのかな。」
あまりに出てくるのが遅いのでそうつぶやいた俺はついにトイレのドアを叩いた。そして「ねぇ三井サン。大丈夫?」と声をかけてみる。すると「よう」と言って、何ごともなかったかのように三井サンが中から出てきたので、俺は即座に頭を90度下げ、両手を合わせて謝った。
「——ごめん! ほんとは気付いてました。俺がもっと、早くに言ってれば……」
「イヤ、いいんだ」
と、三井サンは俺の言葉を遮って言う。そして「それじゃ戻ろうぜ。みんな待ってるしな」とか付け加えてさっさと先を歩いて行った。あまりの恥ずかしさに、逆に冷静になってしまったのかと思いつつ、俺も後を追って戻ると三井サンはそのまま真っ直ぐ彩ちゃんの元へと向かっていった。なにをする気なんだろうかと、俺はダンナたちのいる席に戻って座り、その二人の動向をじーっと見つめていた。どうやら動きからして、先ほど、シャツの注意を促してくれたことに対しての礼を言っているように見えた。
「彩子、さっきはありがとな」
彩ちゃんは、忙しなく水戸の手伝いをしていたため突然背後から声がかかったことに少し驚いている様子だったが、すぐに、返事を返していた。
「いえ、私こそ。ちょっと不躾な言い方しちゃいましたよね」
「いやいいんだ。助かった。あのまま気付かずにいたら、もっと大恥かいてたわ」
「というか……大好きな奥様は、最後に確認してくれなかったんですかぁ?」
「お互いバタバタしててよ……そうだ、お礼とか言ったら重くなっちまうけど……」
え、なに!?なに、しようとしてんの!?と、すこし身を乗り出した俺の心情を知る由もなく、三井サンは最後に、こう付け加えた。
「今度、飯でも奢るぜ。」
三井サンからの突然の誘いに、彩ちゃんは少し驚いているようだった。が、しばらく考えたあと「え、いいんですか?もちろん三人で行くんですよね?」と、ウインク付きで答えると三井サンは「あたりめーだろ」なんて、得意げに言う。
……三人って、もちろん新郎新婦と彩ちゃんの三人ってことなんだろうけど……え、いいなぁ。俺もトイレで待っててあげたんだからさ、仲間に入れてよねー、なんて拗ねつつ、その一部始終を見ながら簡単に飯を誘える三井サンの人たらしさって得だよなーと、ただただ、あっけにとられていたのだった。
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