曖昧すぎて壊れやすくて(3/4)
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シャッターを押してくれた彼は自分の友人たちのところへ戻り、そのまま、会場の中へと歩いていった。私たちも会場の入り口に向かって歩き、途中、懐かしい面々と軽く言葉を交わしながら、中に入った。
同窓会の会場にはいったい、どれほどの人数がいただろうか。広い会館の一室を貸切にしているため、正直ぎゅうぎゅうになっている。それでも今日がまるで数年前の中学校の卒業式であるかのように、わいわいと盛り上がっていた。室内は、やや薄暗くされていて壁にプロジェクターで懐かしい写真なんかをスライドショーで映している。
突如、奥の扉が急に勢いよく開いて、なんとも世話しなく、当時の学年委員長が入ってきた。
「はあ〜。間に合ったー。まだ、あれ流してないよねっ?」
「ぎりぎりセーフ!はーい、みなさ〜ん注目!」
前方のほうで本日の仕切り屋さんたちが進行をすすめていく。マイクの音に耳を澄ましてみれば『ここで私たち同窓会実行委員からサプライズがあります!なんと我らが大女優、なまえちゃんよりビデオメッセージが届いていま〜す!』と言っていた。
どうやら本日の同窓会を欠席する代わりにビデオレターで、コメントをくれたようだ。当時からお調子者で有名だった男子たちが動画が一番よく見えるプロジェクターのまえの床に座っていた。私と一緒にいた友人は、手を天井に着くぐらいにあげてほかの友人を呼んだ。相手もそれに気づいてドリンクを片手にこちらにやってきて私たちが座っていた席の近くの椅子に座った。
『え〜、みなさん……いや、みんな!久しぶり!本当は、すこしでもいいから同窓会にでて——』
いまでは有名になってしまった同級生のビデオレターをぼうっと眺める。——みんなに会いたかったけど、仕事の関係で欠席することになって、本当にごめんね。えーっと、なにを言えばいいんだろう……。と、彼女が言葉につまっていると、なにやら、カメラの横から助言している人の声が入ってきた。マネージャーだろうか。はたまた、撮影をしに行った、同級生のだれかだろうか。
『えーと中学の時の思い出かぁ……なんだろう、そうだ!三年間ずっと好きだった人がいました』
それまでシーンとして聞いていた場内が一気にざわつきはじめた。私は、そんな同級生のビデオレターを見ながらふと一個下の、いずれ有名人になるであろう黒髪で淡白で端正な顔立ちの彼と、真っ赤な坊主頭で笑顔の可愛い、ふたりの後輩のことを思う。きっと彼らはいまでも変わらずに、大好きなバスケットボールを追いかけていることだろう。
『——ただ、ず〜っと片思いで、三年間を終わりました! あははっ、大丈夫かな?これ……』
会場内は「だれだ、だれだ」と犯人捜しをする者もいれば「お前はちげーよ」と、後ろから頭を叩かれている人もいた。しかし、この場の反応を予想して、すぐさま質問をした優秀な人がそばにいるらしい。やはり相手はマネージャーではなく実行委員のだれかだろう。それに対して彼女は、『……え、だれって?言えないよー!』とか言い返していた。
『うーん、とっても優しくて、学校休んだときは必ずノートを見せてくれて、芸能人になりたいと相談したときもずっと励ましてもらってました』
『お世話になってばっかりでなにか恩返ししたいなって、思っていました。』
『……そうだ!彼の応援をしたくて、最後の夏にバスケの応援にいきましたー!す〜っごくかっこよかったなぁ〜!』
『今日は来てるかな?』や『あ、やば……バレちゃう?ま、いっかぁ』などなど。彼女は過去の記憶を思い出して、懐かしんでいるようだった。そうして『本当にありがとうございました。私もこれからもっと頑張ります。みんなも、頑張ってね!』と締め括った。
ビデオレターが終わると場内はすっかり静かになった。彼女と仲の良かった子たちなどが、啜り泣いている声が聞こえてくる。泣いてる子のそばにいた女子が駆け寄って彼女を抱きしめていた。プロジェクターの光は、まだ壁を照らしている。私のそばに座っていた友人たちも、やはり泣いていた。大泣きとはいかないまでも周りの子たちによしよしされながら涙をふいていた。私はそんな友人のために何か飲み物をとってきてあげようと席を立つ。
場内のざわつきはすっかり戻って思い出の話に花を咲かせている人もいれば、就職やら卒業旅行やらと、将来の話をしている人もいた。
飲み物は、セルフサービスだ。自分でグラスをとって注いでいく。そのとき不意に一人の男性が頭の中に浮かんだ。一個上の——幼馴染の彼だ。懐かしいなあと思う。その感情に中学生のときに想いを寄せていた自分の思いが複雑に絡みあって私は小さく苦笑した。
私がグラスに氷をひとつふたつと入れていると隣にひとりの男性が立つ。見れば、さきほど外でシャッターを切ってくれた、あの、元バスケ部の彼だった。
よみがえるあの日の生徒入り口での出来事に、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「思い出してきた。いや、湧いてくるって感じ」
「……ん?」
「たしかに俺、あいつが好きだった。」
「え……好きだったんだ。みょうじくんも」
「うん」
「……。」
——そういえば。さっきビデオレターをくれたいまは有名人の彼女はたしか……陸上部だった。私はあの日のことを思い返した。でもあのときは『みんなのことを引っ張ってる姿をみて、自分も頑張ろうって』なんて、そんなことを言うから、バスケ部のだれかのことだとばかり。なるほど、だからあのとき、なんとも言えない表情をして、雨上がりのグラウンドを見つめていたのか……。
私は半信半疑であったものの、少しずつ状況が理解できてきた。そして自分の思っているよりも事態は重大だと感じた。なぜならば、彼女と彼は要するに��両思い�≠セったってことだよね……?と、思ったからだ。
「——ねえ、名字はどうだったの?」
「……ん? なんのこと?」
「だから、あのときも聞いたけど——」
「……うん?」
「三井先輩のこと、どう思ってたの?」
「え……。」
忘れられない、恋をした。きっと、いつかまた出会ってしまったら出会わなかったことにはできないから苦しいとは思うけど『あぁ、いまわたし恋をしているんだなぁ』って認められたあの瞬間だけは、やっぱり、幸せだった。
「うーん、好き……だったかなぁ……」
「……、」
「…………え、」
「……。」
「——!!」
——ハッ!!し、しまった……!つい、流れでさらっと言ってしまった。まずい。彼の顔を見ることができない。このまま、いま手に持っているグラスを落っことしそうでもある。落ち着け……まだ焦るような時間ではない。大丈夫だ、なんとでも理由は付け加えることができる——と、そう思っていたのも束の間、さきに彼が口を開いた。なんとも、半笑い且つ、含み笑いも添えて——。
「……だった?その名字の様子みてたら、そうは思えないけどねー?」
「えっ!?う、うーん。正直、よく分からない」
「……」
「だけど。さっきのビデオみてたら、なんか昔の片想いだとしてもしっかり気持ちを伝えたいって思った——かも、……ね?」
「えー? 片想い?」
「……、」
「知らないの?三井先輩が名字のこと、ずーっと好きだったって。」
「……。」
こういうのを、想いが通じるというのかも知れない。現実ではなかなか、ハッピーエンドにならないような状況でも、このような、幸せな結末もあっていいと思う。うん。それくらいがきっと、私たちには、ちょうどいい——。
「んー? ぜんぜんっ。知らない、知らない。」
「……名字、実はさ、あのとき聞いた質問。」
「うん?」
「あれさ、本当は、三井先輩から聞いてくれって言われてたんだよね……」
「え……?」
「お前、同じ学年だろ〜?って。それでずっと、聞けるタイミング見計らってたっていうかさー」
「……、」
あのころ——流れ星を探して、繰り返し願ったことはただ、ひとつ……。わたし、寿だけの光になりたかった。
「たしか今日のOB会も来るって言ってたような気がする。 俺は、同窓会だけで帰る予定だったから、断ったけど。」
「……、」
「名字、がんばれよっ!」
彼は満面の笑顔でそう言い置きグラスを持って友人たちの輪のなかへと戻っていった。
……がんばれ、とは?なんて、心のなかで質問返しをしながら私も席に戻ると先まで泣いていた友人は、すっかり元気になっていた。一応持ってきた飲み物を手渡すとお礼を言って、それを一口飲んでいた。しかしグラスを机に置いたとたんに彼女はまた、目に涙を浮かべているようだった。
「なんかダメだね〜、涙もろくなっちゃって」
「まあ、いーんじゃない?そういう会だし?」
「名前〜!あんた神様!女神!結婚したいっ!」
「……はは、大袈裟だって〜。」
なんとも昔から変わらずに、喜怒哀楽の激しい友人である。まあ、そんな私も……人のことを、言えた立場ではないけれども。
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