僕は君ひとりだけの味方(1/8)

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    —— 成 人 式 案 内 状 ——

     輝かしい新春とともに成人となられる皆さんに心からお祝い申し上げます。

     次代を担う皆さんが新成人としての新たな出発とともに、社会人としての責任ある行動によって未来へはばたき、成長していけるように、前途を祈念し祝福するため『 はたちのつどい 』を開催致しますので、どうぞ皆さんお誘いあわせのうえご出席くださいますようご案内申し上げます。

     期日 20○○ 1月10日
     会場 ○○市民会館

     水戸様のご参加を心からお待ちしております。

    ————————————


     十一月も終わりに近づいてきて一気に寒い日が増えた。それに加えて今日は雨だった。傘なんて意味がないってくらいに降った。そりゃあもう、土砂降りってなかんじで。
     アパートのポストに届いていた一枚のハガキ。郵便受けに珍しくなにかが入っていたのだ。ダイレクトメールにしては小綺麗な気が…しないでもない。手紙——?と。だがこの時代に手紙とは?なんて、ひとりでもの思いに耽ってみたりする。そうしてなかを開くとそれはなんと��成人式�≠フ知らせであった。

    「あー。成人式、かぁ……。」

     彼女は去年——参加したのだろうか。もう会うこともないだろうと思っていたのにこんなことを無意識に思う自分がいやになる。
     高校を卒業してから彼女は女子大に進学。俺は卒業後、就職。電話やメールどころか、いまではどこに住んでいるのかさえも、なにも知らない。唯一、連絡先だけは知っているけれども。だが、とくに互いに連絡を取りあうこともせず今日までずっと生きてきた。
     彼女の元カレたちの成人式の日に久しく会ったきり、それ以降は一度だって顔を合わせたことがない。やっぱり連絡してみるべきだったかな、と後悔ばかりが生まれるので日頃は考えないようにしている次第。

     思い返せばずいぶんと早い人生だったようにも思う。高校生のときに��初恋�≠轤オきものを経験して、未だに想いを寄せている始末で……って、ちがうって。語弊があるな。べつに、そーいうんじゃねーけどさ。……まあ、とりあえず。ずっとその想いを胸のなかに秘めて生きてきた。

    「なァ〜んで、気になっちまうかねぇ……」

     思わずひとりごちて、お人好しがすぎる自身のそんな様々な感情を押し殺しながらポストに入っていたそのハガキを手に持ちアパートのなかへと入る。そうして諸々片付けなんかをしてから床に腰を落ち着けて流れ作業のごとく煙草に火をつけた。

    「……。」

     やめやめ……辛気臭すぎ。とりあえず元バスケ部とかにも会いたいから参加はしよう。どうせ 花道と軍団(あいつら)は、あたりまえに参加するだろうし。
    たとえあの人に会えなくたって同級生には会いたい気持はなくはないから。しかも今回は俺たちの成人式なわけだし。そう思いながら俺は溜め息とともに煙草の煙を吐き切って参加表明に丸をつけた。


     *


    「うっわ……、混んでるなぁ。」

     ——成人式当日。無難にスーツを着て来ようと思っていたのだが大楠の親父が「五人で色違いの袴を着ろ」とうるさかったので軍団(エトセトラ)たち、あと花道と色違いの袴を着た。色はご想像におまかせします。ただひとつ言えることは、花道は安定で��鮮やかな真っ赤�≠�着ましたよ、って話。
     そうやってどういうわけか、晴れて��成人�≠フ仲間入りを果たしたきょうのこんな日まで一緒にいる羽目になってしまったこいつらと、こうして仲良く五人揃ってやって来たはいいが、あまりの人の多さに度肝を抜かれる始末。まぁ......一生に一度の大事なイベントなんだろうから仕方ないのかもしれないけど。

    「……よし。」

     と、なんの気合いなのか不明だが、今日はいちだんと金髪リーゼントに磨きがかかっている大楠がぐいっとリーゼントを両手で直す仕草のソレをしながら言いその一歩を踏み出し受付のところに向かった。それにつづくようにして、残る俺たち四人がぞろぞろとついていく。

    「お名前を教えてください。」
    「あー......水戸洋平、です。」
    「——はい、確認できました。本日はおめでとうございます。」
    「え......。あぁ、ありがとうございます。」

     無難な言葉を残して会場に入る。湘北の同級生なんかを探してみるがまったく見知った顔が見つからない。そんなことをしている間に花道は他の学校の知り合いを見つけたのかその大きな図体で風を切って走っていく。見ればその相手は元海南バスケ部のノブナガくんであった。残りの軍団(エトセトラ)たちは女子の品定めをしているようだ。

    「……はぁ。帰ろっかな。」

     いや、駄目だ。まだ式すらはじまっていない。開会式までに、まだ時間はある。もうすこしだけ残ってみてやっぱり気が乗らなかったら帰ろう。そう思って近くにあった椅子に腰をかけた。そこがちょうど壁際で市民会館の中がよく見える位置だった。と言っても座っているので人の腰あたりしか見えないが。

    「きゃ〜!?懐かしぃ〜!元気にしてたぁ!?」
    「よう! 久しぶりだな!」
    「だれと来たの?みょうじくん、一緒!?」
    「まったアイツのことかよ〜、変わんねーな!」
    「成人式マジックで、いい関係になれるかも!」
    「お?さては同窓会抜け出す気だなぁ?まったくけしからんのぉ! このっ!」
    「——きゃ!? もう、やめてよぉ〜!」

     まったくもって耳障りで極まり無い喧騒を聞き捨てながら目を閉じる。目を閉じてどのくらいが経過しただろうか。ふと隣の椅子にだれかが座る気配を感じた。
     こんなにたくさんの椅子が並べられているのにあえて隣に座るかねぇ……なんて思いつつ薄目を開けて横目で確認してみれば——。

    「──っ!?」

     思わず声が出そうになった。あのころに比べて印象も身長も顔もだいぶ違う。街を歩いていたらきっと10人中、1人か2人は振り向くであろうみてくれの良さ。だがそれは、学生のころをよく知っているからこそ可愛く見えて輝いているわけであって。うん、間違いない。たぶんあの娘だ。

    「あーん、もう!藤井ったらぁ〜。勝手にいなくならないでよぉ〜」
    「……」
    「——あら? もしかして、洋平くぅん!?」
    「おー、晴子ちゃんか。久しぶりだなー」
    「覚えてるぅ? 隣にいるの、藤井よ、藤井!」
    「……あー、……う、うん。」

     え、ちょい待ち。なにこれ。どういう状況だ?なんかいい匂いする、って、そうじゃねーのよ。そうじゃない。しかもこれじゃ、ただの変態だ。溜まってんのかな、俺……。いや。そんなことは断じてないけど。最近なにかと忙しくて、睡眠も足りてなかったから疲れているんだな、きっと。
     俺のなかではなんて言うか、花道が知り合いと楽しそうに喋ってる姿を見れるだけでよかった。その姿を見れたら帰ろうと思っていた。けれど、これはちょっと予想外。というのも、いまのいままで、この子の存在すら忘れていたっていうね。

    「あの……水戸くん、」
    「へっ? え、あ……ハイ。」

     変に緊張し過ぎて、変な声が漏れた。そして、まともに返事ができない始末。カッコつかんな。
     同級生だった彼女は声も変わっていたけれど、おそらく、いまの俺にとってはきっと世界で一番安心して落ち着く声だと思う、なんて。過大評価してみたりして。いや、それくらいにこの場所は俺にとって居心地がいいものではなかったから。やっぱり来なくてもよかったかなぁ、なんて思うくらいに。

    「水戸、洋平くん……ですよ、ね……?」
    「え? あ、はい。そうです。」
    「……」
    「水戸洋平と、申します——」
    「……、」
    「……なんて、ね。」

     驚きと変な緊張感で思わず仕事中の言葉遣いとして出てきてしまった。しかし彼女はふふっと、口元を手で隠して笑う。あ、笑った顔かわいいんだな、なんて少しだけ思ったり思わなかったり。

    「洋平くん、申しますってなに?もう、会社じゃないんだからぁ〜!」
    「あ、はい。そうです、ね……?」
    「やだぁ。洋平くんってば、おかしい〜♪」
    「は、はは……」

     君はいつまで経っても楽しそうだねと心の中でつぶやいて苦笑いをした。藤井さんの雰囲気とはまるで正反対の晴子ちゃんに気圧されてしまい、うまく口が回らない。きっと他の子が相手ならばこんなに緊張することもないと思う。というか、なんか適当に軽口が出てくるのに。自身の恥ずかしい若きころを知っているであろう��同級生�≠ヘトクベツかぁ……と。そう、痛感した。

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