僕は君ひとりだけの味方(2/8)
表紙
目次
しおり
しおりを挟む
しおり一覧
前へ
2/8
次へ
「久しぶり、だね……?藤井さん。」
「……あ、はい。ひ、ひさしぶり。」
そういえば、あれから何年くらい経ったんだ?高校で別れたから約二年くらいかぁとか、年寄りくさくも、時の流れの速さを感じてみたりして。とりあえず、このまま無言の領域に入ったほうが気まずい感じになりそうだなと思い、適当に頭に浮かんだ話題でその場を繋いでみることにする。
「……藤井さんは、大学とか通ってんの?」
「はい。東京の新宿にある……○○大学。」
「えっ……」
うっそだろ……めちゃくちゃ名門校だ。しかしこちらが驚いている間にも彼女は先をつづける。俺とは目を合わせずに、なんとなく歯切れ悪くもありそれでも持ち前の落ち着いた丁寧な口調で。
「いつも、教授に言われた課題とかをやるだけで精いっぱいだから、あまり……遊べませんけど」
すこしだけ、本当にすこしだけ、このとき軽く微笑んだ彼女はどこか悲しそうだった。んー.....ちょっと気が乗ってきたし、攻めてみますかぁ。
「そっか。彼氏とかは、いないのかい?」
「えっ!?」
「ん?」
「う、ううん。いない、です。というかいままで彼氏とか、出来たことも……ない、ですし。」
へえ、こんなに可愛いのにな。だが落ち着け、俺は強い子優しい子。ここでどんどん相手の領域に入っていくのは良くない。我慢だ我慢。相手は揶揄い甲斐のある元バスケ部の先輩でもないし、ましてや一夜寝るだけの女の子じゃない。彼女は歴とした同級生なわけなので、あまり変なことは聞けないだろう。
「そうなんだ」
「そういう、水戸くんは——」
「……?」
「彼女とか……いないん、です、か?」
「へ?」
照れたように、イタズラっぽくはにかんで笑う彼女。きっと彼女に想いを寄せていたヤツならばいまこの瞬間に『きみが好きだと叫びたい』とかいうやつであろうか。��おまかわ�≠ネらぬ��おますき�≠ナある。しかし俺はそんなチンケな輩とはちがうので、いつもどおり半笑いで返す。
「ははっ、いないいない。」
「へ、へぇ……、」
「高校は、赤点ギリギリで生きてきたしなぁ〜、高卒で働き出したから出会いもないもんでねー」
「……そう、なんですね……」
「お? てかさ、敬語じゃなくていーよ?もしかして緊張してる?」
「……。」
彼女がコクンとうなずいた。ん?なんとなく、笑みが増したような気がする。ただその笑顔に、さっきのような悲しさは見つからない。まずい。これ、嫌な予感がする。こういう勘は残念ながら昔から、よく当たるほうだ。そして、そう思ったとたんに相手と一線を引いてそそくさと退散する自分の性格もよく心得ている。
彼女にはとても悪いけれども、いまの気持ちをひと言で表すならば——めんどくさい、の一択。この場から直ちに逃げ出したい気持ちでいっぱいである。ごめんねぇ……藤井さん。しかしそんな俺の思考を知りもしない彼女は、どんどんと先を話しだす。
「あの……名前、さん、とは……?」
「ん?」
「名前さん。私たちの、一個うえの。」
「……。」
うん。知ってる、けど。ううん、ちがうんだよ藤井さん。名前がね、聞き取れなくて聞き返したわけじゃないんだ。それは聞こえた。しっかり、聞こえました。ただ俺が「ん?」って聞き返したのはどうして突然その名前が出てくるのか、って意味だったんだけど……。
「え、っと……名前、さん?」
「うん」
「うーん……え。どーいう意味だろ?」
「あの……付き合って、ないのかな、って……」
「ああ。ないない。そっか、仲良く見えてた?」
「う、うん……」
「あー、そっ……か。うん、そうだよな。えっとなんて言うか、もう、連絡もとってねーのよ。」
「大学には、行こうとしなかった……の?」
「え?」
あきらかに困っているふうな俺を思いやってかそれとも深い意味はなく、ただ単純に他の話題に切り替えただけかは不明だが彼女のほうからその話を流してくれて助かった。助かった、って……べつに聞かれて困るようなことはなにもないからいいのだけれども。そしてつぎは「大学には行こうとしなかったの?」と、きた。あーやばいな。本気でめんどくさいかも。けっこう、真面目に。ほんと��オフ�≠フときの自分ときたらダメだな。でもなぁ、ここまできて突然いなくなるわけにも行かないだろうし……。
「あ、ああ……まあー、行きたい気持ちはすこしだけ? あったけどなー」
べつに、勉強が好きなわけでもないけど。世間一般的な「彼女ができる」とか「大学デビュー」みたいなそういうのも一切ないけれども。新たな人付き合いもあたりまえにめんどくさいし。でもまぁ大学に行けば花道とおなじ目線になれるし。それでもどうだろうか。きっと長続きはしなかったと思う。早々に中退するであろう未来が容易に想像できるな。なんかそれも、悲しい話だけど。
「花道見てるとさ、楽しいのかなーって、大学」
「……ああ、桜木くん。彼、頑張ってるもんね」
「そーそー。アイツの性格だから友達もたくさんできたみたいでさ?」
「100人、くらい?」
「ははっ。トモダチ100人できるかな♪って?」
「ふふっ。」
気づいたら、本当に気がついたら最初みたいに緊張していたのが嘘のように、自然と話せていた自分がいた。やっぱりアレか……単なる��成人式マジック�≠ニかいうやつだったのだろう。
「だけどなー、大学行くにもやっぱ金が掛かるしねぇ〜」
「……」
「親はとうのむかしに離婚してて、ずっとひとり暮らしだし、俺。」
「え——っ。離婚、しちゃったんだ……」
あ、そういえば、と。離婚の話なんか同級生にしたことなかったかも、なんてことを思い出す。いまとなれば酒の席や、仕事中なんかの話の成り行きで「うち離婚してて」と言う機会も昔よりは増えたがそれを言うと決まって言われた本人たちはざわめくんだよな。「見えない」とか言って。そもそも親が離婚するのに、見えるも見えないもあったもんかって思うけど。当の本人からすれば離婚なんて笑い話くらいにしか思っていないが、世間様からすればどうやら、あまり笑える話ではないらしい。
「あー、あれよ? 離婚したのはもうずっと前」
「……」
「それにこの歳で両親が離婚して泣くほどガキのままじゃねーよ?」
「……、」
「……。」
……暗いな。やっちまったかな、俺。というか離婚の原因はべつにこちとら分かっててさ。離婚したはいいが両親共に今はそんなに仲は悪くないらしいし。いろいろと変わりはしたが、変わっていないと言えば変わっていないっていうか……。まあ、それがいまの俺の——水戸家の家庭だ。
「……そういえば、ご兄弟とかは?」
「ん? ああ……いない、ね。」
「……」
「……うん、いない。」
言えないよな……ってか言う必要性もないし。腹違いの妹がいるなんて——。妹は昔からだいぶお兄ちゃん子で友達とかと遊ぶよりも俺と一緒にいることを選ぶ、ブラコンだった。そこはなんて言うか、きみのお友達の晴子ちゃんと似ているんじゃないかなぁ、とは思うけど。
ん……? 俺、なんで、藤井さんに家族構成のことを話しているんだっけ?まあ、いいか。知られても知られなくても別に困ることでもないし。
「……水戸くんも、大変なんだね」
「ははっ。いーや?そうでもないさ。まあ強いて言えば、花道の相手をするほうが大変だけどな」
「ふふ、そうなの?」
「そうねぇ……まだ高校生ノリだしなぁアイツ。俺が兄であり父のような人間にならんと捻くれるんじゃないかなーと、心配してましてねー。」
「……」
「……ははっ。うそうそ。なーんてねって話さ」
「……なら、」
なにか素晴らしい案が出てきた、みたいな顔をする藤井さん。そしてやや目を泳がせたあとで、まるでヒソヒソ話をするかのごとくちょっとだけこちらに顔を寄せてきた。目はあっち向いたままだけど。てか——晴子ちゃんはどこ行ったんだ?
「わたしが──」
『本日はお集まりいただき、誠にありがとうございますっ!』
「……あっ。」
「おっ?」
藤井さんが口を開いたとほぼ同時に、開会式の合図が、マイクを伝って会場に響き渡る。
うるせーなァ。マイク、キーンってなったぜ?あんたみたいな、野太い声なんて聞きたくねー。こっちは今可愛く大人に変貌を遂げた藤井さんと話してんだっての、なんて決して口には出せないことを心の中で言う。こんなこと言ったらきっと今日はつまみ出されるだろうなーと思った瞬間にずいぶんと聞き慣れた声で『うるせェ!』とか、『てめェみてーな野太い声なんて聞きたくねぇーぞ!』と叫んでいる輩がいた。そうエトセトラである。そうよ、おまえらが言うであろうセリフを先に言ってやったってわけさ。なんて、情けないツラで声のするほうを見てみたら、中のひとり、高宮とばっちり目があってしまった。ヤツは俺の姿を発見するやいなや「洋平!こっち来〜い!」と手を振っている。
「あっ、みんな呼んでるね。水戸くんまたあとであらためて……。」
「あ……、うん。そう、ね。」
ちょっと困ったふうに眉を下げて返事をしたら彼女は席から立ちあがり晴子ちゃんたちがいるであろうみんなの輪の中へと消えていった。ふう、やれやれ。——さて、と……。
「なにするか……。」
いや、まぁ……��成人式�≠�するんだけどさ。それにしてもめんどくさいと思っていたわりにはなんだか変でもあり、素晴らしい時間ではあったかもしれなくもない。こんなにも穏やかなときがこの空間に存在するとはね。俺もう帰ってもいいかなぁ……と耐えずくだらないことを考えながら延々とくだらないことをマイクに向かって話している市長らしきジジイの声を聞き捨てつつ、俺も席を立ち花道たちのいるところへと向かった。
さてと——。と、いうわけで。俺たちの一生に一度の成人式がようやく、はじまったようです。
前へ
2/8
次へ
Back
/
Top