僕は君ひとりだけの味方(3/8)
表紙
目次
しおり
しおりを挟む
しおり一覧
前へ
3/8
次へ
「くぅぅ〜、かぁ〜! ビールは旨いねぇ!」
「うっわ、もうそんなにもジジ臭くなったの?」
「うるせえ!俺はなあ〜?毎日遅くまでサービス残業してんだよっ!残業代なんか一度も出たことないんだぞ〜!!」
「うわやっば、めんどくさい奴に絡んじゃった」
「むふふ〜けしからんなぁ、このおっぱいは!」
「——きゃ!? も、もう! やめてよぉ〜!」
「よいではないか、よいではないかぁ〜」
「あぁぁぁぁぁ!! 彼女ほしいぃぃぃぃ!!」
阿 鼻 叫 喚……言うなれば、地 獄 絵 図——。思わず、そんな言葉が脳裏を過ぎる。俺以外にも高校を出てすぐ就職したやつもいて社畜どころか奴隷のように扱われてるやつもいるようだ。俺の会社はっていうかバイク屋も居酒屋も、ホワイトっていうか家族経営みたいなもので残業も自分の匙加減。それに一応、残業代も出る。まぁ、その給料の大半は趣味とか日用品とか欲しいものとかあと、花道関連のことに消えていくけど。
「しかしなぁ〜成人式だからってまだ酒飲めねえヤツとかもいるだろうによ……」
おなじ空間にいたチュウが、周りの飲んでいる奴らを見てつぶやく。「未成年飲酒は法律で禁止されてるってのによー」とか、偉そうに言って。たしかに。周りのテーブルを見れば、炭酸飲料やお茶といった、ジュースなんかも置かれていた。
市かなにかのお偉いさん(名前は知らない)が話し終えたあと俺たち成人組は、宴会場にやって来た。チュウ以外の軍団たちや晴子ちゃんや藤井さん、花道は友達同士で楽しく話している模様。俺は壁際の床に直に座ってチュウとみんなのことを黙って見ていた。すると、隣であぐらをかいて座っていたチュウがニヤニヤとだらしないツラを晒してこちらを覗き込んで言う。
「洋平ちゃんもまだ未成年よぉ?3月生まれ♡」
「めんどくせー。そのノリなんとかなんねーの」
「ったく。ノリわりーな、あいかわらずよぉ〜」
「チュウはジジイに見えるもんな、そのヒゲが」
「おぉん!?久々にやるかァ!? 洋平っ!」
「ははっ。やんね〜です。おまえ、弱いもん」
「こらこら、そこはあえて言うもんじゃねー!」
ここには色んなやつがいる。懐かしい友の顔、顔はわかるけど、名前が出てこない友の顔。顔はわからないけどなんとなく名前は覚えている友の顔、顔も名前もわからない友の顔。そして、顔も名前もわかる相手。なんだかここは社会から隔離されているような、そんな気さえ起きる。社会人となったみんなはきっと会社の上司から理不尽に怒られる毎日。朝起きて仕事して家に帰ってきて寝てまた仕事の日々。そんな他人の日常がどこか遠くに感じた。きっとこの気持ちは簡単に言えば��現実逃避�≠ニいうやつに近いのかもしれない。
「3年10組諸君! さぁさぁ、集まれぇ〜!」
と、そんなことを考えていたらだれかが叫んでいる声が耳に届く。そして隣でチュウが「おン?洋平、おめェのクラスじゃねーか?3年10組」なんて言っている。
「二次会の場所決めようぜ〜!まだまだ飲むぞ〜今夜は宴じゃ〜!」
「おっ、いいね!」
「だねだね! どこ行く〜?」
「もうすでに気持ち悪いんですが、それは……」
「えー、帰っていい?」
「あははははっ!!!」
「おぇ゛!!」
様々な声が飛び交うなか、これ、ゲロ吐いたりしたらいったいだれが片付けたりするんだろう、とか考えてしまう職業病。大声では言えないが、俺はすでに酒なんてこいつらともうずっと前から飲んでいて慣れているので吐きはしないが……と思っていた矢先、隣でチュウも同じことを思っていたらしく「酒に飲まれてらぁ」と笑っていた。たしかになんか、最後に吐きそうな人がいたな。
「水戸くん」
のんびりとたいして旨くもない酒を飲んでいると世界で一番聞きたくない声が聞こえた。慌てて声が聞こえてきたほうを見る。そこには顔を少しだけ赤くした高校一年のときに
いろいろ
(
・・・・
)
あった、あの彼女がいた。しかも彼女が来たとたん一緒に床に座っていたはずのチュウは、そそくさと退散する始末。ほんと、まったく。薄情なヤツだよ。
「あー、ミョウジ、さん?」
「うん、久しぶり。」
「うん」
「二次会に行くみたいなんだけどさ、水戸くんはどうするの?」
「え? あー......聞いてなかった。二次会かー」
つまり、さっき騒いでた奴らはやはりチュウの言っていた通りで俺のクラスメイトだったのか。どおりで見たことのある顔ぶれだなとは思った。そして、二年のときはクラスが離れたが彼女とは三年のときにまた一緒のクラスになったことも、このとき思い出した。
「わたしは、参加するつもりだけど......」
「ふーん、そう。」
「あ、あのさ......。」
「......?」
「......よかったら、行かない?」
「えっ? あー......」
この会が終わったら花道たちと一旦、袴を返却しに行かねばならない。そこで事前に持ってきていた私服に着替えてあとは個々に行きたいとこへ行くって感じになりそうだとは思っていたけど。
「まぁ、そうね。」
と、小さく返事をした。どうせ明日も仕事だし二次会で多少酒を飲んでも、仕事に支障は出ないだろう。花道たちはあのまま、晴子ちゃんたちと流れそうだし……俺はこれが終わったら帰る予定だったし、と。そんなことを考えながら、床から気だるげに立ち上がる。
「行こうか」
「うんっ!」
嬉しそうに笑う彼女を見て、俺も作ったような笑顔を浮かべた。そのとき薄情者のダチがこっちを見ていたらしく不意に目が合う。それに対して慣れたように「こっちのメンバーと流れる」と、アイコンタクトだけで伝えればしっかり理解したらしい大昔から薄情者で有名なダチも「OK」というように親指を突き立てていた。たく、なにがオーケーだよ。さっさと逃げといて……。
一度、袴を返却しに行き、そこで先に来ていた花道にあとの予定を聞けば予想通り晴子ちゃんや流川たちと二次会に流れるのだそう。あたり前に「よーへーも来いよ」と花道から勧誘を受けたが適当に理由をつけて断った。花道の話だとチュウたちは高校時代に話もしたことのなかった同級生たちとなぜか意気投合したらしく、そっちに行くんだとか。
とりあえず、三次会をまた集まってやるのかはあとで連絡を取り合うこととし、俺は先ほど声のかかった彼女たちがいる場所へと向かった。到着したそこは、どこかの居酒屋だった。
「き゛い゛て゛く゛れ゛よ゛ぉ゛〜〜〜!!!」
「ちょっと、泣きすぎ!ほら、おしぼりあげる」
「ワハハハ!おもしれ〜から、写真撮っとこ!」
「これが、社畜戦士……っ!」
「はは。ああいうふうにはなりたくないねー」
「うん、ほんとー。」
俺が��社畜戦士�≠フ同級生に、哀れみの視線を向けながら言えば、それに返してくれたのは俺を誘った彼女であった。まわりをざっと見渡せば、なんかガチ泣きしているやつとか、終始、仕事の愚痴を吐きつづけるやつなんかがわんさかいる。
曰く、毎日十五時間拘束され残業代が出ない。曰く、毎週土曜は休日出勤していて、なお手当は出ない。曰く先輩たちは自分に仕事を押し付けて帰る、などなど……。なんだか世の中ちょっと、ブラック過ぎるんじゃなかろうか。
「水戸くん。」
俺がぼんやりと��社畜戦士�≠スちを眺めながら酒を飲んでいると隣に座っていた彼女から改めて話しかけられた。俺は右手で頬杖をついたまま、視線だけを送る。
「……ん? なに。」
「えっ、と。仲良かった人たちとは、話した?」
「え?」
あ、普通に忘れていた。彼女からのその言葉に「まだ」とだけ言いここに座っている連中よりも高校時代多く会話を交わした記憶のある同級生の姿でも見に行くか、と自分用のグラスを手に持ちべつの席に向かおうとするとなぜだか彼女も金魚のフンのごとく着いてきた。そこはあえてスルーしてあげてもよかったのだろうけれども、なんとなく聞いてみる。
「——あれ? どうしたー?」
「あ、ううん。気にしないで」
「あ、そう……?」
とりあえず言われた通り彼女のことは気にせず古き良きクラスメイトたちのところに向かった。
前へ
3/8
次へ
Back
/
Top