僕は君ひとりだけの味方(4/8)
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「よー、久しぶり」
「お、水戸じゃん! 懐かしいな、心友!」
「はは、心友じゃねえよ。それ、いつからよ」
キミとは遊んだこともないでしょうに。日直やらなんやらで話す機会はそこそこあったかもしれないけれど。それもこれも片手で数えるほどしかなかった記憶なんですけどね、こちらとしては。ただやはり、男同士というのはなかなかに楽しいもので。俺たちの会話に自然とほかの奴らも参加してきて話はそれなりに盛り上がった。すると、ひとりの同級生が俺に声をかけてきた。
「水戸、高校以来だよな?」
「え? あー、そうね。」
「みんな結構変わったなって思ったけど、水戸は水戸だなー。なんか、昔の面影があるわ」
「ジジイみてーな言い方だな。そういうお前も、変わってないでしょ」
「そうかー?つか、流川と話した?あいつ昔よりぜんぜん話しやすくなってたぜ」
「はは、そりゃー変わるだろ。花道とも昔よりは普通に会話できてたしなー」
「お!桜木花道なー。もう、ただのスポーツマンって感じだな、あいつも!」
「……そーね。」
持っていたグラスを緩く回しながら、グラスのなかに視線を落とすようにして俺は目を伏せた。もう昔みたいに「よーへー、よーへー!」と俺を頼ることも少なくなったかつての親友はいまではあのころの��不良�≠フ面影はなく俺なんかよりも同級生たちと仲良く会話をしていた。そんな姿を思い返して感慨深くなってみたりする。そのとき三年間おなじクラスだったお調子者の男子が出し抜けに言う。
「水戸、あれからどうよ?」
「......へ? あれから?」
「ほら、一個うえの先輩と付き合ってただろー?あの、二個うえのバスケ部の先輩の元カノの。」
「あ〜!そうだった、そうだった!あの一個上の転校生!お前いつもあの人と一緒にいたよな〜」
「ああもう、一気に喋んな。わけが分からん」
俺は聖徳太子じゃねーっての、なんて溜め息をついたとき男たちでガヤガヤと騒いでいたからか同じクラスだった女の子たちも数名やって来た。
「あ、水戸くんだ!うわ〜、超かっこいいー!」
「え?あ、本当だ!めっちゃイイ男、発見〜!」
「だから言ったでしょー?私はあのころから水戸くんが湘北でいちばんカッコいいと思う〜って」
「ねねっ、これを機に、ライン交換しようよ!」
「あ、それなら俺も俺もっ!」
「え、いいな!俺も俺もっ!」
「わたしも〜!」
「あー、もう。わかった、うるせぇって!」
半笑いで思わずそう声を張ってしまった。てかおまえら、あの泣いてるやつは放っておいていいのか?って、そんなことを思い、そちらに視線を向けてみると……。
「うぅ……、ぐす……、うぁぁ……!」
やっぱりまだガチ泣きしていた。あのタイプは放置が良さそうだなと早々に諦めることにする。
俺はおもむろに携帯をポケットから取り出してアプリを起動した。
「あっ! わたしがいちば〜ん!」
「はぁ!?そもそもはじめは俺と話してたんだよ水戸は!」
「待って、はい!わたし! アプリ開いたっ!」
「……ほらほら。交換するから、順番になー?」
すこし困ったふうにそう言うと、みんな一斉に俺の表示したQRコードをわいわいと読み込んでいく。あのさぁ……順番って言ったんだけどな。まあ、でも。みんなが満足そうにしているので、なにも言わないけどさ。はァ、やれやれ……。
「わっ! バイク乗ってんのぉ?かっくい〜♡」
「あ〜ん、これ水戸くんの写真じゃないじゃん」
「でもさ、バイクの画像だけ載せてるあたりが、ザ・水戸くん♡ってかんじだね〜!」
あー、そのバイクはあの——鉄男さんから譲り受けたバイクだ。もうずいぶんと長いこと乗ってないな。画像を変えるのがめんどくさくて適当に設定した気が。もはやそれすらも覚えていない。
久しぶりに乗るかぁー、あの真っ赤なボディのスティード400……。
「水戸、あとでライン送るわ。とりあえず、申請してあるから追加よろしくなー」
「え〜タイムラインリレーとか誘っちゃお〜!」
「じゃあ私はグループラインに強制申請する!」
追加は一応しますよ、義理で。でもリレーだのグループだの、そういうのは一切ムシしますよーなんて、素直に言えるはずもなく、新規の友だちリストを見るとそこにはすでに10人ほどが表示されていた。うわ、多すぎ。俺あまりラインとかしないんだけどなぁ。それも言わないほうがいいんだろうか、こういう場合って。よくわからん。
「ていうか、みんな俺のこと覚えてたんだなー」
「はぁ? そりゃまあ、忘れるわけないよな〜」
「うん、忘れねーよな。だって水戸、クラスではムードメーカーだったじゃん」
「え。」
「うんうん!みんなが意見違いで切羽詰まってるときとかさ、サラッとカッコよく締めてた〜♡」
「そーそー、最終的には『俺やるよ』とか言ってきれいさっぱり、まとめあげちゃったりね〜!」
マジ、か……。そんな自覚は無かったんだが。しかし、心友(仮)の言葉に他の奴らも賛同してくる様子を見れば俺の位置付けはみんなが言ったままだったのであろうことが窺えた。
「それにさ?水戸くん、なんだかんだ同級生にも下級生にも人気高かったしねぇ〜」
「体育祭のときなんてさ、帰宅部なのに運動部にリレーで勝っちゃうし!」
「あぁ! あったあった!たしかそのとき水戸、桜木の代わりに走ったんだったよなー」
「……そうだよ、走ったよ。」
高校最後の体育祭で人一倍気合いを入れていた花道はプログラム最後の見せ場、リレーのときに流川のクラスにちゃちゃを入れに行っちまって、なぜか俺が代走で走ったっていう。学年主任に、「水戸、おまえ代わりに走れ!」って言われたという理由もあったけどあのころから文句も言わず花道の尻拭いをしてた俺っていったい……まぁ、おかげさまで俺たちのクラスが優勝できたので、事なきを得たが。
「でも高一のころから水戸くんって、学校のイベントとかにはやる気出さなかったタイプだよね」
「いやいや語弊が......やる気はありましたよ?」
「あぁー......あの、リレーのときとかぁ〜?」
「そうそう。あと、ほかにもいくつか、ね?」
まあ、そのやる気を出した要因は、いつだってぜんぶ��花道�≠ネのだけれども。あいつは昔から��一番�≠ェ好きだったからなぁ。はからずとも、花道と三年間おなじクラスになってしまった俺はまんまと、その餌食にかかったってだけで……。
「アンカーやってたよな、たしか。そのおかげで100m走、二回もやってたし!」
「だから花道のせいだって、あれは……」
「水戸。おまえってあいかわらず桜木のお守り係苦労してたんだな〜」
「……ほんとにね。」
心友(仮)の言葉に思わず、溜め息をこぼす。あのとき、花道が晴子ちゃんに鼻の下を伸ばしていて、そしたら晴子ちゃんが、近くにいた流川と軽く話しはじめたからそれにキレた花道が走っていっちまって、んで——俺がアンカーやることになったんです。
「水戸おまえ、万年帰宅部なくせして運動神経がよかったのが原因だよ、あれはきっと。」
「……張っ倒すぞ」
「おー、こわ!さっすが湘北番長〜」
「おい、その呼び名もう禁止なー。」
運動神経がいいというか、あれだよ。その……喧嘩で自然と鍛え上げられていただけで——。
なんてわざわざ言うことでもないし。まぁでもいまとなってはすべてが笑い話だ。
「なあなあ話は変わるけどさ〜。水戸ってスーツめちゃくちゃ似合ってるよな」
「あ〜!わかるわかるっ!着こなしてる感があるよね〜!」
「うんうん水戸くんかっこいい!あのカラー袴もサイコーだったよ! いつメン笑点カラーの!」
「え?笑点……。はは、……そりゃ、どーも。」
びっくりした。突然の褒め言葉は止めてほしいだいぶ恥ずかしいので。とは言っても、スーツに関してはいまここにいる、現在も学生さんたちのみんなと比べれば着慣れたもんだとも言えるかもしれないなとはちょっとばかし思ったりはする。
「まあ、仕事してるからなー。スーツ着る機会もみなさまと比べたら、多かったってだけですよ」
「——え!? 水戸くん、仕事してるの!?」
俺の発言にクラスメイトの女の子が驚いて目を見開いた。そこまでびっくりすることでもないだろうに。しかし彼女は「すごいすご〜いっ!どんな仕事?」と食い気味で質問をしてきた。そんなたわいも無い会話にしばらく花を咲かせてから、俺は「トイレ休憩」とまっかな嘘をついて、外で一服でもしようかと、その場をしれっと離れた。
外に出て店の隅で煙草に火をつける。気付けば腹の中がタップンタップンだ。これ以上は出来れば飲みたくない。なんて思いながら煙草の煙を、まだまだ春にはほど遠いであろう寒々しい冬空の真っ暗な闇のなかに吐き出す。
「……。」
ふと——高校時代の記憶が蘇ってきた。それは先ほど話した高三の頃の体育祭の光景ではなくて自身が高一だったころの体育祭の記憶。バカ正直に言われたとおり特攻服を縫ったなぁとか借り物競争で借りられたなぁ……とか。
『アンタが来ないって言ったんでしょうが!』
『るっせえ!テメエそもそも背中になンて
背負
(
しょ
)
ってんだ、ああン!?』
『……ぐっ、』
『おら、もう一回さっき教室で言ったみてえに声に出して読み上げてみろぃっ!このヤロウ!』
『——水戸ラブ。』
『ちったァな?自分で背負ったモンの重みをだな、
……あ?い、いま、なんつった?』
『だからっ、水・戸・ラ・ブ! 』
恥っず……。そんな彼女が背負ったのはたしか寿仁一途——だったっけ。なんだかんだ最後にはちゃんと真面目に着てたな、そう言えば。作った甲斐が、ちょっとはあったかな……なんて。
フッと思わず鼻から笑みが漏れる。懐かしい。うん、懐かしいな、って思う。そんなふうにもの思いに耽っていると真横にだれかが立った気配。横目で見るとそこには、俺のあとに着いてきたはいいが、仲間内の会話には参加せず、ずっと俺の顔色を伺っていたふうだった高校時代に
いろいろ
(
・・・・
)
あった、あの——彼女がいた。
「——あれ? ミョウジさん。」
「……」
「あー、もしかして、タバコ吸う人?」
「……」
「……ん? どうか、したか?」
すこしだけ緊張しているからなのか最初のときほど彼女の頬は赤くなかった。
だが、しかし。かわりに俺のことを真っ直ぐに見て、なんともとんでもないことを言い出した。
「いまから、二人で抜け出してさ——」
「……」
「わたしと水戸くんだけで、二次会しない?」
「……。」
背中に嫌な汗が流れる。煙草を掴む手に込めた力が余計に入る。そうして、状況を瞬時に把握。それによって嫌な汗は一瞬で吹き飛んだ。
妄想→このまましれっとひとり抜け出して花道たちと合流、もしくは帰宅して寝る。
現実→いちばん関わりたくない相手から成人式マジック王道の『抜け出さない?』と誘われる。
ああ、そうだった。世界はいつだって��こんなはずじゃない�≠アと、ばっかりだったなぁ……。
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