僕は君ひとりだけの味方(6/8)
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「あいつら、二人で抜けてったらしいぜ〜?」
二次会三次会とつづいた同窓会の帰りで俺は、大楠と二人だけで駅まえの居酒屋で飲んでいた。大楠はスマホを両手で持ちながら肘をテーブルについてだれとやり取りをしているのか突然そんなことを言い出した。悔しそうにしている様子から鑑みるに��あいつら�≠フ片割れは俺たちの親友、��水戸洋平�≠ナあることを容易に判断する。
「なあ〜、俺の話聞いてんのかぁー?チュウ。」
「おー聞いてる聞いてる。俺たちも二人して消えてんだから、噂されてるかもなぁ〜」
「アホか!なんでヤロウと噂されねェとなんねーんだっ! しかも、テメーなんかと!」
だが実のところ成人式のあとの同窓会の二次会から二人で消えていった男女がそのあとにどうなったかなんてそんなことは俺にとってはどうでもいいことだった。
「ヒャハっ! 照れるな照れるなー」
「照れるかっ!でもよぉ、やっぱ洋平はちゃんとそーいうとこ抜かりねぇよなー」
「あン?」
「美味しい思いするっつーかよ?アイツ顔だけはいいからなー、憎たらしい限りだが。」
「そうでもねーだろ、おまえはとくに。モテモテだっただろぉ〜?高校ンときも。」
「それは洋平だっつの!えぐるな、俺の青春を」
大楠は元から明るくて、非のうちどころのない性格に加え俺らと同じ高卒なくせして、いまではなんと中古車ディーラーの営業をしていて羽振がいいという不良あがりでもある俺たちから言わせてみればまぁまぁ��ハイスペック男子�≠ニかいう部類で今回の同窓会でも、かなりちやほやされていた。よくもこの金髪で働けるもんだとは思うがそれも言ってしまえば��時代�≠ニかいうやつなのだろう。だからその気になって抜けようと思えばだれとでも抜けることができただろうに。なんで俺と一緒にこ〜んなところで飲んでいるのか謎に思うところではある。そんなことを考えながら、俺が溜め息まじりに言う。
「あいつは、昔っからそーいうヤツだろうがよ」
「まあ、そーだけどよぉ……」
「おめェのほうこそ、良い子とは話したのか?」
「良い子なぁ〜......あ、そういや。藤井ちゃん。あのほら、晴子ちゃんのトモダチそのいち。」
「あー......いたなァ、そんな子。」
「超マブかったなー、藤井ちゃん」
藤井ちゃんというのは、いま大楠が言った通り晴子ちゃんのトモダチそのいちだ。高校時代は、晴子ちゃんに着いて、バスケ部の見学によく来ていたので俺たちも軽く話したりはしていた。晴子ちゃんや花道と同じく大学を受験したらしいが、受験当日にインフルエンザにかかってしまった、なんて晴子ちゃんが言っていた気がする。じゃあ合格は叶わなかったのだろうか。しかし大学には行っているとか言っていた気も……。なら結局はどこかの大学にでも合格してそこに進学したのだろう、なんてぼんやり考えていると大楠がすこし寂しげに口を開いた。
「ほんとならよ?あいつらもいま、きっとここにいたのになー」
「あいつら?」
「花道、洋平、高宮、晴子ちゃん……ほか。」
「ほかって大楠、言い方よー。」
「花道はなんかノリで、ヤロウたちとバスケしに行っちまって、晴子ちゃんを含む女子の花園も、どっか消えちまったしなー」
「……。」
俺はグラスを傾ける。チェーン店の酒ってのはほんとに飲めたもんじゃない。そもそも日頃から洋平の店で洋平の作る酒ばっか飲んでいるせいで舌がどうも肥えてしまったようだ。あーあ、洋平の作る、あの良い塩梅の水割りが飲みてぇぜ……
「高宮はあのまま食い放題行くとか言って洋平は女子とワンナイト——と、きたもんだ……」
「だから。もうワンナイトしねーってアイツは」
「お?」
「大楠、おめェも知ってるだろ〜ぅ? アイツの真っ黒くろすけな人格をよォ〜」
「あー、その名もススワタリ洋平くんかぁ〜」
「最後にゃ、な〜んもなかったって女を沼らせる悪魔だぜ、あのヤロウは大昔からよぉ。」
「チュウ。悪い、悪いぞ〜、その言い方は〜!」
洋平も高校を卒業後は俺らとおなじ、就職組のほうだった。もしかしたら、花道と一緒の大学に行くのでは?という気もしていたが結局は元から決めていたらしい職に就いたって話だ。
学校はとくに、嫌だったわけではないらしい。そんなことを過去に言っていた気がする。ただ、俺たちの一個うえが卒業して行ってからは、またちょっとだけ昔の洋平に戻っちまったっていうかそのせいかアイツは陰で�� 湘北の番長 �≠ネんて異名が付いていたのも事実。それでも花道のまえだけでは明るく振る舞っていたように思う。いまあらためて思えば、いろいろと無理をしていたのだろう。いろんなことをアイツだけに背負わせてしまっていた後ろめたさみたいなものがいまでもすくなからず残っていたりはする。
「さてと——。きょうは帰るぜー。」
「あ?」
「楽しかった、ありがとうな大楠。また連絡してくれ」
「チュウ、もう帰るのかよー。俺は今晩、朝まで飲むつもりでおめェを誘ったんだぞぉ〜?」
「それはすまねーな。けどよぉ、もう終電の時間ギリギリだし。ま、そーいうことで。」
大楠の野郎はまだ納得してなさそうだったが、俺が会計のために店員を呼ぶと、渋々と身支度を始めた。それを横目に俺はすこしだけ苦笑する。
途中、居酒屋のキャッチに絡もうとする大楠を制しながらややフラフラとした足取りで駅までの道のりを歩いた。
「……なあ、チュウ。」
「あー?」
「洋平のうち行かねーか?花道にも連絡してよ」
「ふははっ!どこまで��洋平サン推し�≠ネんだよテメーは。こンの、腐れ金髪がぁ。」
成人の日の夜の終電前、駅まえの空気は冬にもかかわらずどこか熱気を含んでいた。休日出勤で疲れ果てたサラリーマンや、よほど飲んだのか、足元がおぼつかない大学生まで様々な境遇の人が改札まえにごった返している。
「だってよー、チュウ。成人式だぜー? もっとこう……ダチと朝まで語り合ってだなぁ……」
「お前もよ、今日くらいは実家に帰ってやれよ。徒歩で、送ってってやっから。」
「送るって言っても隣の地域じゃねーか!まぁ、たしかになー。今日くらいは帰るとするかー。」
そんな改札まえ。中には同窓会帰りと思われる見るからに着慣れていないドレスやスーツに身を包む男女もいた。この駅まえの街にさっきまであったはずの喧騒がまるでその熱気に吸い込まれているかのようだった。
ハァ。すこし飲みすぎたかもな……飲みたくもねェ不味い酒を——。駅のホームで突然湧き上がってきた吐き気を噛み殺す。最終電車がくると、ホームに冷たい風が吹き抜けた。さっきまでややフラフラとしていた意識がすこし醒め電車に乗り込む。車窓に映る俺の頬にはなぜか、涙が流れていた。まったく……ドライアイ民はこまったもんだぜ。
*
目が覚めると昼だった。二日酔いなのか、はたまた��薬�≠フ効果かやや痛む頭を冷たい水で無理やり起こして時計を見る。すでに時刻は十二時を回っていた。
アプリを開いて電車の時間を確認する。すると乗りたい電車の到着時刻までは、あと二十分ほどしかないことに俺は思わず溜め息をこぼした。
「もう行かねーと。」
昨日のことは、夢であったのではないかと思うほど職場、バイク屋までの道のりは平凡な日常が広がっている。一緒に成人を迎えた同級生たちも大学生であればほどほどに忙しい時期であろうか。とくに成人の日がある一月の初旬は、多くの大学が春季休業前の期末テストシーズンだろう。花道もその例に漏れず、今日の二限にはテストがあると言っていた。
なんて考えていると、職場に着いた。手慣れた整備は単調でよくない。単純作業がこうも続くとくだらないことばかり考えてしまう。忙しさは、こうした煩悶から一時的に解放してくれるので、今日という日こそ忙しくありたかった。しかし、仮に忙しくしたとしても、完全には解放してくれない。今朝からずっと、彼女のことばかり考えてしまう。彼女と言っても、ワンナイトカーニバル未遂をした彼女ではなくて——。あの、一個上の先輩だ。
俺はその日、もの思いに耽ふけりながら帰路についた。その日はなんとなく母校の中学校やその通学路を通って帰ろうと思った。和光中の前には老夫婦がやっていた駄菓子屋があったが、いまはコンビニに変わっていた。コンビニのイートインでは小学生らしき五人組が、ポテチを食べながらスマホゲームをして盛り上がっている。俺たちも昔はかつてあそこにあった駄菓子屋で喧嘩帰りに汚れた学ラン姿のまま菓子を食べながら、馬鹿話なんかをして笑った。なるほど、建物や携帯端末は変わっても、いつの時代でもガキのやることは変わらないらしい。
「おー、洋平。昨日ぶりだな。」
コンビニに入ると突然、背後からだれかに話しかけられた。振り返れば相手は昨日の同窓会でも会った——いや、遠い過去ここで笑ったり喧嘩をして時間をともに過ごした俺自身を良くも悪くも知る腐れ縁のダチだった。
「チュウ……。」
「なにやってんだぁ?この、暇人め。」
「……ははっ、どっちが。」
そう言って俺が歩き出すと自然の流れで相手も俺のうしろから着いてくる。そして両手をポケットに入れたまま中腰になって背後から覗き込んできたチュウが、あからさまな揶揄い口調で言う。
「洋平くんも、おセンチなとこがあんのねえ?」
「仕事の帰りだって。なに?お前はここでバイトでもしてんのかー?」
「そうそう。って、ちげーよ。姐さんが、ここの肉まんうめーって言うから寄ってみただけよ〜」
そう言ってチュウはラインらしき画面を翳して見せてきた。「ほれ」とか言って。一瞬、心臓がドクンと波打った。生返事だけを返して俺は逃げるように飲み物の棚へと向かった。そうして結局缶コーヒーだけを買って早々に店外へ出る。あたりはもうすっかりと暗くなっていて暖色の街灯がアスファルトを照らしていた。チュウはなぜか、俺のあとをすこし離れて着いてくる。来るときは感慨深く歩いてきた母校には目もくれずに淡々と歩みを進めていたとき——
「洋平。」
背後から俺の名を呼ぶ声がかかった。俺は振り返ることはせずすこししてからゆっくりと歩みを止めた。たぶんダチとの距離は、そんなに近くはないだろうと想定する。なんとなくすぐうしろにいるであろう気配は感じなかったから。
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