僕は君ひとりだけの味方(7/8)
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「昨日——ワンナイトしたって?」
「……」
「大楠情報だ。甘く見んなよ〜湘北の情報網を」
「……」
「今日ばかりは、シカトはナシだぜ?洋平くん」
「……っ、」
彼女と過去に一発したこと。あのとき、彼女にやってしまったこと。それらすべてを昔チュウに話したことがあった。そのときに言われたこと。『もしかしたらその子とはもう、トモダチでは、いられないかもしれないなぁ〜』——って。
「……使用済みゴムがなかった。」
「ほう、なら——」
「してねーよ。」
「ふっ……だろうなと思った。」
「……」
「俺の予想が当たってんなら、ワンナイト未遂のその子ってよ——
あの子
(
・・・
)
だろう?」
「……。」
もしかしたらその子とはもうトモダチではいられないかもしれない——もちろん俺もそのつもりだった。そしてたとえそうなったとしても、俺は俺の招いたことの責任を取るため、そして、俺にとってなによりも大切な二人の親友のためにも、こいつにだけは話さなくてはならなかった。あとになってから変な形でこいつの耳に入ったときのリスクヘッジみたいなものだった。
「一年と三年のとき、」
「……」
「おめェとおんなじクラスだった、あの子か。」
「うん」
こいつに悪意や悪気がないのはわかっている。けど、昔から余計な世話ばかり焼くヤツだった。だから俺以外の人からあの子との話が入ってきたらぜったいあの��親友�≠モたりに大袈裟に伝えるだろうなって思ったから。でもそんなものただの言い訳で俺は単にあの二人にだけは知られたくなかっただけなのかもしれない。よくわからない。
「なんでよりによって、あの子かねーって……」
「ほんとそれな。相手選べよ、ちゃんとよぉ。」
「……」
相手を選ぶ——高校に入ってからの思い出せる
アレ系
(
・・・
)
の失態といえば高一の頃にチュウの言った��あの子�≠ニしてしまった、あの一件くらいだ。それ以外はちゃんとしていたつもり。あ……もう一個あったかも。��親友�≠ナあったはずのあの子を押し倒してしまったことが過去に、一度だけ。
「あ……?洋平、なんだァ?えらく落ち込んでんじゃねーの。おめェらしくねーな。」
「……」
「シてねーんだろう?じゃあ、いーじゃねえか」
「——悪かったって、ずっと思ってたけど……」
「……」
「結果また、泥に泥をぬったようなもんだよ。」
俺は話の最後にそう言い、相手の返事の出方を待った。するとチュウは、靴の底をこするように気だるげに歩いてきて俺の真横に立って言った。
「おめェのせいじゃねーだろ。」
「……そーなのかねぇ。」
「……」
「俺のせい以外のなにもんでもねーって気しか、しませんけどねぇ。ははっ。」
「なあ、洋平。」
「んー?」
「姐さんに……連絡しろって。」
「……。」
髭ヅラのダチは、穏やかにそう言った。たとえ過去の負の遺産とそんなことになったことに対し「そーいうの、もういい加減にしろって」とか、激昂されようと俺はすべてを受け入れるつもりでいたのに。
「ずっと、あえて言わずにいたけどよ……」
「……」
「ミッチーのよ、成人式のあとからなんかおめェヘンだって」
「……、」
だが本心ではチュウならきっとそんなことにはならないとも思っていた。だからこそ俺は、どうしてもひとつだけ、ダチに伝えたいことがある。いままで、あえて言わずに知らんぷりをしてきたこと。その言葉を口にするべく俺は静かにダチのほうを見た。そして、言った。
「——チュウ。もうそれ、やめてほしい。」
「……」
「なんかお前、ずっと勘違いしてるようだしさ」
「洋平。怒んねーで、聞けよ?」
「……なに。」
「姐さんのためなんだろ? その……あえて連絡しねぇっつーのも。」
「……、」
「姐さんの愚痴を話せる相手なんて、おめェしかいねーだろうが。おめェが、なんでも花道にしか言えねーのと一緒で。」
「……。」
いつだったかチュウは、物思いに耽って言っていた。洋平は優しい。けどその優しさゆえ全てを背負い込んでしまう——って。いっそのこと俺のせいにしてくれればよかった、体育館襲撃事件もあの子のことも彼女のことも起こったことの全てなにもかもを。なのにこいつはまた今度だって、「おめェのせいじゃねーだろ」なんて言うんだ。そしてそんなダチが口を開いた。俺の隣、正面を向いたままで。
「じゃあ、洋平。」
「……」
「お節介を承知のうえでよ、最後に一個だけ……いいか?」
洋平は優しい。だが、その優しさゆえすべてを背負い込んでしまう癖が昔からある。いっそ俺のせいにしてくれればよかった。お節介焼きの俺のせいに。彼女とこんなに複雑なことになったのはおまえのせいだって。けれども洋平は優しいからそんなことはできない。いつも冷静で且つ、自ら身を引く男が初めて「やめてほしい」と言った。それならば洋平自身を許してやるのが、許させてやるのが、拳を交わしあった——ダチの役目だ。
「俺はよォ、洋平の気持ちのぜんぶがわかるわけじゃない。」
「……」
「お前と姐さんのあいだになにがあったのか俺は知らねーしな。なんも、ねーのかも知んねーし」
「……、」
「リョーちんからミッチーと姐さんのこと聞いたこともあっけど……それだって実際に、見たわけでもねェ」
「……」
「きっとリョーちんやアネゴが話したのがぜんぶじゃねーんだろうなぁとも思う。」
「……。」
それでも俺は、コイツに伝えたいことがある。その答えを洋平自身はまだ見つけられずにいる、もしくはすでに知っていて知らんぷりしていたとしても——。
「なあ……洋平よォ。俺ァ……、」
「……」
「それも踏まえてやっぱり洋平のせいじゃねーと思うんだよな。たぶん、だれのせいでもない。」
「……」
同級生たちが今後婚約したり海外に移住したりしていく中で俺はというとバイク屋で整備をして夜は居酒屋で働いて、かと言えば昼飯時、食券を押し間違えたり水族館でクラゲを茫然と眺めたりでっかい月にテンションが上がってみたり、青いバラを見たら柄にもなくもの思いに耽ってみたりアダムとイブが食べたとされる、あの禁断の果実でもある真っ赤な甘いりんごを食べて美味いと、喜ぶなどしているのだろう。
なにが良いとか悪いとかではなくてそれぞれの人生だということ。それぞれの、生き方だということだ。
高校生だったとき。あれは広島から帰ってきてたしか10日が過ぎたころだった。花道が通っていた病院からの見舞いの帰り道、高宮が言った。
『おめーらもよう……自分のなにか、見つかるといいな』
あの言葉が今でも胸にチクリと刺さる。俺ではない残りの二人が「おめーもな」「おめーがだ」とつぶやいた言葉と合わせて。
なあ……チュウ。俺たちはいつだってニコイチならぬゴコイチだったよな。そのなかのひとりはもう先にどんどん進んで、見えなくなっていく。俺たちは立派な��人�≠ノ、成れるもんなのかね。俺にはよくわかんねえや。いや、わかんないフリをしていたい、ずっと——。
「ミッチーと別れた頃の姐さんは、あの花道でもわかるくらいに、辛そうだった。」
「……」
「ミッチーの成人式のあと、あの二人のあいだになにがあったかは、知らねーけど」
「……」
「けどよ……姐さんずっと洋平といるときとか、おめェの話をするときは、楽しそうだったぜ?」
「……、」
返す言葉に詰まる。離れたあいだに忘れるフリをしていた。だれかを愛する優しささえもそっと記憶にしまって。べつに……戻らない季節を取り戻したいわけじゃないんだ——。
「そうなの、かもねぇ……俺も、楽しかったし」
「……」
「けどさ、チュウ。俺が彼女を追い詰めちまったことは、事実なんだって。」
「……」
「彼女の人生に中途半端に関わると、ダメでさ」
「……」
「またあのころみたいに一緒にいたらの辛いのはきっと——名前さんなんだよ。」
俺は淡々とそういった。二人のあいだに沈黙が広がる。いい大人がふたりして真正面を見ながら話しているなんとも無様な図。いい大人?いや、俺たちは��大人�≠ノなりきれているのだろうか。��人に成る�≠ネんて名ばかりの式典を迎えただけの、ただのガキのような気しかしない。
すると横から「あ、そーだ」と声が聞こえた。そのままで耳だけ貸してみればダチはひとり言のように言葉をつづけた。
「ラインの全貌、見せてなかったなァ……」
チュウは相手と交わした会話をスクロールして画面を見せてきた。反射的に向けてしまった目を見開いて俺は息を呑んだ。その日付は奇しくも、昨日——俺たちが�� 人と成った日 �≠セった。
なんとも彼女らしい、律儀にも送ってきたのであろう『成人の仲間入りおめでとう』と締めくくられた少々長い文章のすぐ下。短い一文のそれ。
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名前
水戸くんは元気?
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逃げてきた。見えない……見ないふりをして、今日までずっと。わかっていた。ずっとまえから俺たちが本当に知らなければならなかったことは��イチとゼロのあいだ�≠ネんだ、って——。
問い掛けるあの目で見つめられたら、多分もう隠せない。触れられない距離が、ちょうどいい。たとえ記憶の扉が解き放たれて引き寄せてしまいそうでも、俺はただ、おなじ痛みを繰り返したくない。ただ、それだけ——。
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