家族の知らない顔に出会える

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  • いま私は、中学生の娘と小学生の息子、旦那さんの四人で暮らしている。

    小・中の義務教育を終えて、近い・共学、という理由から神奈川県立湘北高校へと入学した。

    高校時代は特に問題を起こすことなく平凡な三年間を過ごし、湘北ではいまでも連絡を取り合えるような友人もできた。

    進学はせずに就職組として職に就き、いまの旦那さんと出会い二年足らずで結婚。

    冒頭で説明した通り、ふたりの子宝にも恵まれて旦那さんのお陰で立派な一軒家を建てて数年。

    互いの両親も近くに住んでいることからこの場所を選んだが、何ひとつとして不便はしていない。


    私が高校生の頃、今では九割の人が持っているらしいスマートフォンなんてハイカラな通信機器はなく、折り畳み式もしくはスライド式の携帯電話が主流だった。

    もちろん私も当時、ド派手な色の携帯電話を持っていて、友達とメールをしたり、お揃いのストラップをつけたり、好きな男の子の連絡先をゲットするのに血まなこになった経験だってある。

    あの頃、アニメやアイドルにドはまりしていると決まってオタク≠ニ周りからは馬鹿にされたものだ。

    それも今では推しメン≠ネんて言ってアニメでもアイドルでも追っかける子が堂々と推し活≠ニか言う活動をしていて、メディアもそれを後押ししているもんだから今の子たちは昔よりか生きやすい環境なのだろうと羨ましくも思う。

    もとい、私の娘もいま、すこぶる推し?てるスポーツ選手がいて、その試合やイベントなんかには旦那さんも一緒になってユニホームを着ちゃったりなんかして喜んで着いて行くので、家族で楽しめる時代かあ、と感慨深くなる。

    娘がいまお熱なのが、Bリーグの選手、そうプロバスケットボールの選手だ。

    彼女が中学校で所属している部活は球技ではあるものの、なぜ自分の部活と同じではなくバスケットボールにハマったのかと旦那さんに探りを入れたことがある。

    旦那さん曰く、どうやら学校で好きな子がバスケ部のエースらしく、それがきっかけでBリーグを見はじめて一人の選手のファンになったらしい。

    こんな感じで他人事で話す私、旧姓、名字名前。

    実はその娘がお熱の選手と同じ高校だったという経歴を持っている。

    そしてこれ、旦那さんしか知らない事実なのだ。娘には言うタイミングを逃したというか、なんというか。

    むろん、旦那さんも娘にはそのことを伝えていないらしい。

    まあ、娘のあまりの熱狂さに言えなくなってしまったと言ったほうが正しいかも知れないけれど。


    娘がお熱な選手の名を、三井寿という。

    背番号は高校時代と同じ14番。ユニホームもこれまた当時の湘北バスケ部と同じカラー、赤×白なもんで、すごい運命だと思う。

    言わずもがな、きっと三井寿はバスケットボールをするために生まれてきたのだろう。

    彼の活躍はテレビを含め、雑誌、友人関係からも目にしたり耳にすることが、あったにはあった。

    そんな彼と最後に会ったのは、彼が大学生のとき開かれた同窓会だ。それ以降、何度も開催された同窓会にも彼は参加しなかったので間近で会って話したのは、もう数年前になる。

    彼の試合を生で拝見したことは一度もない。娘は父親と試合観戦に出向いているので、私は、娘のお守りを全て旦那さんに任せっきり状態だ。

    過去に一度、「ママも観に行こうよ!」と不意に娘に誘われたときは心臓が止まりかけた。

    その様子を見て、旦那さんは隠れてくすくすと笑っていたけれど、出来る限りのポーカーフェイスでやんわりと断った。

    そんなある日、娘が旦那さんと三井選手の試合を観戦に行く日、旦那さんに急用が出来てしまい、家族会議の結果わたしが一緒に付き添う事になってしまったのだ。

    娘は前日から何を着て行こうかと、ジャニーズのライブ参戦にでも行くような雰囲気で、楽し気に洋服選びをしていた。

    当日わたしはいつも通り、と言ってもスポーツ観戦ということもあってラフな格好を選んだが娘から「ハイ」とユニホームを当たり前に渡される。

    「……なに?」
    「パパのだけど、ママが着て?今日は」
    「……え、着てって……」

    渡された真っ赤なユニホームの背番号は紛れもなく14番。思わずごくりと生唾を呑んだ。

    娘はそんな私を置き去りに音符を背負って玄関へと向かう。耳をすませば口ずさんでいる曲は三井選手のクラブチームの応援歌だった。

    「……これ、着るの……?」

    小さく呟いて溜め息を漏らした私は、観念して、渋々それをバッグの中に押し込んでから玄関へと向かった。


    高校時代、三井選手もとい、三井くんが髪をばっさり切って更生して間もなくした頃、彼に彼女が出来たらしい噂を耳にして友人の胸で号泣したことは、今でも苦い思い出だ。

    相手は一個下の転校生だった。比較的目立っていた二年生の宮城リョータと同じクラスだったことを覚えている。

    あと、名前がカタカナで珍しいっていう理由でも彼のことは記憶に残っているのだ。

    髪を切る前の三井くんの印象とは違って、彼は、卒業間近までその彼女一筋だったことは、私たち三年生のあいだでは有名な話だ。

    それでも彼の性格からかクラスでも分け隔てなく男女問わず会話が出来る彼は人気者だった。

    ……私なんて二年生の頃から好きだったのに、髪を切ってバスケ部に戻っただけで一気にライバルが増えたもんだから腹立ったなあ、あのときは。

    三井くんは不良のフリをしていたけれど、昔から優しかったよ。私は知ってる。

    二年、三年と同じクラスだった私に、よく「教科書見して」とか、「この消しゴムお前の?」とか不機嫌そうにも声をかけてくれた。

    三井くんって、どういう人なんだろう。本当は不良なんてやりたくないんじゃないのかな。清潔感あるし。とか、そんなことを考えているうちに、いつのまにか、手が付けられないくらいに好きになっていたのだから驚いてしまう。


    「名字」

    三年生になって彼が更生して三日後、初めて名前を呼ばれた。(名字呼びだけど)

    一瞬空耳だと思って顔を上げ辺りを見渡した私を見た三井くんが「ふはっ」と吹き出して破顔するから、もう彼の笑顔は凶器だなと思った。

    「……え、いま、わたしの名前呼んだ?」
    「ああ、呼んだ」
    「……な、なに?」
    「俺たち、二年の頃から結構隣の席なってね?」

    まさかの質問に「へっ?」なんて甲高く素っ頓狂な声をあげてしまった私を三井くんは一瞬目を見開いて凝視したあと、その目元を細めて微笑むから、もうこのまま時間が止まってくれと思った。

    そして、チャンスだ——、と。三井くんとこんなふうに普通に会話するのが、夢だったから。

    「あっ、三井くん!」
    「あン?」
    「バスケ部復帰、おめでとう……」

    尻すぼみして言う私をきょとんと三井くんが見ている。挙動不審な私から、さっと視線を外して、三井くんは正面を向き直り肘をついてそれに顎を乗せる。

    すると感慨深く「おめでとうか……」と、呟いていた。

    こんなふうに明日からも話しかけていい?
    あ、メアド交換しない?
    部活見学行っていい?……好きな子は、いるの?

    聞きたい事が本当に山ほどありすぎて、なにから聞いたらよいのかと頭の中が三井くんでいっぱいに支配される。

    それでもあの頃の私には、そんな勇気は一切持ち合わせていなくて、自分の心臓の高鳴りを抑えるので精一杯だった。


    その日の放課後、私と三井くんのやり取りを見ていた友人らに揶揄われて遅くまで教室で恋バナをした思い出が懐かしい。

    そんなん話してる暇あったら部活見学行けよ、と今の私なら助言してあげられるのに。


    当たり障りない会話をする日々が過ぎて行って思い切ってメアドを聞き出した日。彼は驚いた様子で固まっていたけれど、「別に、いいけどよ」とどもりながらもメアド交換をしてくれた。

    ……それから一週間後、友人にお願いしてバスケ部の見学に付き添ってもらった。

    体育館の入り口には、今年の新入生、桜木花道の舎弟?みたいな男子四人と、赤木くんの妹とその友人。

    ——と、見慣れない可愛らしい女子生徒がいた。

    側で聞き耳を立てていたら、どうやら今日、転校して来たらしい二年生の女子生徒だった。


    桜木花道の友人や赤木くんの妹はしっかりと声援を送っているけれど、私は恥ずかしくて一度も声を出せなかった。

    それでも部活の休憩中、私の友人が「三井〜!」なんておせっかいにも声を張って手を振るから、私の存在がついに彼にもバレてしまう。

    三井くんはその声に気付いて、丁寧にもここまで駆け寄ってきてくれた。

    「おっ、いつからいたんだ?」
    「あー、えっと……さっき、から……」
    「へえ、まあゆっくり見てけよ」

    高校生の部活見学には、似つかわしくなさそうな台詞を笑顔で言うから、もう何も返せずコクン、と頷くしか出来ない自分が憎たらしい。

    めっちゃ美人なマネージャーの元へと三井くんが向かうとき、チラッと赤木くんの妹たちのほうに目を向けた三井くんを私は見逃さなかった。

    転校生らしい彼女が桜木花道の友人らと会話しているのを見てか、不機嫌な表情でさりげなく舌打ちしたのも見逃さなかった。

    ……なんだろう、この感じ。
    なんか、嫌な予感がする。


    その嫌な予感は見事、的中——。

    数週間後、バスケ部インターハイ県予選の真っ只中、三井くんは、その転校生の子と付き合ったのだった。








    「ママぁ〜、電車混んでるかな?」
    「さあ、どうかな。空いてたらいいね」

    娘が先を歩き、私がそのあとを着いて行く。今日は快晴。雲ひとつない青空だ。

    先を歩く娘の背中を眺めながらもう手を繋ぐ歳ではないか……と、子供の成長を噛みしめて何だか寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになる。

    電車は幾分空いていた。娘と隣に並んで座って、娘はご機嫌そうに体を揺らしている。

    駅に着いて試合会場のアリーナに向かう。会場に近づけば近づくほど赤や白のユニホームを纏ったブースターが増えて来る。

    先を歩く娘が不意に「ねえ」と問いかけてきた。

    「ん?」
    「ママ、三井選手と同じ高校だったんでしょ?」
    「——えっ」

    思わず足を止めて目を見開く。娘はくるりと振り返って「ずっと前から知ってたよ」なんて言ってニカッと笑う。

    すぐに正面を向き直って歩き出した娘に、顔見知りなのか私の両親くらいの年代の夫婦が声を掛けて来た。

    娘は「今日どこら辺にいますかー?」なんて普通に話し込んでいる。……コミュ力おばけか。誰に似たんだ、あの社交性。

    ……そんなことよりっ!!
    娘よ、誰からそんなこと聞いたんだ、おいおい、今まで隠し続けてた私の努力とは……

    あっ、そう言えば……

    昔から、三井くんを想うと何故かいつも頭の中に流れてくるメロディーと歌詞があった。

    弱い自分に勝てるなら誰に負けたっていいさ

    あの曲、誰の曲だったっけ……。三井くんに関する記憶の中で唯一、あの曲名だけ思い出せない。

    なんて頭を捻らせているうちに、席に着いてしまった。娘は私の隣でさっき自分で発言した事実がなかったみたいにコート上のチアリーダーの応援ダンスに合わせてメガホンを叩いている。

    「ねえ、さっきのさ……」
    「んー?なにぃー?」
    「誰から聞いたの?……ママが三井選手と同級生だったって」

    娘はこちらを向いてニヤリとほくそ笑む。そしてすぐに正面を向き直ってメガホンを叩き始めた。

    「おばあちゃんだよ」
    「お、おばあちゃん?!」
    「そ。こないだ学校の帰りに、ママち寄ったって言った日あったでしょ?」
    「ああ……、私がPTAのことで学校行ってた日」
    「うん、おばあちゃんちの駅で降りて、お小遣い貰いに行ったの〜」
    「……」

    こヤツ……ちゃっかりしてんなぁ。
    実家に行ったってことは後から聞いたけど、そのときにそんな会話があったなんて知らなかった。

    「卒アルも見せてもらおうとしたけどー、どこに仕舞ったか忘れたって、おばあちゃん」
    「……卒アルかあ、捨ててないよ? でも、どこいったかなあ」

    ……なんてね、実は母親も知らないようなところに隠し持ってる。勝手に捨てられたら困るから。

    「でもね、いいんだー見なくても。卒アル」
    「えっ? どうして?」
    「えー、だってさ。」

    娘がメガホンを膝の上に置いてコート上を見回しながら言った。

    「高校時代の三井選手をママが好きだったら嫉妬しちゃうもん」
    「え……。」

    刹那、アリーナが真っ暗になったと思ったら煌びやかなライトで埋め尽くされる。

    DJの声が響き渡るとブースターのボルテージも一気に高調する。そしてDJが電光掲示板に映し出された選手の名前を順番に紹介していく。

    地響きみたいなブースターの歓声と共に映し出されたのは、もちろん娘イチ推し、私の高校時代の青春とも言える三井寿選手だ。

    「……あっ!」

    ——三井くん、だ。

    「キターっ! 三井選手だっ!」
    「……」
    「ママっ! ほらメガホン掲げてっ!」
    「あ、う……うん」

    私は何を……、躊躇っていたのだろうか。
    こんな人気者が同級生だなんて光栄だし、素晴らしすぎることではないか。

    たとえそれが、青春を捧げた
    高校時代の想い人だったとしても——。

    もっと、早くに応援しに来ればよかったな……。









    「三井くんっ!」

    湘北高校、卒業式。
    私は式を終えた教室でひとり窓の外を眺めている三井くんの背中に声を掛けた。

    こちらを振り返った三井くんの短い髪の毛先が、春の風に触れてさらりと揺れる。

    なぜかこのときインターハイ予選の最後の試合、綾南高校との試合で勝利を収めたときの三井くんのガッツポーズ姿を思い出した。

    さすがに広島までは応援に行けなかったけれど、失恋したって学校が休みの日はちゃんと湘北戦、全部応援に行ったんだからね?

    三井くんは、
    気付いてなかったかも知れないけどさ。


    「……おう、どーした?」
    「あ、あの……! これ!……書いてもらってもいい……かな?」

    私はぐっと両手で広げた卒業アルバムの白紙のページを差し出す。チラッと三井くんの顔色を窺うように盗み見れば、三井くんは目を細めて笑う。

    「いいけどよ、俺……ペン、持ってねえんだわ」

    言って左手で開いたままの卒アルをすっと取り上げてくれた。

    それでも罰が悪そうに余った右手を後頭部にあてて情けなくはにかむ三井くんに私はポケットから油性ペンを取り出して「はい!」と差し出す。

    「ははっ、用意周到だな」と、三井くんは白紙のページに、私から受け取ったペンをキュッキュと走らせた。

    「……」
    「……えっと、名字って、名前……」
    「え……?」
    「——で、いいんだよな?」

    顔をこちらに向けて問う三井くんを凝視したまま固まってしまう。

    三井くんは「あ?違ったか?」と再度問うが、 私はようやくここで質問の内容を把握する。

    「あっ! う、うん……名前、デス」
    「ウシっ……、えーっと……」
    「……」

    さっき卒業式で読み上げた最高傑作の答辞の全文を書いて下さい、って言いたかった。

    二年生のときから私のこと、どう思ってたのか、一言一句漏らすことなく、書いて欲しかった。

    「……ほらよ。」

    パタンと卒アルを閉じてその上に油性ペンを乗せたまま三井くんが私の方へと卒アルを差し出したので「アリガトウ」と言ってそれを受け取った。


    ——好きです。


    ……って、言えたなら、
    どんなに楽だろう。


    今までだって言えなかった言葉を卒業式だからと言って、そう易々と言えるはずもなく。

    でも——実は私、二年間の彼への想いをふんだんに詰め込んだ手紙を今、このポケットの中にひっそりと忍ばせている。

    これくらいは、渡しても許されるだろうか。

    最後だぞ、
    頑張れ——!わたしっ!


    「あ、あの……三井くん」
    「あっ?」
    「こ、これ……」

    私の想いがぎゅうぎゅうに込められたその手紙を見た三井くんは、驚いたのか目を見開く。

    それでもすぐに口元を緩ませて「サンキュ」と、言って受け取ってくれたことに、私はホッと胸を撫でおろした。

    ……あれ? 三井くん……
    第二ボタンだけ……まだ残ってる……。


    「三井〜」

    その声に三井くんは教室の入り口の方へと視線を向けたので、釣られて私も首だけで振り返る。

    そこには七組の木暮くんがいて、三井くんは軽く「おー」と言って手を翳していた。

    「体育館にバスケ部集まれってさ」
    「わかったよ、すぐ行く」

    木暮くんはすぐに姿を消したけど三井くんは挙げていた手を下にさげて「さってと、」と呟く。

    「名字」
    「……ん?」
    「荒れてたときも変わらず声掛けてくれて嬉しかったぜ」
    「あ……ぜんぜん、そんなん、いいよ」
    「わざと……忘れたときもあったんだけどな」
    「……え?」

    三井くんはすーっと私の真横を通り過ぎる。私が勢いよく振り返ったとき、風の力も借りてスカートがふわっと綺麗に舞った。

    「——教科書。」
    「……」

    そう言い置いて私から受け取った手紙を翳すように右手を挙げて三井くんは三年三組の教室を出て行った。








    「三〜っちゃん! 三〜っちゃん!」
    「ねえ、なにそれ」
    「えー、予習して来てよねっ!三井選手への掛け声だよっ」

    三井くんがボールを持つたび、そんな声援がアリーナに響き渡るので、私は高校時代の番長の姿がふと蘇り、品なく盛大に吹き出してしまった。

    あ、もしかして……居たりして。
    てか実際にさ、三井くんのチームの応援団長とかやっちゃってんじゃないの?堀田くん。


    「……、三っちゃんねえ……」
    「ぎゃあああああー!!!!また決めた〜!!」

    叫び散らかす娘の姿を微笑ましく眺めてしまう。私もやっぱり、なんだかんだ、もう人の親だな。

    「そう……すごかったの、三井くん≠ヘ……」
    「——えっ?」
    「綺麗なシュートフォーム、スリーポイントばんばん打つわ、かっこいいわ、で!」
    「……」

    あの頃……メアドを交換しても二、三通しかやり取りをしなかったな。それでも私はその数少ないメールに鍵を掛けて、しっかり保護≠オてた。

    実家の押し入れの隅に仕舞ったままの鍵付きの宝箱に入れたあのケータイ、今でもちゃんと充電をしたら保護メールは確認できるだろうか。

    卒アルのメッセージ欄に書かれた、あの癖のある文字。

    何度も読み返してはニヤニヤしていたから、全部いまでも一言一句、思い出せる。


    『名字。こんな俺と仲良くしてくれてありがとな卒業おめでとう。絶対ビッグになってやる!
    あと、名前のこと割と好きだったぜ』


    「……ハハ。」

    ちゃんと私の名前を憶えていたこと。

    それを最後の最後にぶっこんで来たサービス精神旺盛な君は——

    本当にあの頃からスター性がありました、よ?


    「まあ……、三井くんは私のことなんて、もう 覚えてないだろうけどね」
    「ママ……やっぱ推し≠セったんだ?」
    「……え?」
    「三井選手のこと。」
    「いや——、推しなんてもんじゃないなあ……」
    「……ふう〜ん」










     横から見るママは、
      なんだか 友だち
    みたいだった。





    (はっはっは、さすが私のママだね!)
    (んっ?)
    (血は争えんってことーっ!)
    (えー、なんじゃそりゃ。)



    ※『 風見鶏/コブクロ 』を題材に。

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