にせものばかりの世の中でも

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  • あれは忘れもしない梅雨が明けた七月中旬。住み慣れた地元から離れ独り暮らしをはじめたすぐの頃の出来事だった。

    人間関係やら何やら。全部を断捨離したくて全く知らない土地に来ようと思い立った。職場までは少し電車で時間がかかるしもちろん知ってる人もいないけれど、それでもいいと思った。

    前日に一人晩酌中に見たバライティ番組。そこに出ていたスポーツ選手。また随分とイケメンだなと思ってぼんやりと見ていたが、彼は番組の中でべろんべろんに酔っぱらっていた。そのテンションのまま最近話題のモデルの子と絡んでいる姿を見て、一瞬にして「あ、無理このひと」と新しい推し候補にすらならなかったのだけれど。

    『いつもこの収録楽しみにしててぇ〜竹ちゃんとめっちゃお話できる機会だしぃ』
    『オイてめえ、竹ちゃんとか気安く呼んでんじゃねえよ』
    『待って、今日すごいうるさいじゃん三井選手』
    『俺も思ってた!三井選手って、酒入るとほんと口悪いっすよねぇ〜』

    私は缶ビール片手にその番組を流し見ていた。
    ……確かに。確実に口は悪いな、このイケメン。でもこれも演技かもしれない。芸能界なんてそんなもんだろうし。芸能界ってかこの人はスポーツ選手かもだけど。いや、似たようなもんか。

    『違ぇ違ぇそもそもな、大御所をちゃん付けして呼んでる時点で、おまえふざけんなよ?』

    会場がドッと沸く。仮にこれがメディア用のキャラだったとしても地上波で流してるってのに結構飲んでるみたいだ、この三井選手とやらは。単に酒癖が悪いだけのかも知れないな……スポーツ選手って何だか苦手だ。遊び人が多いってイメージだし。私の偏見かもしれないけどさ。

    『わかったわかった!もうたぶん三井選手、私のこと好きなやつだ!』
    『え、え!三井選手、可能性ある?』
    『え……。可能性……すか?こいつと?』
    『こらこら。指差さないよー、三井選手』
    『あー、つい。スンマセン』
    『だってさあ、本当はこーいうタイプなだけでぇあとあと、今日あたりDMしてくるパターンですよねっ?』

    「えー!そんなパターンあるんだ!」と、会場は尚も笑いに包まれている。……あー嫌いこの子。初手嫌い。なにこの子、モデル兼ひな壇芸人? 結局のところ、嫉妬とか妬みを含みながら携帯を手に取りその女性の名前をエゴサしてみたりする私。……なぁーんだ、この子彼氏いるんじゃん。しかも最近人気の若い俳優さん。ふん、いいな。

    『三井選手は実際、この子とだったら何%くらい可能性があるの?』
    『えっ……』
    『聞きたい聞きたい!ねえ、わたし何パー?』
    『はぁ……?……3%だよ、バーカ』
    『あんのかい!決して0%じゃないんだ!』

    ……なんだこれ、こんな女に3%でも可能性あるんかい。えーイケメンなのに口悪いし女好きか。やめやめ、ちょっとファンになろうか迷ったけど(顔がドストライクだったから)やっぱやめた。そもそも周りのツッコミが逸材たちなんだよなぁこの番組。なんでも笑いに変えてしまう才能って本当すごいなって思う。

    「どーでもいっか。私には一生縁のない話だし」

    ぼそりと呟いて、私はテレビを消した。それでもそのあとしっかりと三井寿<Xペースを空けてバスケット≠ニか調べてしまったあたりきっとこれからも彼の出る番組や彼関連のSNSをチェックしたりするのだろう。目の保養は大切だ。

    実際にBリーグの試合がいつから開幕なのかなど番組をながら見しながらリサーチ済みだったする。試合に行けるようなら行ってみようかな。新しい趣味を作るのも大事だよね。あと、しつこいようだけど目の保養に(笑)


    結構独りで飲んだくれた(しかも自室で)そんな金曜日の夜を過ごした翌日、買い物帰りに夕立の中、ズブ濡れで帰宅路についていたときのこと。

    突然の雷雨にただでさえ急な雨に見舞われてイライラしてたのに歩道を歩いていた私に車道を勢いよく走るバスの跳ねた泥水が全身にかかったのには、心底泣きたくなるほど悔しかった。

    「あーもう!ありえないんだけど……!」

    梅雨は明けたんじゃなかったのかい!と独り言をぼそっと呟いて、最早意味のなくなった頭に乗せていたタオルハンカチを取って濡れた服を拭く。あまり意味ないけど。もうどこもかしこもびしょ濡れだし。

    あーあ。なんか今年は特に、ツイてないよなあ。せっかく心機一転、住居まで変えてやったってのに。そうやってわたわたしているうちにもう一台の乗用車の水飛沫もばっしゃん!と食らってしまう始末。

    「はぁ?!……もぅ、最悪。」

    きっと昨日見た三井選手やあの可愛らしいモデルさんは、こんな目に合うことはないのだろうな。

    このあいだも、身近な友人が結婚したとの連絡が入った。あぁ、私……最後に恋人がいたのはいつだったかな、なんて。本当に視界が滲んできた、そんなとき。ぐいっと強い力に腕を引かれた。

    「——わっ?!」

    驚いて童話の台詞みたいに、そう声を上げ見上げてみると、背の高いジャージ姿の男性が私の腕を掴んでいた。
    私が引き寄せられる前の場所には道行く車の水飛沫がところかまわずびしゃびしゃと跳ねている。

    「そんなとこ歩いてっから濡れんだよ」

    ぶっきらぼうに少し大きめのビニール傘をさした男性はそう言って、大きなボストンバッグから、これまた大きなタオルを取り出し、ばさっと私の頭の上に被せる。

    「え、わたし泥まみれ……」
    「別にいいって。やるよ、それ。」

    私が言い切る前に彼は私の髪をタオルでわしわしっと拭いた。

    「なんか……す、すいません」

    私がそう言って、もう一度目線を上げたとき——目の前の男性はフッと小さく微笑んだ。そして彼は私の頭をその大きな手の平でぽんぽんと二回軽く叩いたのだ。心底驚いて固まる私にハッとした彼が「悪ィ」と、その手をさっと引っ込める。

    「なんか、つい……」
    「つい、って……。あのそれイケメンじゃなきゃ通報されてるレベルですからね?」
    「だから悪かったって」
    「……」

    突然の沈黙。そりゃ沈黙だって生まれてしまうのも当たり前だ。だって見ず知らずの男性に初対面で頭を撫でられるなんてきっここれから先もないだろう。これが俗に言うナンパか?ナンパというやつなのか?!(いやたぶん違う)

    「つか、最近よくあのバーに出入りしてるだろ」
    「え、あのバー......ああ!スポーツバー!はいはい最近この辺に引っ越してきまして、いいお店見つけたなーって思ってたんですよ」
    「へえ。俺もよく行くからよ。前から声掛けようか迷ってた」

    「奇遇だな、こんなとこで」と言って「ん」と、私に傘を差し出す。咄嗟にそれを受け取った私を一瞥して彼は早速と走って行ってしまった。

    一瞬、あのトトロの有名なシーンが思い浮かんで思わず「カンタ?」と言いそうになった口を噤む。ブルブルと頭を振り邪念を取っ払ったけど、もちろん、もうそこに彼の姿はなかった。

    「ええ、傘まで……」

    見ず知らずの人に、よくこんな親切できるなあ、と思った。(あと頭なでたりとか)というか……さ。あれ?なんか昨日テレビで見たスポーツ選手によく似てるなあ、って。でも私が三井選手の顔を脳内再生していたからさっきのイケメンが三井選手に見えただけかもしれないとも思ったけど。なんか雰囲気も似てたし。髪型とか。

    だけど、さっきの行動……イケメンだから許されるとか以前の問題で、慣れているのかもしれないな。単に人たらしなのか不明だけどさあ、それでも不意打ちでこんなことされた日には——

    「惚れるって……」

    地味に赤くなる頬をもらったタオルで隠す。やっぱり、あんまり意味はない。びちょ濡れすぎて。大きなタオルと彼の匂いに包まれて、私は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。


    思い返せばたぶん。私が恋に堕ちたのは、きっとこのときなんだと思う。だってあの瞬間には驚きの方が大きくて、タオルを差し出してくれた目の前の彼が本当に前日、テレビで拝見した人と同一人物なんて夢にも思ってなかったから。

    このときの彼が、のちの私の彼氏になる昨日テレビで拝見したプロバスケットボール選手の三井寿だったってことが明確にわかるのは、もうすこしあとになってからの話。








    いまどき、手作りって……ダサいかなぁ。なんて思いつつ私は今日も手作りのミサンガを編み進めている。しかもバーでお酒を飲みながら。
    まだまだゴールは見えないけれどもとりあえず彼のシーズンがはじまるまでには間に合いそうだ。今季のシーズン前には渡す目標だった、そう彼氏の寿くんに。

    もうすぐ寿くんとは付き合って三ヵ月が経つ。出会いは金曜夜のテレビ、じゃなくて、カンタ、じゃなくって雨の日に傘とタオルを貸してくれたことがきっかけ。彼はバーで見掛けていたと言っていたから、私のことはもっと以前から知っていたふうではあったけども。

    借りた傘とタオルを返そうとバーに足を運んだのは大雨の日から一週間経ってのこと。その日は来ないかもしれないとマスターに言われていたが、少し待ってみたら遅い時間に仲間を連れて数名の体育会系が入って来た。その中に彼はいたのだ。

    それから自然と仲良くなって、お付き合いに発展するまでそう時間はかからなかった。一緒にいると楽しいし。きっと私たちは精神年齢が同年代の中でもちょっと低い方なのかもしれない。だから気が合ったのかも。もしくは彼の中で私は『3%以上』だったってだけの話かも知れないけど。

    精神年齢が低いかもと思う理由には私たちの笑いのツボが彼のチームメイトからすれば謎だらけだと言われたからだ。二人で笑い合っていても、寿くんとほぼ毎回一緒にバーに来る宮城さんなんかは、いつも首をかしげて見ている。

    「なんか二人のツボって謎だよね」

    宮城さんによくそんなことを言われる。それでも寿くんは「そうか?」と平然としているのだ。

    そしていま、今更ながら何かあのとき(雨の日事件)のお礼をしたいなあと思い立ちふと見ていたテレビ番組の中で、昔懐かしいミサンガが再流行しているというネタを見てこうして手作っているというわけだ。

    「あのさあ、名前ちゃん?」
    「んー?なに、マスター」
    「何もさ、ここで作らなくてもよくない?」

    マスターが四杯目のハイボールを私の座っていたカウンターの脇に置きながら、呆れ口調で言う。なお、テレビからは今日も金曜の晩にやっている人気番組、お酒のつまみになりそうなあのバライティ番組が流れている。今日のスポーツ選手枠は今では私も面識のある、宮城リョータ選手だ。


    『あっ、最初にちょっといいですか?』

    番組が始まって早々気まずそうに宮城さんが口を開く。それに他のゲストも「なになに?」と宮城さんのほうに意識を向ける。

    『あの……相方が大変失礼な失態を犯しまして』
    『相方……? あー!三井選手ねっ!』
    『あの、酔っ払い星人やっ!』

    スタジオがドッと沸く。きっと彼の言う相方三井寿が前回出たときにべろんべろんに酔っぱらった件を謝罪しているのだろうということが、私でも分かった。

    『あのぉー、宮城選手は大丈夫ね?』
    『あ、僕は全然。酒は飲んでも飲まれないタイプで通ってんで。あの人はもう別次元すね』

    スタジオがまた笑いに包まれる。その後も三井選手もとい、私の彼氏の寿くんネタで番組は大いに盛り上がりを見せていた。

    「なんか集中できるのここ。ちゃんと飲んでお店にお金落としていくから安心してよ」
    「まあ、いいんだけどさ。そういうとこおもしろいよね、名前ちゃんって」
    「そう?他所様に迷惑かけないように必死に生きてるつもりなんだけどね」
    「三井さんもよく話してるよー、俺の彼女ちょーおもしろいって」
    「それはそれは、つぎに会ったらチューでもしてあげよっかな」

    毎日練習であくせくしてる多忙のスーパースター炎の男だからさ。それでも忙しいながらにも帰りによく私のアパートに顔を出してくれているからこうやって彼がいないときに時間を見つけてこんなところで編んでたりするんだ、ミサンガを。

    本当はガチ勢みたいに練習も見に行ったりしたいけど……彼女の立場を使ってマウント取られてると思われたくないし、特にチームメイトとかに。寿くんに、迷惑がかかりそうなことは避けたい。だからあとちょっとの辛抱。シーズンが始まったら心置きなくその雄姿を拝みに行ける。大丈夫、あと三、四日でミサンガも出来上がると思うし。あーあ、寿くんの驚く顔、楽しみだなぁ。


    「よぅ、名前!どんくらい進んだんだ?」
    「ぎゃ!!」

    ポンと肩を叩かれて驚いた。気付けば、宮城さんを抜くいつものメンバーでバーに入ってきた彼氏三井寿が口角をあげて楽し気に私の肩に手を回している。

    「こらッ寿くん!急に背後から声掛けないでって言ってんでしょ!心臓口から出たらどーすんの」
    「そんときゃ俺が、臓器提供に持ってくから安心しろぃ」
    「いや、そこは先に救急車ね?」
    「ふはっ!いやあ、名前の驚く顔が見たくてよ」
    「ファン向けの笑顔で言ってもダメでーす!」

    いや、隠れてミサンガ編んでたのは事実なんだけどさ。この人(炎の男)がさ。全く空気読めない男でして。それに付け加えて女心も全くわかってない。顔だけはいい。そう、顔だけは。


    ——実は、一週間ほど前……

    「最近コソコソ何やってんだよ」
    「——!!? や、何もやってないよ」
    「ほーん、浮気か?」
    「ちがいます」
    「じゃあ不倫だな」
    「結婚してませんけど」
    「ちょっとそれ見せてみろっ!」
    「はっ?!ちょっと、返してよ!」

    と、いうやりとりココでありまして……寿くんが騒いで騒いでもうウンザリしちゃって、宮城さんにも黙らせろと睨まれて。結局は私が折れて折角ヒミツにしてた計画を、全部パーにされたというわけだ。しかも、そのプレゼントを渡す予定の、張本人のせいで。

    本当にこのひと頭パーなんじゃないのか、と思うことが多々ある。乙女心ってやつを理解しようともしないのだ。でもこれでもバスケット界隈では一番人気らしい。顔か、みんな結局は顔なのか。と、宮城さんに不貞腐れて言ったら珍しく真面目な顔つきで、「プレー見たら惚れるよ、絶対」と言われて面食らったのも、最近の話。

    プロバスケットの試合は見たことがなかったからそのときは「へえ」と相づちだけ返した。それでも一応私も気を遣ってなるたけ彼の前で編まないように配慮してんのに死語でいうところのKYな彼は一向に構わず、こんな感じで進行状況きいてくる。ほんとスターだよ、色んなイミで……。

    「楽しみだな、名前の手造りミサンガ」
    「……あのねぇ楽しみも何ももう実物見てんじゃん。色とかデザインとかモロバレなんですけど」
    「まぁそーだけどな。でもやっぱ彼女が何か一生懸命作ってくれてる姿って俺的にスゲーそそるんだよなァ」
    「あなたのそそりポイントなんてしりませんっ。よし。 じゃー......私は帰るよ」

    結構わたしはすでに飲んでいたので、帰り支度をし、立ち上がってマスターにお金を渡す。会計を終えて「じゃね!」と、努めて明るく言い放ち、くるりと寿くんに背を向けると、寿くんに「待てよ」と呼び止められた。なに、と振り返ったそのとき。

    「——!」

    ちゅっと、キスをされる。思考が停止した。頭の中、絵に描いたように「・・・」という間が空く。

    「なっ……にすんの?!みんないますけど!!」
    「照れてんのもそそるぜー♪」
    「……はぁ?」

    ほんとに一番人気なんか、コイツ……。寿くんはくすくす笑いながら私が座っていたカウンター席の隣に座る。そのタイミングを見計らっていたかのようにテレビに映っている、宮城さんの笑い声がバーの中にこだまする。まるで年甲斐もなく照れている私の様を見て揶揄われている気分だ。

    「ほんと名前ってかわいいよなあー」
    「揶揄ってるでしょ……もぅ。」
    「いーや? ほんとに思ってるって」

    ……ダメだコイツ。人たらしのくせして。なんだよ、呆れるくらいスターだよ。ちくしょう。

    「……あー、もうっ」
    「あ? なにシケたツラしてんだよ」

    私は不意にテレビに映る宮城さんをじっと見る。それにつられて寿くんもお酒を飲みながら視線をテレビに向けた。

    「宮城。トーク上手だよな、俺あーいうの苦手」
    「寿くんは酔っぱらってりゃ問題ないよ、周りのガヤが助けてくれるから」
    「おーおー、なんか含みのある言い方だなあ」

    寿くんがぐいっと私の顔を覗き込んでくる。そばにいるだけでドキドキするのに至近距離でその顔を晒してくるの、本当に勘弁してほしい。

    「だって、3%・・。可能性あるんでしょー」
    「はっ、まーだンなこと言ってんのか」

    「ネタじゃねーかよ」と言葉の通り、呆れ口調で寿くんが鼻を鳴らして、私から顔を離した。また視線をテレビに向けてふはっ、とトークを見ながら笑ったりしている。その横顔をぼーっと見ながら私はゴソゴソと先ほど作成していたミサンガを取り出した。

    「ん。」
    「あ?」

    きょとんとした寿くんが、再度こちらを見る。

    「はい、完成したから」
    「ほう……」

    言ってそれを受け取った寿くんが嬉しそうにミサンガをライトに翳したりしてじっくりと観察している。

    「足首にでもつけっかなー」
    「ん」
    「名前のは?お揃いで付けようぜ」
    「え?……いや、作ってないよ?」
    「は? じゃあコレ、一旦返却な」

    そう明るく言って、私にミサンガを戻してきた。不思議に思いながらそれを受け取ってミサンガを眺めている私に寿くんが優し気に語り掛ける。

    「お前とお揃いで作れよ、それからまた貰うわ」
    「え? でも時間かかるよ、これ」
    「いーって、ずっと待ってっから。100%・・・・好きな相手とお揃いで付けてーの、俺は」

    カウンターに両肘をついて両手にジョッキを抱えた寿くんの横顔は綺麗だし品があるし、100%イケメンだし。私はその言葉だけで機嫌が直ってしまうほど寿くんが大好きなのだ。それでもやっぱり聞いてしまう、乙女の性——。

    「……ねえ、私のこと100%好き?」
    「あ? パーセンテージで表せねーぐらい、好きだぜ」
    「じゃあ3%の相手もそうなる確率はあるの?」
    「ふはっねーよ。男ってのは本命には奥手なの」

    本命に奥手なら、あんな土砂降りの状況下で易々と、声なんてかけてくるのだろうかと思い悩む。すこしむっとした私に目敏く気付いた寿くんが目を細めて私の頭を大きな手のひらで撫で付ける。

    「奥手でもチャンスは逃さないタイプなんだよ、俺は」
    「……」
    「あのときは——その、チャンスだと思った。」
    「——!」

    真っ直ぐに私を見つめて言う寿くんのその言葉に嘘偽りがないということは、はっきりと伝わって来た。私は、フンと顔を背けさせてから言った。

    「ふーん。まあ、良しよするかっ」
    「なァーんだそれ。すっげー上からだな」
    「いーのっ」
    「あっそ。まあ、機嫌が直ってよーござんした」
    「ふふ、」


    あの雨の日——寿くんと私が出会ったのは偶然か必然かはわからないけれど。

    きっと傘を忘れたのも、寿くんが気まぐれでも。意を決して傘を差し出そうと思ってくれたのが運命の賭け≠セったって、思ってもいいよね?










     終わらないになれっ!



    (よしっ、名前のアパート行こうぜ!)
    (えー、またぁ?)
    (おーよ。愛を深め合わねーとなっ)
    (ひぃー、チャラ。)
    (おーおー、何とでも言え。活きのいいドM)
    (——!! サイテーっ!!)

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