私が君の手を握り返したのは

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  • 「ちょっと三井三井!!」
    「な・ン・だ・よっ! うっせーな」
    「キャー見て見て!!」
    「さっきから見てるだろーが!」

    湘北高校、体育祭。
    サッカー、バレー、野球にバスケ。借り物競争に最後はリレーときたもんだ。

    あーあ、バスケしかヤル気起きねーわ。

    「一年生と三年生が合同とか神すぎない!?」
    「一年と三年の参加者が少なすぎだっただけだろ」
    「えー、じゃあじゃあ、宮城くんたちの学年は優等生なんだ?」
    「ハッ、知らねーよ」

    毎年おれの通う学校の体育祭は参加率が低い。学校祭は参加率高けーのに。

    でも俺は真面目に参加した。もう単位落としてらんねーんだよ!体育祭なんて……くそダリ―けど。

    「水戸くん居た、水戸くぅ〜ん!!」
    「だーっ、うっせーって!」

    俺の腕をブンブンと振り回す名字にうんざりしながらグラウンドの隅に腰を下ろして俺らは桜木と水戸のクラスの借り物競争の風景を眺めていた。

    「よーへー、コレ何て読むんだ?」
    「えっ? んー……元ヤン、だろ?」
    「うお!!ミッチーしか居ねえ!」

    何やら騒がしくしている奴らを遠くから眺めていたら猛スピードで桜木がこちらへ向かって走って来る姿が見えた。

    「ミッチー!」
    「バカ、あぶねっ!!」


     ― ドーン!! ―


    「痛って……、バカヤロ。 急に突っ込んでくる奴があるか!!」
    「だってよカリモノキョウソーで元ヤンって…」

    桜木くんのその言葉に隣で激突したときに痛めたであろう膝を撫でていた三井がギロリと私の方に顔を向けたのであからさまに目を逸らした。

    「……名字、ひとつ聞く」
    「ハイ」
    「実行委員、テメぇも入ってたよな?」
    「……ナンノコトデスカ?」
    「てっめぇー、……」

    はい、書きました。(元ヤンってのも私が)
    なんならダメもとで人数が足らないならと、一年生と三年生の合同案も私が出しました。

    お見通しだったんですねー?
    現在優等生の三井サンには全て。あはは。

    「ハハハ、花道〜目立ちすぎだ」
    「み、水戸くん……っ!」

    ……。

    この野郎……
    目がハートになってんだよ、アホが!


    「名前さん、」
    「は、ハイ!!」
    「借り物、借りられてくれます?」
    「へっ?」
    「俺のお題はコレ」

    そう言って俺と名字の目の前に借り物競争の紙を指し出した水戸。

    そこには可愛い子≠フ四文字。(つか、名字のこと下の名前で呼んでんのかよ)

    そしていつものふざけたバカトリオも騒ぎを聞きつけて駆け寄って来た。

    「えっ!?み、水戸くん!?」
    「へっ?ダメ?これって自己判断じゃねーの?」
    「そ、そうだけど……」
    「よしっ、じゃあ……ハイ。」

    そう浅く笑って言った水戸の右手が名字に差し出された。


     ― パシンッ! ―


    「み、三井……?」
    「前見えねぇーんだよ、どけろお前ら」

    俺は座ったまま名字に差し出された水戸の右手を軽く払ってやった。

    「……、ああ。わりーわりーミッチー」
    「どうした?よーへー?」
    「いやっ?……よし!花道行こうぜ!」

    水戸がくるりと俺らに背を向けてグラウンドの中央に戻って行った事で残り四人(バカトリオ)も後を追って行った。

    「………、三井?」
    「あ?」
    「……う、ううん、」

    沈黙の中、俺は暫くしてから名字の左手を取って立ち上がる。

    「な、なに……!?」
    「忘れてた」
    「へっ?」
    「俺の借り物競争の品物」

    俺はポケットにしまい込んでいた借り物競争の紙を乱暴に名字に押し付けてそのまま彼女の手を引いて屋上に向かう。

    私は無言で三井に手を引かれたまま着いて行く。

    三井から渡された借り物競争の用紙には好きな子≠ニ、書かれていた。

    まさにそれは紛れもなく
    ——私の字だった。



    私がその手を握り返したのは










     言葉にならなかったからで、



    (サボるの?)
    (あったりめーだ、ダリーわ体育祭なんてよ)
    (そ、それだけ……?)
    (……。名前が……好きだ、)
    (私も三井が好きになった)
    (今なったのかよ!)
    (え)

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