冬休みが終わって二つ年上の私の彼氏はバスケットではなく毎日、勉強に精を出していた。
「お前さー、あんま俺と居ない方がいいんじゃねーの?」
「へ?洋平どしたの急に」
「いや……、分かんない?」
「へっ?」
私は三井先輩の補習が終わるまで親友の洋平を引き留めて1年10組の教室で時間を潰していた。
「いいじゃん、花道だって部活行ったんだしー」
「そーゆー事じゃなくてさァ」
「じゃあどーゆうこと?」
「……鈍感だなー、名前は本当に。」
だって暇なんだもん、
相手してくれたっていいじゃん洋平のケチ。
「付き合って何ヶ月よ」
「三井先輩と?んー……、八ヵ月目くらい?」
「んでまだ、センパイって呼んでんの?」
「うん」
「キスする時も?」
「うん、」
「ヤる時も?」
「……ねえ、何の質問?コレ。」
洋平は入学当初から仲良くなった異性の一人。
話しやすいってゆーか、楽って言うか。
「ミッチーの苦労が分かるねえ……」
「なにそれ、苦労とか失礼なっ!」
― ダンッ……! ―
……。
「……洋平、何の真似?」
「こーゆうのされてもいいから今でも俺と距離近いの?名前ちゃんは。」
いま、私は何故か洋平に壁ドンされている。
壁ドンというより窓ドンだけど。(窓割れなくて良かったァ)
怖がらせたいのかな?友人の私に粋がりたいのかしら、……え、全然怖くないし!
― ダンッ!!! ―
「ちょ、おま……」
「洋平の威圧になんか負けませ〜ん!」
そう言ってすかさず洋平の隙を見計らって今度は私が壁ドンならぬ窓ドン(?)をして見せる。
要するに、いまは私が洋平を正面から挟んでいる状態。
しかし、すぐにパシッと私の腕を払い洋平が机に上がっていた自分の黒いバッグを持って溜め息をついた。
「名前……お前ダメだわ、俺帰るよ」
「えー?」
「迎えに来たみたいだしね、彼氏サンが。」
そう言って洋平が教室を出て行ったすぐ後に三井先輩が中に入って来た。
うわ、すごい。
洋平どのタイミングで三井先輩の存在に気づいてたんだろ。
「三井先輩!お疲れさま〜」
「お、おぅ……」
「帰ります?」
「……ああ、」
その日の帰り道、三井先輩は終始無言だった。
「ねーねー三井先輩ってば」
「……」
「どーしたの?お腹痛いの?」
「……」
そんな三井先輩の態度に腹が立ってきた私は、思わず足を止めた。
三井先輩は私が立ち止まっているのを気付いている癖に、振り向きもせずスタスタと先を歩いて行く。
「ねぇーってば!!」
私の声にようやく足を止めた三井先輩。
しかしこちらを振り向こうとはしなかった。
「なんで何も話さないのぉ?」
「——つかよ、」
ようやく振り向いた三井先輩の顔は今まで見た中で一番怖い顔をしていた。
——え、どうしたのかな?
「お前よ、水戸と付き合えば?」
「へっ?」
「もう分かんね、俺」
そう言って三井先輩はまた一人で歩き出してしまった。
すぐに「待ってよ」と言って追いかけて隣に並んだ私をチラりと流し目にしたあと三井先輩は小さく舌打ちをした。
「何?えっ、洋平?なんで?」
「ハァ……」
深く溜め息を吐いた三井先輩が、ゆっくりと立ち止まったので私も同じく立ち止まってみる。
「いつなったら名前で呼ぶんだよ」
「え?三井先輩を?」
「ああ」
「……だって……、呼べないよ、」
「じゃあいいわ、もう。」
そしてまた大きく溜め息を吐いて歩き出した三井先輩の背中に向かって私は叫んだ。
「呼べないよ!敬ってるから……友達とは違うから! 先輩って呼びたいもん!」
私の言葉にピタリと足を止めた三井先輩がゆっくりと私の方を振り向いた。
「友達じゃないし、後輩でもないし……」
「……」
「彼氏だけど……すっごく尊敬してるから」
「……」
「三井先輩って、呼びたいよ」
三井先輩が俯く私の目の前まで歩いて来たのが視界に入って、私も顔を上げた。
「名前、俺の事好きか?」
「好き、」
「どのくらいだよ」
「いっぱい。」
「……いっぱいって何だよ、アバウトだな」
……あ、
やっと笑った……、三井先輩。
「……手ぇ、繋ぐか?」
「繋ぐっ!」
三井先輩はそう即答した私の右手を握って、自分のズボンのポケットにそのまま入れた。
「仕方ねぇ、仲直りすっか……」
「する!!」
そして三井先輩は私と繋いでいないもう一つの手をポケットから出すと私の頭をガシガシと撫でてくれた。
俺が名前の手を握り返したのは……
不安を消したかったからで、
(じゃあ先輩付けていいから名前の方にしね?)
(ひさし先輩?)
(んーまあ、とりあえずは良しとするわ)
Back /
Top