流川楓の場合
「あ、流川だ」
「あ?」
朝、偶然居合わせた宮城とダラダラ学校まで歩いていると、後ろから自転車でこちらに向かってくる流川の姿を宮城が発見した。
「アイツちゃんと前みてんのかよ」
「確かに、下向いてるスね…」
立ち止まって流川を見ていた俺と宮城は、近づいてくる奴のスピードに嫌な予感がよぎった。
スピードが緩まない…。
「おいおいおい…」
「これって…」
− ガシャーン!! −
「あ、先輩。」
予想通り、俺らに自転車ごと突っ込んで来た流川は、悪びれもせず立ち上がると、自転車を立て直した。
「バカヤロウ!前見ろよ!自転車乗ってるときは!」
「俺らのこと見てなかったじゃねーか!」
「ああ、見てねース。」
やれやれと溜め息を吐いた俺を横目に、宮城も立ち上がり、自身の学ランについた砂を払っていた。
「流川、誰に連絡してたんだよ」
「え。」
宮城がニヤニヤと流川の手に持たれた携帯電話を指さした。
俺はぶつかって来た事への怒りが収まらず、無視してさっさと歩き出す。
後ろから二人が着いて来た音がしたが、朝からツイてねーなと、またひとつ俺は溜め息を吐いた。
「いや、別に。」
「別にって、自転車漕ぎながら返すほど重要な相手なんだろ?」
「…まあ」
へえー。流川もオンナいんのか。
つか、こんな奴と付き合って楽しいのか?
きっとしゃべんねーだろ、全然。
「流川でもちゃんと連絡とれんのになー」
宮城の声に俺は咄嗟に振り返ってしまった。流川は不思議そうに俺を見やり、宮城は「なんスか?」と呑気に尋ねてくる。
「な、なんでもねーよ…」
またすぐに前を向いて歩き出した、俺は小さく舌を打ち鳴らした。
「まあ…報告くらいは」
「報告?」
「……」
「ああ、またこの前MVP取ったもんな?」
「ウス。」
なんか二人の会話を背中で受けながら、俺って素直じゃねーとか、キャラじゃねーとかそんなの一周回って…もはや、こじらせてんじゃねーのか、なんて思えて来た。
「三井サンなんか携帯いらねーんじゃねーかってくらい連絡しねーんだぜ?」
「へぇ…」
「なっ?三井サン!」
シカト。
聞こえません、俺には何も。
どーせ、こじらせてんで。
「あ、そー言えば」
流川の声に無意識に立ち止まって振り向いた俺に、未だニヤニヤとしている宮城のムカつく顔が先に目に入って来た。
「このあいだセンパイ見たっす」
「あ?なんだよ、名前見たのか?」
「へ?名前サン?どこで?」
流川が少し目をあらぬ方向に向けたのを俺は見逃さなかった。何か続けて、良からぬことを発するであろう嫌な予感が、脳裏を掠めた俺は、目を細めた。
「どこで見た?」
「駅。」
シンと、静まり返った空間に宮城の声が重なる。
「名前サンって駅使わねーっしょ」
「ああ、使わねーな」
宮城がゆっくりと流川を見た事で、流川も目線を俺に合わせた。バスケ以外でコイツと目が合ったのなんて、久しぶりだ。
「男と居たっす。」
まあ、流川の価値観は理解した。
こいつは、
報告は必ず入れる派
って事だな。
(んな事どーでもいいんだよ!)
(は?……三井サン?)
(流川!それいつの話だよ!?)
(……昨日の夜ス。)