それからさらに一週間が過ぎた。季節は確実に進んでいて、街路樹の葉が落ち始め、朝晩の冷え込みが、本格的になってきた。店先には、シクラメンやポインセチアが並び、クリスマスの気配がちらほらと、忍び寄っている。その間も、二人のやり取りに、大きな変化はなかった。『おはようございます』『今日も寒いですね』『おやすみなさい』。そんな、毒にも薬にもならない短いやりとりが、一日一往復あるかないかの程度。壁にも電柱にも埋まっていない、ヒーローホークスは、至って平穏にヒーロー業をこなしていた。九州でヴィランを一気に三件捕まえて、テレビのインタビューを、そつなくこなし、雑誌の取材を笑顔で捌いた。
そして、ある週の金曜日。時刻は午前十一時を少し回ったころだった。昼前の花屋は、いちばん静かで朝の仕入れと水替えが一段落し昼の客足が動き出すまでの短い凪の時間。彼女はカウンターの奥で伝票を整理しながらポケットの中で震えたスマートフォンに気づいた。

花ってクリスマスに売れますか?

売れますよ。クリスマスは
特に忙しいです

なるほど
じゃあ予約ってできます?

お?ヒーローさん。
誰か特別に渡したい人が?

私が見繕ってあげましょうか

いや、自分で選びたいんですけど

ごめんなさい。ですよね

オッケーです
いつごろ来る予定ですか?

来週の土曜でもいいですか

閉店間際とかでも大丈夫です?

その日はちょうど遅番なので
夜の九時までいますよ

了解です。楽しみにしてます

今日は本当に
ありがとうございました

どういたしまして
成功するといいですね