※原作ネタバレ+捏造のため閲覧注意。原作・アニメ5期以降を未視聴の方はご注意ください※





 言えなかったんだ。本当は一言『行かないで』って。ただ、それだけだったのに——。

 夜の匂いがした。夜風に舞う微かに焦げたような匂い。それが彼の羽根の匂いだと気づいたとき私は、目を逸らした。そうしてしまった自分を、何度も責める夜だった。
 ひゅう、と風が鳴る。都会のビルの谷間を縫うように駆けていく夜の風は、決して冷たくはなかったけれど、どこか胸の奥をざわつかせる匂いがしていた。アスファルトの隙間に積もった埃と、遠くの焼けたような焦げた香り。そして、そこにまぎれる、彼の羽根の匂い。
 私はただ彼の背中を見ていた。なぜかその肩がいつもより小さく見えた気がして。いや、きっと私が、あの大きな羽根の重さを、あまりにも長く忘れていたのだろう。彼はあれでいてずっと背負っていたのだ。見えない何かを、幾重にも背中に纏わせたまま。私の目の前、風の向こうに、ヒーローがいる。

「……もう、行くの?」

 呟いた声は問いというにはあまりに弱々しく、風に攫われるにはあまりに重く、喉の奥に残ったまま微かに震えた。囁きに近いその声は、自分のものとは思えないほどに掠れていた。それはまるで呪文のようでもあった。それでも彼は振り返ることなく、どこか曖昧な笑みを浮かべて言った。

「うん、ちょっとだけね。」
「……」
「大丈夫です、すぐ戻りますよ。」

 そう言って、ようやく視線だけがこちらに向けられた。いつものあの薄い笑み。けれどどこか、それが痛かった。それ以上、何も聞けなくなってしまいそうなほどにその��すぐ�≠フなかに、どれほどの危うさが潜んでいるかなんて、私にだって分かっていた。わかっていても、言わなかった。言えなかった。だってそれを言葉にしたらたぶん私は泣いてしまう。あなたを止めてしまいそうになるから。
 彼の背中に隠された正義と覚悟——誰にも言えない任務の重さ。そのすべてが彼を蝕み彼の羽をすり減らしていくのを私は知っていた。なのに、笑うのだ。彼はいつだってそうやって笑うから、出会った頃からずっとずるい人だと思っていた。

「……あのさ、」

 不意に彼の声が低く落ちてふと私の頬に視線が触れる。

「そんな顔してるとさ、逆に送り出しにくくなりますよー?」
「……」
「どうしたの?ほら、いつもの元気は?」
「……」
「はは……。もったいないですね〜、せっかくの可愛い顔が台無し」

 その言葉に胸の奥がきゅっと痛んだ。そうやっていつも軽く笑って、またひとりで、飛んでいくつもりでしょう、燃えるような空へ。それが音もなく溶けていなくなってしまいそうで怖かった。

「ねぇ……」

 私の声がやっと彼に届いたのは、それから少しだけ時間が流れたあとだった。

「あなたが、いちばん。自分を、雑に扱ってるんだよ……粗末に、してるんだよ。」

 そう言った自分の声が震えていた。私は足元を見た。言葉に出したはずなのに吐き出した想いの重さに自分の心が潰れてしまいそうだった。涙が込み上げそうになって視線を落としたまま、彼の影がアスファルトに長く伸びて、私の足元にかかっていた。それがまるで��永遠の別れ�≠フように見えた。
 沈黙の中、風が鳴る。どこか遠くで誰かが笛を吹いているような音。夜という静けさのなかで、それはやけに生々しく響いた。そしてようやく、彼は私のほうへ振り返る。表情の奥にあるものを見せないのは、彼の癖だと知っていた。

「うそ? 俺が?」

 冗談っぽく笑いながらも彼の声はどこか濁っていた。それが悔しくて私は拳を握ったままわずかに前へ出た。言葉じゃ足りないのに、言葉でしか伝えられないもどかしさに喉が焼けつくようで、熱かった。

「もしかして……心配、かけてました?」
「うん。いつもだよ」
「……」
「心配しか、かけてないよ……。」

 泣いてしまいそう。だけど今ここで泣いたら、もう、戻れなくなってしまいそうで。だから私は代わりに、彼の前に立ちふさがることを選んだ。大義も正義も、この恋には関係なかった。ただ、あなただけが、私の真ん中だった。
 『ねぇ、行かないで』って言いたかった。ただそれだけのこと。でもどうしてもその一言が言えなかった。だから私は代わりに彼の袖を掴んだ。そっと、震える手で。それだけで羽根がふわりと揺れた。夜風が、ふたりの間を通り抜けていく。それはまるで、決意を連れてくる風だった。

「まぁ、死んでも俺は、ヒーローですからねー」

 それは私に言ったというよりも、世界に向けて言ったというよりも、彼自身に言い聞かせているような言葉だった。

「だからって、命を落としてもいいなんて、そんなの……」

 言葉が詰まりそうになるのを堪えて、私は彼の胸に顔を埋めた。鼓動が速い。きっと彼も怖いのだ。でも誰にも言わない。それが��ヒーロー�≠フいや、彼の強さで、そしてそれを誰にも見せない弱さなのだ。

「ちゃんと、帰ってきたいと思ってますよ」
「……」
「あなたの——名前さんの、もとにだけは。」

 低く囁くような声が鼓膜に触れる。まるでその一言だけが本音のように思えて、心が、泣いた。

「じゃあ、ちゃんと帰ってきて」

 私は、声を押し出すようにして、泣きじゃくりそうになりながら必死に言う。

「それで……帰ってきたら、ちゃんと怒るから」

 私はそう言い切って無理やりに笑ってみせた。すると彼も少しだけ肩をすくめるように笑った。

「怒るのかぁ〜……優しくないですねぇ」

 そう言いながらも、その声はどこか、安らいでいた。そうしてほしかったみたいな、やさしい、諦めのような匂いがした。なんでそんな風に笑うの。怖いのは私のほうだよ。怒る理由がなくなるのが一番怖いんだよ。
 風がまた吹いて彼の羽根が揺れたとき、それがまるで、私の手をふりほどくみたいにして揺れた気がして、私はそっと手を離した。

「優しくなんかしたら......一番に、命を捨てそうだったから」

 彼はまた笑う。きっと、この夜の記憶を、私は一生離せない。あのとき見上げた空に浮かぶ月の輪郭も、彼が最後に見せたほんの微かな寂しげな横顔も。忘れたくなかった。この手のひらに触れた熱も羽根が揺れたときに生まれた風も、全部。いつものように名前すら呼べなかったこの想いを少しでも、伝えられたと信じていたかった。

「じゃあ、そろそろ……」

 彼が口にしたのは、時間の話だった。だけど、その��そろそろ�≠ノ、どれだけの覚悟が詰まっていたかなんて私は知らないふりをした。この人の時間が、明日で止まってしまいそうだったから。
 私は首を振った。ほんのわずかだったけど風がやさしく頬を撫でた。その風を、彼が運んでいることに、どうして気づいてしまったんだろう。
 わかってる。ヒーローだってこと。誰よりも、背負っている人だってこと。だから止めてはいけないと、わかっている。けれど心が──私の心がやっぱり、叫びを喉の奥で殺していた。

「ねえ。きょう、だけは——」

 ——行かないで。最後まで言い切れずに掠れた声が自分のものじゃないみたいに聞こえた。言ってしまったあと胸の奥がきしんだ。だってそれは彼に一番言ってはいけない言葉だとわかっていたから。使命を背負って生きてきた彼に「行くな」なんて。それは、羽根を奪うのと同じことだ。

「そっかぁ……」
「……」
「ありがとう、」
「……、」
「やっぱり優しいですねー、名前さんは。」
「……っ、」

 しかし彼の声は優しかった。まるで先を噤んだ私の言葉を読み取ったみたいにして。だからこそそのやさしさが胸を裂いた。あぁ、この人はもう覚悟をしているんだと。戻れなくてもいいと、
どこかで、思っているんだ——と。

「……じゃあ、行ってきます。」

 そう言って、彼はひとつ深く息を吐き、背中を向けた。そのたった一歩の距離が、永遠のように遠く思えた。心が置いていかれていくような感覚。その背中が夜に溶けていく。声をかけようとしても、呼吸の仕方すら忘れてしまったように、喉が塞がった。
 背中を向けた彼の声はどこか吹き消されるように儚く、そして一歩、また一歩と、夜の帳のなかへと滲んでいく。
 羽根が揺れる。夜の風に乗って、静かに羽ばたこうとする彼の影が、私の指の隙間をすり抜けていく。それを追うようにして私はそっと手を伸ばした。けれど、彼の羽根には届かなかった。もう呼び止められる術は、どこにもなかった。

「……バカヒーロー。」

 涙が頬を伝った。風がそれを奪って、かすれた声で呟く。その声はもう、彼の耳には届かない。いや、届いていても、彼はもう、振り返らない。ヒーローだから。そういう人だから。
 夜の空に月が滲む。光を拒むように、雲が薄くかかっている。この夜が明けたあと彼の翼が焼かれることなど、まだ誰も知らない。だけど私は、なぜだか涙を止められなかった。ただ名前を呼びたかったのに、抱きしめたかったのに、届かなかった。そのすべてを私は胸の奥にしまい込んで、ひとり、夜の風を見送った。

 さよならじゃないと、また会えると信じたい。けれどそれを願えば願うほど別れが本物になっていくようで怖かった。
 信じたくて。でもどこかですでに、��別れ�≠フ匂いを知っていた気がした。羽根の気配が夜空に吸い込まれていく。あの人の背中はあまりに優しくて、あまりに遠かった。まるで��さよなら�≠�言わずに別れようとする人のように静かで、やさしくて、あまりに残酷だった。

 我が国、ナンバー2ヒーローの剛翼の羽根は、どこまでも遠く、そして静かに、確かに、別れの風を纏っていた。


 *


 もしも言葉が刃なら私はあの夜、あなたを切りつけていたかもしれない。

 『行かないで』

 と。たった五文字。そう叫びたかった。けれどその一言がどれほどあなたを縛るか分かっていたから、私は最後まで、言えなかった。
 あなたは笑っていた。いつも通り、飄々とした顔でまるで��またね�≠ェ確約であるかのように。でも私はあのとき感じた。帰ってこないかもしれない、って。言葉じゃなくても空気がそう言っていた。風の温度もあのまなざしも、どこか別れの匂いがした。それなのに私は手を伸ばすだけで、何もできなかったのだ。

 ねぇ、ホークス。あなたの本当の名前すら私はまだ、口にしたことがないの。
 ��タカミケイゴ�≠サの響きだけで胸がきゅうっと締め付けられるのはどうしてだろう。誰よりも遠く、誰よりも近くにいて、けれど決して触れられない存在。だってあなたはいつだって、すぐにどこかへ行ってしまいそうだったから。

 ……ねぇ、聞いて。私はずっと、あなたが好きだったよ。あなたが笑うたびにどうしようもなく愛しさが込み上げてきて、けれどそれを、伝えることで、何かを壊してしまいそうで怖かったの。
 あなたの笑顔には痛みが隠れていた。誰も気づかないふりをするその奥に張り詰めた孤独が滲んでいた。私にはそれが、見えてしまった。だからこそ私は、怖くなった。好きになればなるほど、あなたの��剛翼�≠�奪ってしまいそうで——。

 ヒーローという名の下であなたはきっとずっとひとりだったんだよね。味方の顔をして内側では何も明かさない。笑ってるようで笑っていない。強がっているようで、誰よりも壊れそうで。
 私は触れたかった。あなたに。あなただけに。でも、触れてはいけない気がしていた。それが、あなたの羽根を焼いてしまいそうで。
 ——それでも、ほんとうは、願っていたの……
『行かないで』って。『私のそばにいて』って。あの夜の空にもう少しだけあなたの羽音を残していてほしかった。

 ねぇ、ホークス。あなたは、気づいてた?私が袖を掴んだときほんの少しだけ震えてたことを。あれは私の手のせいじゃない。あなたの羽根が、ふるえていたんだよ。きっとあなたも怖かったんだよね。私があなたを、引き留めるんじゃないかって。そうなったら自分が揺らいでしまいそうで心をまた、閉ざしてしまったんだよね。
 私はあの夜を忘れない。忘れられるわけない。あなたの羽根が、夜の空に吸い込まれていく姿。それをただ、見送るしかなかった無力な私。言えなかった��好き�≠煬セえなかった��さよなら�≠煬セえなかった��絶対に帰ってきて�≠�——ぜんぶ胸の奥にしまったままこうして朝を待っている。

 風の音がしない夜は静かすぎて怖いよ。あなたの羽音が、どこにも聞こえないから——。


 *


 鳥の声がしない朝だった。窓を開ければ遠くで車のエンジン音がした。ゴミ収集車のリズムが、日常を始めようとしている。けれど私の朝だけはまだ、始まっていなかった。いつもなら聞こえてくるはずの羽ばたき。目を閉じれば風の中に混じるあの人の羽根の匂い。でもこの朝には、それがなかった。雲が千切れながら流れていて、どこか風の速さだけが、現実の足元と噛み合っていなかった。
 それは本当に些細なもので、たとえばカーテン越しに差し込む光の気配とか、コーヒーの香りに混じる羽根の匂いとか。言葉にならない何かが、彼がこの世界のどこかにいることを教えてくれていた。でも──今日の朝には、それがない。その静けさが怖かった。まるで、彼という人が、まっさらな時間から切り取られてしまったような……存在ごと、風に消えてしまったみたいな、そんなひとりきりの、朝。

 風が冷たいわけでもないのに私はひとりで震えていた。夜の終わりに、あの人の羽音が届かなかったこと。それが、何よりも雄弁にすべてを物語っていた。
 帰ってこなかった。私は言えなかった。『行かないで』と。あの人の袖を掴んで無言のまま手を離せなかったくせに——最後の最後まで��好き�≠フひと言さえ、口にできなかった。
 彼は、笑っていた。優しくて、どこか、遠くを見ているような目で『すぐ戻りますよ』なんて、約束もしない約束を、私に投げかけて。だけど、私は信じてた。信じて、しまっていた。自分でも気づかないうちに、あの笑みを拠り所にしていたんだ。戻るかどうかはどうでもよかった。ただ、��戻りたいと思ってくれていること�≠�、信じたかった。だからいつかの夜、彼が言ったあの言葉が、心の奥に、今でも焼きついて離れない。

『俺は……あれですねー。なんか、名前さんの前だけはちょっと、弱くなっちゃうみたいですね』

 ぽつりと冗談のように投げた声。彼はそれ以上なにも言わなかった。私もそれ以上、なにも訊けなかった。ただ、互いに見て見ぬふりをしていたのだ。触れたら崩れてしまうものの正体を知ってしまっていたから。声に出せないまま、ずっと、胸の奥に押し込んでいた。もしこの想いを告げてしまったら、お互いがどこかへ飛んでいってしまいそうだったから。あるいは、もう戻ってこなくなるんじゃないかと──そんな気がして怖かったのだ。
 それでもきっとどこかで彼も思ってくれていたと信じている。もしも別の人生だったら、もしも戦わなくてよかったのなら私たちは、ちゃんと、好きだと伝え合って、手を、繋げていたかもしれない。そんなもしもを想像してしまうくらいに、彼と並んでいたあの日々を今は愛おしく想う。

 彼の声を、もう思い出せなくなりそうだった。たった一晩で、こんなにも心は砂のように崩れてしまうのかと、思い知らされる。私はただ、ぼんやりと、立ち尽くすことしかできなかった。カーテンが揺れている。それはまるで彼の羽根がこの部屋を通り抜けた名残のようで、私は思わず目を閉じて、その風の行方を追った。

「今日は……寒いね。」

 ぽつりと呟いた声が、部屋に落ちた。それは、あの人がいた痕跡をたぐり寄せるような、小さな儀式だった。気づけば、テーブルの端には昨日のまま置かれたマグカップがあり、飲みかけのコーヒーはとっくに冷めていた。あの人が指先で器のふちをなぞっていた姿を思い出す。

『ホークスは、甘くしないの? なんか意外』
『え?俺なんて、ブラックしか飲みませんよー』
『……』
『とか——カッコつけてみたりして。いや眠気に勝てなくて。苦いやつのほうが、効く気がするんですよねー』

 そう言って笑った顔。ほんの少し眉尻を下げてでも目の奥だけは笑っていなかった。
 あなたは、どこかいつも、終わりを見ていた。私にはそれがどうしようもなく切なかった。まるで長くは続かないことを知っていたかのように、未来を信じるふりをしていたくせにいつも最後の景色を目の端で見ていたから。

『もしもその羽根がさ、燃えたらどうするの?』

 そう、訊いたことがある。彼は一瞬、目を見開かせていたけれど、すぐに少しだけ口元を緩めて答えた。

『そのときは……そうですねー。だれかの記憶の中に、ちょっとだけ残ってればいいかな』

 そんなこと言わないでって私は言えなかった。
 ねぇ?ホークス。ねぇ……ホークス。私はこうしてあなたの名前を何度心の中で呼んだだろう。誰にも聞こえないところで何度も何度も、まるでおまじないのように、ただ延々と繰り返して。
 でもあなたは、いつも、どこかで立ち止まってしまいそうな私の背中を、風のように軽く押してくれた。『そのままでいいんだよ』って『俺は、ちゃんと見てますよ』って。その言葉にどれだけ救われたか、どれだけあなたを——好きになってしまったか。
 あなたのことが好きだった。触れるだけで手が震えるほどに。その笑顔が怖いくらいまぶしくてその奥にある痛みに触れたくて、たまらなくて。
 震えるほど好きだった。だからあなたの痛みに気づいてしまった。だからあなたの孤独を見過ごせなかった。だからこそ私は誰よりも臆病になった。
 私は、あなたが好きだった。震えるほど、どうしようもなく。あなたの一言で胸が跳ねてあなたの沈黙で心が沈んで、そのすべてをただ��好き�≠ニいう言葉に閉じ込めるしかなかった。
 言えばよかった『行かないで』って。言えば、よかった『世界中の誰よりも好きだよ』って。
でも言えなかった。そのことだけを私は後悔してしまいそうになる。
 けれど、ふと思うのだ。あの日々を後悔で塗り替えてしまったら私はもう、あなたが好きだったことに、手を伸ばせなくなってしまう。だから、私は胸を張って言うよ。

「後悔は、しない。ぜったいに——」

 したくない。震えるほど、あなたを好きだったことを。あの夜の袖口の温もりも、最後に見た、あなたの背中も。全部、きっと愛せてよかったと思えるように。
 あなたが帰らないこの朝に、私はひとつだけ、胸に刻む。私、あなたを好きでいられて、本当によかった、って——。そう思えることは、決して哀しいだけの記憶じゃない。あなたを思う気持ちが私のなかで確かに��生きていた�≠ニいう、証になる。
 だから私は、今日を生きる。羽音のしないこの朝を、ひとりで歩き出すことで、あなたの愛を、裏切らないように。

 この想いを抱いたことを、あなたの背中をあの夜の空に見送ったことを、私は悔やまない。泣きながらでも、きっと言える。あなたが消えた朝に私はあなたを愛していた。そのことだけはどうか風になって羽根に宿って。どこかであなたの心に届いてくれますように——。

 愛する人が帰らない朝。私は、きちんと愛していた。それだけは、ぜったいに誰にも奪えない。あなたがいない世界で、私は生きていく。でも、それは忘れることじゃない。
 ��好きだった�≠ニいう記憶を、何度も撫でて、震えながらもまっすぐに抱いていくことなのだ。





 

震えるほど、あなたを想った


(どうかどこかで——笑っていますように。)

※image song『 Farewell/Superfly 』


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