※原作ネタバレ+捏造のため閲覧注意。
※原作・アニメを未視聴の方はご注意ください。
あの夜、なんの気なしに立ち寄った広場で風に踊る短冊の一枚がふと目に留まった。それはひどく静かな文字だった。飾り気もなく祈るように、ただ、ぽつりと──。
『 無事でいてください 』
その文言を読んだ瞬間、始めは自分の事だとは思っていなかった。ただの誰かを想う誰かの願い。どこにでも転がっていそうな、通りすがりの気持ちのかたち。けれどなぜだか目が離せなかった。その短冊の色が、過去に自分の着ていたヒーロースーツと同じあの色だったこと。なによりもその短い文に残された沈黙の深さがどこか自分に触れてくる気がした。名前も、宛名もなかった。でもその無名の祈りは自分の胸の奥をひどく不器用に叩いてきた。そのときからだ。毎年のようにあの笹の枝を見に行くようになったのは。彼女の顔も声も知らないまま、ただ、短冊を見に行く。まるで偵察でもするかのように。滑稽だと思いながらそれでも目が追うのはあの黄色い紙だった。
二年目は、『どこかで笑っていますように』
三年目は、『私のこと覚えていますか』
四年目は、『会いたいです』
五年目は、『夢に出てきてください』
そして六年目には——『いまも、好きです』
知るはずのない相手に向けた想い。でも、読むたび自分が背中を撃たれるようだった。まるで、存在してはいけない命が誰かの記憶の中で静かに息をしていたような、そんな錯覚。
やがて七回目の七夕が来た。今年こそ、彼女の想いが終わると知っていた。なぜなら、その年の彼女の短冊にはこう書かれていたから。