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今日も洋平の住むアパートへ。空はすっかり暗くなって、どこからかカレーの匂いがした。いいな、カレー。今日はカレーにしてもらおうかな。
階段を上り、インターホンを押す。毎回すぐ開くんだけど、今日に限っては、3回押しても開かなかった。
寝てんのかな?
そう思ってドアノブを捻る。ガチャ、なんのためらいもなくまわり、扉は開いた。
「・・・・・・不用心な」
私は中に入る。電気がついてない。もれなく真っ暗だった。でも開いてたってことは、入ってもいいってことだよね。今日は鍵渡されてないし。
部屋の中は生温かった。今の今まで、いたんだと思う。まだ煙の立ち昇る、灰皿に押しつけられた残りの長い煙草。
「・・・・・・・」
軍団とどっかいったかな?
鞄をソファーに置き、テレビをつける。部屋の電気はなぜかつけたくない。このほうがなんとなく、浸れる気がするから。
いつだって洋平は、露頭を彷徨う子供のよう。
でも心だけは、刺されたって壊されないくらい冷たい。
救いようのない、どうしようもないガキだ。
私がハンガーにかけてあった洋平の学ランを着ていると、タイミングよくスーパーの袋を手に持った洋平が帰ってきた。そういや○×スーパー特売日だったな。部屋の電気をつけた洋平の学ランを羽織る私への第一声は「そんなに寂しかったの?」だ。ばかにしてる!ばかにされてる!
「ちっがいますぅー!」
私がいそいそと学ランを脱ぐと、台所に買った物を置きながら洋平は笑った。
「別に着てたっていいよ」
「やだよ。どっかの誰かさんが自惚れるから」
「ははは」
私は再びハンガーにかけた。やっぱ、洋平が小さいっつっても男ものだったから、ぶかぶかだった。
なんか学ランって1回は着てみたかったんだよね。
「他人の、そーいうの着るとさ、すっげー匂いしない?その人の」
洋平は持っていた鍵をTVの横の机に置きながら言った。
「そうだね、洋平の煙草臭かった」
私がそう答えると、そろそろクリーニング出さねーとな、なんて洋平は笑った。
「それってさー」
そして冷蔵庫を開けながら、
「抱きしめられてるみたいだよね」
なんて言った。
「・・・・・・」
何を言い出すんだこいつ。
洋平と目が合った。逸らすと、やつは冷蔵庫から何かを取り出して閉めた。
TVガイドを開く。今日は、いいのやってるといいんだけどな、なんて思いながら。
「零、今日カレーでいい?」
戸棚から鍋を取り出しながら、やつは私にそう言った。うん、と私が言うと、なぜか笑われた。
別に、寂しくなかったってば。