あなたが抱えてる明日は辛くはないのか
僕にもがいてる文字に
ひとつ線を引かせて

あなたが抱えてる今日は救えやしないのか
それでもその肩に
イチミリでも、優しさを乗せたなら

また愛を、感じられるだろうか……?





私は和光中出身。現、湘北高校一年生。
JK、ピッチピチの。華の女子高生というわけ。

中学に入ってから出会った赤頭のリーゼントの花道と、同じくリーゼントを決め込んでいる洋平とは、特に仲が良かった。

高校進学時、どこの高校に入ろうかと同級生が騒いでいたあの時期、私は当たり前に洋平たちと同じ高校を志望した。

担任、親、友達らが「入りたい高校は?」「極めたい学科は?」「一緒の高校に行こう」と、めくるめく議論は特に、繰り返したからといって何の意味も明瞭さも付け加えないような同じ言葉の繰り返しだった。

「名前ならもっといいとこ入れんだろ」
「高校まで俺らについてくることはねーぜ?」

そう言って私を突き放した花道含む、桜木軍団。

「桜木たちと同じ高校なんて行かない方がいい」

言って、涙をこぼした親友もどきたち。

そのとき、かすかに胸を締め付けてた感情と、こぼした涙、つられた涙の消費期限はいつまでだったのか。

私にある未来、好きな人たち≠ニ笑いあえてる未来。
あと数日後の未来だったのなら……。

いや、どんな未来だったとしても、
私は湘北≠選んでいたと思う。


そう、

わたしは、洋平がずっと

好きだった——。





「どうすんの、コレ。」

私はひび割れた洋平の携帯電話をつまみあげると、そのまま「ホイ」と言って洋平に返した。

受け取った洋平が眉を下げて「不本意不本意」と私の横で情けなく笑っている。

謹慎中の洋平の顔には、多少殴られた痕。
体育館で暴力事件を起こして、派手に暴れてきたとのこと。

全くもう、入学早々本当よくやるなと思いながらも、こういうのには慣れていたので私は溜め息しか出なかった。

ほんとうに花道が好きだよね。
いくらバスケ部、花道のためだとしてもさ。

「その鉄男って人、強いの?」
「あー、アイツは相当だろうね。アイツだけな」
「ふうん、他は?」
「見せかけじゃね?わかんねーけど。まあ、そいつは高校生かどーかも怪しい風貌だったけどな」
「老けてんの?」
「老けてる」

洋平の部屋に勝手に入って、呑気に寛ぐ私は別に洋平の彼女ではない。よく誤解されるけど。勝手に、私が好きってだけだけど。私としては中学から仲いいと思ってるけど、はたして洋平自身はどうなんだろうな。深く考えたこともないや。まあ、考えないようにしてるだけだけど。

「洋平、自分より大きい人に飛び掛かっていくもんね」
「……あっ!」
「なに?」
「そういや、飛び蹴りすっげーセンパイみっけちゃってさ」
「へえ」
「身長低いのに、すっげー飛ぶ」

洋平の親は仕事でいつも遅くて、そして私の両親も共働きで帰宅時間が極端に疎らだから、こうやって暇潰しに彼の家に来ては居座っている。

でも洋平は追い返したりしない。
ごはんだって作ってくれるし、どう思って接してんのか、こいつの場合天地がひっくり返ったってわからない、永遠の謎なんだろうけど、少なくとも嫌われてはいないと思う……ようにしている。

「なあ、」
「ん? なに?」
「俺、彼女できたんだよ」
「………へえ、ふうん。」
「……なに?」
「ううん。……バーカ。」

この会話、洋平と出会ってからは二回目。

一回目は中二のとき。
実際は嘘だったんだけど。

けど、たぶん。

今回のは、
なんとなく……

本当のやつだと思った。


家着に着替え終わった洋平は、よいしょ、とかおやじみたいに口走り、煙草に火をつけながら立ち上がって台所へ向かう。私はその背中に向かって「チャーハン食べたい」と意気揚揚に答えた。

すると洋平の足がぴたっと一瞬止まり、また歩き出す。

「……卵あったかなぁ」

洋平は困ったような顔をして、頭をぽりぽり掻きながら冷凍庫を開く。私はその様子をソファで笑いしながら見ていた。


洋平が突然、なんであんなことを口走ったのかは知らない。知りたくもない。だから、深入りして聞かない。

洋平だって、言ったくせにいつもと変わらない素振りだし。だったら私だっていつもと変わらない素振りで流してやる。

聞かなかったことにしてあげてもいいよ。

けど、きっと
夢にも出てきそうなくらいには、私はずっとその言葉の真意を考え続ける日々が明日から待っているんだろうな……。


洋平を夢中にさせる女の子は
いつだって私以外の子。

いちばん側にいる私には、目もくれない。

そんな事実が痛いほどわかっているから

「好きだよ」

「私と付き合ってよ」

なんて、私には言えない。


けれど、最近思う。
これは恋≠ネのかだろうかって……。

過去に私が望んだ結果だ。
だから泣く権利なんてない。

それなのに、泣いてしまいそうで、気持ちを打ち明けてしまいそうで、洋平の目を真っ直ぐに見れなくなって数年。

好きの気持ちが肥大して、
いまでは恋なんだか、愛なんだか

ほんとうは、なんにもない
真っ白か、もしくは真っ黒なのか、よくわからない。


『 俺、
  彼女できたんだよ 』


思った以上に、傷は深い。

リンク文字