数日後。花道が湘北に宮城サンたちとバスケをしに行くってことで俺たちも顔を出すことにした。前日、彼女が部屋に来たときにその話をしたら『着いて行く!』って即答だった。
そんなに花道に興味があるのか、はたまた俺の知り合いだから知りたいのか、どちらなのかはよく分からない。
チュウ、高宮、大楠と体育館に着いた頃には彼女は俺の中に入っていて道中、エトセトラの会話に彼女の笑い声も終始聞こえて来て、なんだか嬉しかった。
「なんか騒がしくねーか?」
大楠の言葉に体育館の入り口付近に部員だろうか、人だかりが見えた。
「なあ、あそこに人が倒れてるぜ?」
高宮の言葉に俺たちも駆け足になった。駆け寄って側にいた花道に声を掛ける。
「花道! どーした?」
「よーへー! いや……晴子さんのお友達が急にぶっ倒れてよ」
うずくまる彼女に、声を掛ける晴子ちゃん。すぐにハッとして俺は伝えた。
「晴子ちゃん、貧血じゃねーかな」
「ああ……そうかも知れないわね」
「治るのか?」
晴子ちゃんにつづいて、花道が俺に問いかけたところで「ああ、軽度なら安静にしてたら時期によくなるよ」と言った俺の言葉に少々、場の空気が和んだ気がした。
「……大丈夫、よくなってきた」
「名前!!」
えっ……名前!?
晴子ちゃんが彼女の名を呼び俺の中にいた彼女も、俺と同様にビクッとしたのが、感覚で伝わってきた。
「油断しちゃった、よくなるんだー貧血」
そう言った彼女に晴子ちゃんが安堵の表情になったところで「おい、よーへー」と、花道が俺を呼んだ。
「なに?」
「自販機で、なんか買って来てやれよ」
「あ……ああ、そうだな」
「歩ける?」と、彼女に声を掛けると「大丈夫」と返して来たので体を気にしながら一緒に校内の自販機へと向かった。ほどなくして背後からバスケ部の声が聞こえたので無事に練習が再開したのだとほっと胸を撫でおろす。
「よくなるんだ?貧血」
「え、あ、まあ……たまに」
「俺と同い年かな?」
「え?」
「ほら、晴子ちゃんの友達って言ってたから」
「ああ、そうですね。名字名前です」
「自己紹介、遅れました」と、彼女は頭をぺこりと下げた。
「俺、水戸洋平。敬語じゃなくていいよ」
よろしくね、と返すとふわりと笑った彼女になにか��こっち側�≠ノいる彼女と、似た雰囲気を感じた気がした。
そのあとは名前ちゃんの体調も回復してバスケ部をみんなで見学して、適当に飯を食いに行って解散となった。その帰り際で声を掛けられる。
「洋平くん!」
「……ん? ああ、名前ちゃん」
「今日は、本当にありがとう……その、良かったら、今度二人でゆっくり、食事でも……」
と、電話番号を渡された。遠く、エトセトラのガヤ声はほぼスルーして。
「ありがとう、とりあえずゆっくり休みな。」
そう言い返した俺に花道までもが「よーへーに春が来たな!」なんて大声で言うから「もう夏だろ」って言い返してやった。
そうして��こっち側�≠フ彼女はと言うと……部屋に戻った途端に俺の中から出てきて、不機嫌そうに頬をやや膨らませて窓に腰を掛けている。
『あの子、可愛い子だったね』
「んー? あー、ははっ」
『……なによ?』
「んー? 嫉妬したの?」
『べ、べつに!』
そう言ってまた窓から勢いよく飛んでった。ほんと騒がしいやつだな、なんて思って、また頬が緩んだ。窓をあけたままテレビを眺めていると先ほど勢いよく飛び出して行ったはずの彼女が戻って来た。
窓際に気配を感じて、テレビに視線をあずけたままその気配に笑っていると……
『ここに、いてやってもいいけど!?』
なんて声が聞こえたので「いてください」って窓を閉めに立ち上がるとむすっとした顔の彼女が窓に腰をかけていた。でも、戻ってくる気はしていたけれど、あえてそこは言ってやらない。
『連絡するの? 彼女に? ご飯いく?』
「ねー、どうしようね」
そう言って窓を閉め終わった俺は、彼女の顔を覗き込んだ。意外にもいつも強気な彼女は少々寂しそうな顔でつぶやく。
『いいよ、連絡しても』
「……やめとくよ、とりあえずは」
『えっ? どうして?』
ようやく顔をあげてくれた彼女に俺は目を細めて、そっと囁きかける。
「今、名前との時間が大切だから。」
『——ば、ばっ、ばっかじゃないのっ!』
……出た、出た、お決まりのこの流れ。
「いまさら、いちいち照れんなよー」
『てっ、照れてないけどっ!?』
そんな彼女が何故か微笑ましくなってこっち来る?ってソファを指さして俺は腰を掛けた。ほどなくして彼女もふわりと隣に来た気配がした。その後は花道のこととか、晴子ちゃんが流川って奴にホの字だとか、去年の桜はどうだとか冬はどうしてんだとか。いつも通りの、何気ない会話が続いた。そんな中ふと彼女に先ほどの名前ちゃんの話を再度持ちかけてみた。
「けどさ、ご飯くらいは行こうかなって思ってるよ」
『えっ……」
「ん? どうした?」
『べ、べつに……』
「悪い子じゃないよ?きっと」
『そうだね……』
たしかに気にはなった。それは、晴子ちゃんの友達だからとか、可愛いからとか不順な理由ではなくて、名前に——どこか、似ていたから。
気になった。俺は彼女のことを……知りたいのかもしれない。
「なんだよ、今日はおとなしいな」
『そ、そんなんじゃ……ないけど』
そうしてほどなくして彼女は窓から帰って行った。