新人は見た
「ペ、しゃ、ぺ、シャッペンさん!!」
「混ざってる混ざってる」
そう広くはない船内を走って走って、ようやく見つけた先輩クルーの姿におれはすがるように声を上げた。明るい二色の派手なキャスケット帽と、「PENGUIN」と書かれたケーバ帽が印象的な二人は、息を切らすおれにどうしたどうしたと寄ってくれる。
「お、おれ見ちゃいました……」
「見た? 何をだ?」
「おれの部屋にあるパンドラボックス?」
「エッなんですかそれ!」
「まあそんなの無いけど」
「んもおおおお!」
ケラケラと笑うシャチさんに思わず頭を抱えた。入団祝いに貰った帽子に指が沈む。彼らは本当に陽気で気の良い人たちだが、こうして度々からかわれるのはどうにかならないものか。
「それで、何を見たんだ」
「そっそれが……と、トラファルガー船長を……」
「船長を?」
「かるたさんが……」
「かるたが?」
おうむ返しする二人を前に、言葉を切って深呼吸。その瞬間また先程の光景がフラッシュバックし、熱のこもる頬をどうにもできないままおれは言い放った。
「だっ抱き締めてました!」
──沈黙。そして静寂。
おれの声の余韻が空気に馴染んで消えた頃に、シャチさんとペンギンさんは互いに隠れた目を合わせた。そして、
「だっはっはっはっは!!」
「ぶはははは! お前ウッブいなぁ〜!!」
同時に爆発したように笑い出したのだ。しまいにはシャチさんに背中をバシバシと叩かれる始末。痛い痛いちょ、痛いです。っていうか何事?
「慣れろ。あれァわりと日常茶飯事だ」
「は!?」
「かるたは船長のこと大好きだからなぁ。あ、もちろんおれだって船長大好きだけどな」
当たり前のように言ってのけるシャチさんに、思わずぎょっとした。よくもまあ、シラフで好きだのなんだのと言えたものだ。しかも、かるたさんの行動が日常茶飯事って、ええ、まじかよ。──薄々思ってはいたが、この船の人たちはとても、わかりやすく他人に愛情を伝えようとする。何が彼らにそうさせているんだろうか? もちろん悪いことじゃないが、今までそんな文化に触れてなかったおれにとっては軽くカルチャーショックだ。こっ恥ずかしくてやってられねェ。
「あの二人は身内しかいない場所だとよく『ああ』なんだよ」
「そ、そうなんですか……おれ、トラファルガー船長は特定の女性に肩入れはしない人だと思ってました」
「いや、まー、それは間違ってねェかもな」
「え? でも」
「ま、あの二人は特殊だってことだよ。頭可笑しーだろ」
「お、おか……」
ニヤニヤと笑うシャチさんの明け透けすぎる物言いに、同意できるはずもなく口ごもる。視線を泳がせながら思い出すのは、至って普段と変わらないクールな様相の船長と、その背にぴったりと抱きついて離れないかるたさんの姿。確かにかるたさんが一方的なように見えたけど、それでも船長がとくに抵抗していないのも確かだ。受け入れているのだと思った。でも、どうやらおれがあの二人の関係に名前をつけようとすると、シャチさんやペンギンさんたちとは別のものになってしまうらしい。
「船長にとってきっとかるたは特別だ。けどおれも、シャチもベポも、他のクルーみんなも特別だ」
「とくべつ……」
「お前もこの船に乗ったからには、覚悟しておけよ」
「覚悟、ですか?」
覚悟とは、何のだろうか。『命を懸けて船長を護る覚悟』、ではない気がした。話の流れが汲めなくて、思わず聞き返せばペンギンさんは薄い唇を持ち上げて笑う。
「あの強くて、クールで、切れ者で、素直じゃなくて、やさしい船長に愛されるだけの、それに見合うクルーになる覚悟さ」
──愛、愛、あい。
よくも、よくもまあ、そんなことを言えるものだ。
彼らの背負う名前がそうだからだろうか。この人らは可笑しい。クマのベポさんは例外としても、殊ペンギンさんとシャチさん、そしてかるたさんの距離感は可笑しいのだ。
可笑しいから、ハートの海賊団なのか。それともハートの海賊団だから、可笑しくなったのか。おれも、この船に乗っている時点で、すでにもう染まり始めているのだろうか。けれどやっぱり、おれには、おれが彼らのようになれるとは到底思えなかったのだ。
*
「船長、あー、可愛い、今日も世界一かっこよくて可愛いですね……」
「いい加減離れろ、鬱陶しい」
「かるたさん、船長、遊んでないでそこどいてもらえませんか? 掃除してんですけど……」
「遊んでねェ」
「あ、ペンギンさん。ペンギンさんからも何か言ってくださいよ」
「んー…………慣れたな、お前」
「え?」
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