船員の見解-b


 ん? 船長にとってのかるた?

 ああ……なんだろうな。おれやシャチやベポはもうえーっと……十二、三年くらい一緒にいるわけだけど、それほど長いこと見てても、ぱっと言葉に表すのが難しいんだよな。
 もちろん船長は、あまり表に出すことはないし分かり辛いが、かるたのことをちゃんと大好きで大事だと思ってるはずだ。でもそれは、かるたを『一人の女として』好いてるわけではない。おれは船長じゃないから、完全に船長の気持ちをはかり知れるわけじゃないけど。それでもあれが異性としての魅力に惹かれてるわけじゃないってのは、わかる。もっと根深い、人間的な部分だ。

 たぶんきっと、船長にとって一番安心できる場所は、悔しいがかるたの隣なのだろう。
 それはかるたの甘ったるくてやさしい、他者を想える性格によるところも大きいんだろうけど、船長にとってのかるたは、きっと片意地張らずにいられて、何でも話せる存在だ。けれど必要以上に聞いてはこない、距離はやたらめったら近くても「見えない距離感」はしっかり保ってくれる。そもそも、かるたはあまり語らない船長のことを、おれたちの中で誰よりも、理解できる奴だ。そして、かるたにとっての船長もたぶん、そういう存在だった。
 あの二人は互いが誰よりも一番の理解者だ。船長が最も、「船長」ではなく「トラファルガー・ロー」として対等にいられるのは、かるたの前だった。

 端から見たかるたは、船長に心酔して、盲信しているようにすら見える。だがかるたは、ちゃんと船長を見ている。いい所も悪い所も含めて、船長を好いている。そういうところを、船長もきっと自覚しているに違いない。
 船長が機嫌悪い時とか、明らかに船長のほうが悪かった時、船長が間違っていると感じた時。かるたは微塵も物怖じせずに物申す。触らぬ神に祟りなし、そんな言葉知らないって顔で、あんなにおっかねぇ時の船長に向き合えるのは本当にすごいと思う。
 かるたはいつも、船長じゃなくて、自分の信じた自分を信じている。パンクハザードでおれたちが船長と別れた時だって、あいつだから。かるただけがあの人の隣に立った。そういうところも、船長が誰より飾らずにいられる所以の一つなのかもしれない。

 そんなかるたに、たぶん船長は、初めて出会った時。今一度沈んだ心を掬い上げられたんだと思う。繋ぎとめられたんだと思う。
 そうは言っても、それが理由で船長がかるたを大事にしてるってわけじゃない。かるたのほうだってそうだ。理由があるから愛を渡すわけじゃないし、受けた愛に理由が必要だなんて道理もない。

 かるたは心の底から船長の幸せを願ってる。大好きなあの人が幸せであることが、自分の幸せでもあり、たまらなく嬉しいのだろう。それは、もちろんおれたちだってそうだけど。
 かるたは例えば、船長に恋人ができたとして、船長が心から好きになって選んだ相手なら迷うことなく祝福しそうな奴だった。でも、船長が拒まない限りは船長との距離感変えなそうだな。それで、実際に船長も拒まなそう。恋人のほうはたまったもんじゃねーよな。だからあの二人は、互い以外と恋人同士になることは一生できなさそうだ。それでも、あの二人はそういう関係じゃない。
 人が誰しも、たった一人を選んでその夫や妻になって子を成していくわけじゃない。それが大多数だとしても、決して唯一の正解というわけではないし、一番の幸せってわけでもない。最高の幸せがどんな形かなんて、人それぞれだ。
 だからきっと、『今』の船長にとっての一番の幸せは、おれたち皆でハートの海賊団として航海をする『今』のこの形なんだろう。おれはそれで良いと思ってるし、なんならおれだって、『今』のこの形が何にも代え難い、何よりもの幸せだ。

 え? じゃあ、この先あの二人は変わっていくのかって? ははっ。そんなのおれどころか、それこそ当人たちすら知ったこっちゃないさ。おれたちが生きてるのはいつかの未来じゃなくて、『今』なんだから。




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