08


20○○年、10月某日。
最高気温16℃、最低気温12℃。
現時刻、AM09時27分42秒。
現在地、私立雷門中学校サッカー部棟ミーティングルーム。

「お……!覚えてない!?」

目を剥いて声を上げた天馬に、天は頭の後ろに手を当てながらテヘ、と笑った。

天が遭難と等しいタイムジャンプから救出されて丸二日。フェイとワンダバによって元の時代に帰って来た天は体調を崩して丸一日寝込んでいた。回復して、救出されるまでどうやって過ごしていたのか聞こうと思えば、当の本人は覚えていないと言った。

「いや〜、キャラバンから放り出されたあたりまでは辛うじて覚えてるんだけどねえ」

言いながらカラカラと笑う天に、サッカー部一同は唖然として彼を見る。空だけは既に聞いていたのか、落ち着き払った様子で腕を組んでいた。

「単身でのタイムジャンプは相当に負荷が掛かっただろうし……その影響もあるかもしれないね」
「うむ、アルノ博士が言うには体に異常はないようだったが……もしおかしなところが少しでもあったら言ってくれ」
「うん、ありがとう」

心配そうな顔をするフェイと、腕を組んで唸るワンダバに、天は微笑んでお礼を言う。見た限りではしっかり回復しているようで、天馬は安堵の息を吐いた。

「でも、覚えてないのはある意味よかったかもね。下手に未来を知ったって、本当にその未来になるかはわからないし」
「あ、僕未来にいたんだ?」

まるで他人事のように話す天に、サッカー部の数名は呆れたようにため息をついた。天は眉を下げて笑う。

「いやあ、なんだか騒がせたみたいでごめんね」
「ううん、無事でよかったよ!」

天の言葉に、天馬は慌てて首を振る。天は空の方を振り返って、眉を下げた。

「空も、心配かけてごめんね」

空は伏せていた目を天に向けて、いつものように淡々とした、けれどはっきりとした口調で言う。

「私は君が無事ならそれでいい」

短い言葉の中に込められたふんだんの愛情は天馬達にも理解できて、信助や神童は思わず笑みをこぼす。しかし空がワンダバに向かって「キャラバンの整備はちゃんとしておくように」と鬼のような殺気を放って言ったことからその笑みは引っ込んだ。ワンダバは青い顔を更に青くして頷いている。

「ご無事でなによりですな。五月雨氏」
「鬼城さん」

剣城の隣に立っていた日和の方を、天は振り返る。日和は携帯を取り出すと、「ところでタイミング悪くセンパイから五月雨氏と連絡がつかないという話をされてまして」と言い出した。携帯を弄る白い指先を見て、何も飾りがないことを確かめると、天はほっとしたように肩の力を抜いた。抜いてから、その行為に疑問が浮かぶ。

(ん?なんで今ほっとしたんだろう)

眉を寄せて首を傾げ、考え込む前に日和に名前を呼ばれ、その思考も遠くに追いやられた。

「天、早々に南沢さんと連絡を取っておけよ」
「え、なんで」

眉を顰めた剣城がそんなことを言い出すから、天はクエスチョンマークを浮かべた。剣城は苦々しい顔で言う。

「お前に連絡がつかないことを不審に思った南沢さんが日和に電話してきて、こいつは『電波の調子が悪くて何も聞こえない』と下手な演技をして通話をぶちぎったからな」
「いやあ名演技だと思ったんですけど、その後間髪入れずに着信きちゃって〜まあ全部シカトぶっこいてるんですけども」

変わらない表情で頭の後ろに手を当てて笑い声を上げる日和の姿に、剣城は呆れたようにため息を溢し、天も自身の携帯の着信履歴を確認すると確かに南沢から数件掛かってきていた。おまけにメールも届いている。

天はめんどくさそうに顔を歪め、「ちょっと電話入れてくる……」とこれまためんどくさそうな声でミーティングルームを出て行った。

部屋を出てすぐの壁に寄り掛かり、履歴から着信を掛ける。
呼び出し音が鳴っている間、天は自分が行っていたという未来のことを考えた。覚えていないから、夢を見ていたような感覚だ。けれど悪いものではなかったような、そんな気がする。

それでも自分にはどうしようもない未来のことを考えるのが馬鹿らしくて、天はすぐにその思考を打ち切った。同時に呼び出し音も切れて、代わりに何だか酷く懐かしく感じる声が自分の名前を呼ぶものだから。天は自然と笑みが零れた。


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