論争

「納得できません……!!」
「ま……まァまァ落ち着いて」

 わなわなと震える羽月を宥める山崎。
 屯所内で稀に見かけるそれは、大概が沖田の羽月に対するからかいが発端だった。今回もまた何かしたのだろうか、本当に飽きないな沖田隊長は。好きな子に対してついイジワルしちゃう小学生男子か? そう思えば可愛い気もしなくもないが、昨今コンプラだなんだ言われている時代と考えると、そろそろあの悪童の様々なやらかしはどうにかしていかないと真選組の評判にも関わるだろう。
 そんなことを考えつつ、廊下をやり過ごそうとしていた原田だったが、続く会話に思わず足を止めた。

「人の生まれ持ったものをよってたかって笑い者にするだなんて残酷です! そんな人たちとは縁を切るべきです!」
「うんうん、確かにそうだね。でもそのあとちゃんと信頼する人からフォローが入ったし……」
「でも、人が気にするコンプレックスに対して、その有用性を伝えるのは果たして得策でしょうか? それは果たして本当にフォローと言えるのでしょうか? 最善は『そんなことは気にする必要ない』と伝えてあげて、それとは別に笑ってきた人たちを咎めるのが上長の役割ではないのですか!?」
「た、確かにそう言われるとぐうの音も出ないんだけど……」

 何やら雲行きの怪しい話をしている。そして、どうやら羽月は当事者ではない口ぶりだった。隊内のどこかで嫌がらせでも起きているのだろうか? 程度によっては副長の土方にも伝えるべき案件か。しかし真面目な羽月が、男同士の軽口を真剣に捉えすぎている可能性も高いだろう。原田は彼らに見えないように廊下の角に隠れ、二人の会話の続きを窺った。

「これではまるで『蛍光灯切れたな。代わりに原田呼んでくるか』と前におっしゃっていた沖田さんです!」

 そして、原田は羽月が今朝ピカピカに磨き上げた廊下にずっこけた。俺の居ないところでいつの間にそんなキレキレの毒舌かましてんだ沖田隊長は。というか、あの純真無垢な羽月ちゃんがこの高度な辛辣ぶりに気づくのもそれはそれで泣けるんだが? 原田はさめざめと己の禿げ頭を掻いた。いやそもそもこれハゲじゃねーから。スキンヘッドだから。

「そもそも、いつも笑い者にされていたのであれば、上長としてはすぐに気づくべきです。それなのに彼がたくさん悲しんだ後にようやっとフォローを入れるだなんて、遅すぎるのではないでしょうか……!?」
「オウ、甘ちゃんの考え方すぎて反吐が出るぜィ」
「なっ……沖田さん!?」

 対岸から参戦したのは、冒頭心の中で濡れ衣を着せた沖田だった。いつもの飄々とした顔を引っ提げて、彼は羽月と山崎の間に割り入る。

「いじめられっ子を慰めていじめっ子を咎めて、それでハイわかりましたって奴らが改心すると思うか? ここで重要なのは相手にナメられねェようにすることでィ。つまり上司直々に成果を認める、その構図がからかいの抑止力になるんだろーが」
「……! たっ、確かにそれも一理あるとは思いますが……! でも、酷いことを言った人たちはお咎めなしですか? 悪意を持って人様を笑い者にしたんです。しかも、大勢が一人で。そこを触れないままにしてはいけないと思うんです」
「余計な刺激は物事の悪化に繋がるんでィ。テメーみてェな脳天気なお子ちゃま田舎モンには分からねェかもしれねェが」
「わ、分かります。馬鹿にしないでくださいな」
「分かってねェから言ってんだろうがクソガキ」
「クソガキではありません、ガキです。大体貴方こそ、また今もこうやって私をわざわざ刺激しにいらっしゃって、一体なんのおつもりですか? 自分の言動を省みてからものをおっしゃってくださいな」
「ま、まァまァ落ち着いて……!!」
「馬鹿が馬鹿丸だし論でオッさん困らせてるから見兼ねて出てきてやったんだろうが」
「オッさん!? 俺のこと!? いや確かに羽月ちゃんのダブルスコア弱くらいではあるけども!!」
「馬鹿馬鹿言わないでくださいな、私は私の思う正しさを大切にしているんです。じゃないと、これでは、これでは…………──赤鼻のトナカイさんが可哀想ではないですか!!」

 原田は再度ずっこけた。