大晦日01

「土方さん隣いいですか?」
「あァ」

 縁側に座り込む土方の隣に、朋子は腰を下ろした。冷えた床板から体温が奪われていく感覚に、思わず身震いする。

「う〜さっむ! 土方さんようずっとこんな所にいましたね〜これ凍え死ぬでしょ。あ、酒飲んでりゃあったまるか!」

 アッハッハ! と声高に笑う。土方は我関せずと言わんばかりに、紫煙を燻らせながら夜空を見上げていた。厚い雲に覆われて星どころか月も見えないというのに、一体何がそんなに面白いのか。いや、恐らく特に空を見ているわけではないのだろう。煙草を味わいながら、なんとなく視線を飛ばしている。そんなところか。

「いや〜今年ももう終わりますなァ」
「あァ」
「……土方さん聞いてます?」
「あァ」

 いくら話し掛けても生返事な土方。その返答すら大分小さく、後ろで忘年会もとい飲み会を繰り広げている隊士たちの声で危うく掻き消されそうになっている。酔いが回っているのかもしれない。この人はそう酒に強くない。

「にしても酒と煙草のタッグなんて本当に考えれば考えるほど体に悪そうですよね。土方さんアンタ死にますよ?」
「俺ァ今日は飲んでねェよ」
「え、じゃあ顔赤いのは普通に冷えたからと? 馬鹿なの?」
「アホに言われたかねえなァ。おめーこそアイツらと飲んでなくていいのか」
「え〜? 土方さんがぼっちで寂しそうだから朋子ちゃんが来てあげたんじゃないですか!」
「余計なお世話だ」

 うりうりと脇腹を小突くと、脳天に拳が落ちてきた。いつものことながら、容赦がない。

「いってー……土方さん、お詫びに一本」
「あァ? お前さっき自分で言ったこと忘れたのか」
「ふふふ、あたしも今日は飲んでないんですよ〜何でだと思います?」
「しるか。……おらよ」
「うぃーす。あと火ィくだせえ」
「……チッ」

 箱から遠慮なく一本取り出した朋子は、続けて火を催促する。だが土方はライターを取り出すのも億劫だったのか、くわえた煙草を指で支えながら顔をこちらに向けてきた。その意図を理解した朋子は、当たり前のように自分の口元へと煙草を持っていき、同様に彼に顔を近付ける。二つの煙草の先端が触れ合った。

「ん……」
「……」
「んー、ども」
「あァ」

 詰めた距離はそのまま。吐き出した煙が夜空に溶けていく。
 これだけ見れば随分幻想的でそれっぽい光景だなあと感じつつ、背後には野郎共のどんちゃん騒ぎがあることにくつくつと笑いが込み上げてきた。本当に、自分たちは品の無い連中だ。

「土方さァん、来年こそ煙草控えないと本っ当早死にしますよ」
「俺は太く短く生きるからいンだよ」
「煙草で死ぬなんて武士の名が廃りましょーよ。ていうか副流煙舐めないでください近藤さんとかあたしとかはともかく総悟や羽月ちゃんの肺が黒ずんでいったらどう責任とるおつもりで?」
「テメーにゃ言われたかねェな」
「あたしは今みたいにごくたまーに嗜んでるだけなんで。煙草なんて吸ってっと民間人からの印象も悪いですからなァ」

 とくに子どもに指差された時ほど、居心地の悪いものはない。子どもたちとはやはり、笑顔同士で戯れていたいものだ。隣の男には一生無理な話だろうけど。

「……まー反省点も多々あるけど、今年もお疲れ様ってとこですね。いやーなんだかんだ楽しかったな〜」
「……それなりにな」
「今年ももう終わりますなァ」
「それさっきも言ったろ」
「あ、ちゃんと聞いてたんですね」

 再びケタケタと笑う。土方は依然として仏頂面だが、いつもの事なのでさして気にならなかった。

「……来年も」
「あ?」

 日付が変わるまで、あと一時間もないだろう。朋子は土方に視線を向ける。土方も、それに答えた。

「来年も、頼りにしてますよ」

 にやりと口角をつり上げる朋子。土方は少し間を置いたあと、再び正面に向き直し肺に溜まった空気を吐き出す。目を伏せたその横顔は、笑っているように見えた。

「互いにな」