大晦日02
「ぐー……」
「オイこら……起きろ間抜け面」
沖田は珍しく、困り果てていた。
毎年恒例の真選組忘年会。もといただの宴会。料理担当だった羽月は、隊士たちに誘われいつの間にかその輪に溶け込んでいた。勿論、面白半分で酒を与えるものなどはいなかったが。例の歓迎会で全員が学んだことだった。
その羽月が、今自分の膝に頭を預け眠っている。どうしたものか。
本来ならそんなもの、振り落としていただろう。だがずっと自分たちの宴会の為の料理を作り運びを繰り返していた羽月だ。そんなことをすれば他の隊士たちが黙ってはいない。
「だァーからお子様は部屋戻ってさっさと寝ろっつったんでィ……」
「たいちょぉ〜、絶対羽月ちゃん起こしちゃ駄目っすからねェ!? こうやってぱったり倒れる寸前まで料理と酒用意してくれてたんすから! 俺らの為に!」
「……チッ」
自分も大分酔いが回っているのだろう。この自分が周囲の隊士たちに言われるがまま、働かない頭で羽月の枕代わりに徹しているのだから。だが理由はそれだけではない。以前寝起きの彼女に出会ったことがあるが、起き抜けに拳が飛んできた。そう、この女、異常なほどに寝起きが悪いのだ。
「すー……すぴー…」
「ざけんじゃねェぞまな板が……」
悪態をつこうとぐっすり眠っている本人には届かない。非常に癪だった。それに、動きたくても動けないし、そもそもさっき遠くのからあげを取りに行こうとしたら砕かれんばかりの力で膝を掴まれた。下手に身じろぎすらできない。
苛立ちを募らせた沖田は、腹いせに羽月の頬を無遠慮に突いたり引っ張ったりする。肌が白いことも相まって、餅か何かのようだ。
「んー……肉……」
「ほんっと色気の欠片もないねィ」
寝言ですら食べ物、しかも肉のことか。大人しく眠っている時すら女らしさを感じない。……見た目以外は。
馬鹿で大食らいな羽月だが、整った愛らしい容姿だけは女性らしかった。興味本位で自分の膝に広がる髪の毛を掬うと、思っていた以上になめらかで艶のある髪質だった。常時反発し合っていて、女性扱いなどついぞしたことがなかったが、彼女も女性であるのだと嫌でも認識させられる。
「んん……」
沖田に弄られている髪が気になるのかくすぐったいのか、羽月は寝ながら眉間にしわを寄せている。沖田は彼女の表情を気にせず、不器用な手付きで細い三つ編みを作り始めた。単なる暇つぶしだが、サラサラの髪を弄るのは存外楽しかった。
洒落た髪型にしてやるつもりはない。適当に取った毛束を次々三つ編みにして行く作業を繰り返していると、いつの間にか羽月の頭の一部分はドレッドヘア状態になっていた。勿論、梳いてやる気もない。
いつもこれくらい大人しければ、少しは可愛げがあるというのに。自分が何をしても抵抗してこない羽月に、沖田は真顔でため息をついた。とはいえ、自分が彼女を気に食わない理由など他にもたくさんあるので、この関係性は変わらないだろうけれど。
「(……眠くなってきた)」
ずっと目の前に気持ち良さそうな寝顔があったせいだろうか。眠気が移ったのかもしれない。くあ、と欠伸を噛み殺した沖田は、周りの声が少しずつ小さくなっていくのを感じた。雑に羽月の髪を弄びながら、うつらうつらと舟を漕ぎ始めれば、もうどうしようもない。
「(……あー……やべ…)」
「……あ、局長。見て下さいよあれ」
「おー! どうしたザキ……おお!」
「珍しいこともあるもんですねェ」
「そォだなァ!! いやー微笑ましいな!ガッハッハ!!」