恋よりポテチ(学パロ)

※2015年フリリク小説再掲



 事の発端は、真琴の一言だった。

「朋子と羽月ちゃんはさ、気になる人とかいないの?」
「気になる方、ですか?」

 ソワソワとした素振りを見せながら机に身を乗り出した真琴に、イチゴのポッキーをくわえていた羽月が首を傾げる。真琴は笑みを深め、一つ頷いた。一方朋子は、「ウホォ!」とニヤつきながら椅子から立ち上がる。騒音と奇声が、人気のない放課後の教室に響いた。

「これはいわゆる恋バナという奴ではないかァ! 完全に無縁だと思ってたぜ! でもどしたの急に?」
「今さ、雪ちゃんいないじゃん? どうしてると思う……?」
「はっ……! まさかこれは呼び出しパティーンですか!?」
「そう!!」

 キャーッと黄色い声をあげはしゃぎ出す二人。そんな二人を見て、羽月は最後の一本をポリポリ咀嚼しながら疑問符を浮かべた。はて、呼び出しとは一体誰が、何の目的で?

「あ! そういえば、羽月ちゃんも先週B組の田中氏に呼び出されてましたな!?」
「はい? …………………………あ! はい」
「忘れてたよね、完全に興味皆無で頭から抜け落ちてたよね」
「大丈夫!? 好きだって言われて『私も好きですよ〜』とか誤解炸裂なベタな返事はしてないよね!?」
「ええ? フフ、まさか。味噌汁を作ってくれないかと頼まれたので、すみませんが調理実習は先週で終わってしまいました、とお伝えしました」
「予想の斜め上爆走!!」
「っていうか田中くんすごいな! 何その台詞チョイス!?」

 ポテトチップスコンソメ味Lサイズを開封しながらさらりと話す羽月。真琴は思わず、顔も知らない田中に同情の念を抱いた。
 パリパリとポテチを頬張る羽月は、その姿でさえ絵になりそうなほど整った容姿を持っている。だというのに、食欲旺盛で何よりの関心を食べ物に向けており、色気より食い気を見事に体現しているのだ。加えてこの「ズレ」と「抜け」。端的に言えば、彼女は少々風変わりなところがあった。
 だがそれでもその可憐な容姿から、羽月が月に数回は異性に想いを告げられていることを真琴は知っていた。サラサラの髪の毛に真っ白な肌。大きくぱっちりとした二重の瞳に、形の良い唇。これでノーメイクな上、特別何かをしているわけでもないと言うのだから、まったくもって羨ましい。

「まあフツメン田中氏は身の程をしるが良いっつー話だけどさ〜、やっぱあれだよね。羽月ちゃんレベルの美少女っぷりならさァ、その気になりゃイケメン彼氏の1人や2人や3に、アッいけませんよ!? 三股なんて朋子ちゃんそんなの許しませんよ!?」
「ちょ、朋子うるさい……」
「そういえば、雪さんはどなたに呼び出されたんですか?」
「え? えーっと……確かA組の……佐藤くん?」
「うわ、田中氏といい佐藤氏といい、あンの野郎ども何の変哲もないフツメンのくせして雪ちゃんや羽月ちゃんという美少女に釣り合うと思ってんの〜? 土方さんレベルの神イケメンになってから出直せバーロー」
「いや土方さんレベルは整形を要するでしょ……」
「まあ雪ちゃんなら当たり前のように断るだろうけどさァ〜」
「確かに雪ちゃんだし数秒も目合わせず終わりな気がする……」

 あの面倒くさがりで、以前好みのタイプを聞いたところ「イケメンで爽やかで金持ちな長身男性」と間髪を入れず答えたような彼女のことだ。そもそも呼び出しに応じたこと自体が珍しい。今頃告白を一蹴して、こちらに戻ってきていることだろう。

「……で、結局二人は気になる人いないの?」
「えー? あたしは特にいないなァ! やっぱ二次元レベルのイケメンでイケボな強い人じゃないと!」
「副委員長さんは格好良くないんですか?」
「土方さん? 土方さんは確かに校内イケメンランクは恐らく断トツの1位だろうし〜実際めちゃくちゃモテてるし〜あたしもよく女の子に手紙とか差し入れとか渡すように頼まれてるし〜頭良いし運動もできてクールで長身でってウワ〜やっぱ土方さん最強だわ何このハイスペックさ! 二次元!? 流石我らが風紀副委員長マジパねェ!!」
「(……朋子のこれは単なるミーハーだと思う?)」
「(ミーハーってなんですか?)」
「(……やっぱなんでもない)」

 土方の良さを饒舌に語る朋子の顔は、至極楽しそうだ。その根底には一体なんの感情があるのか、真琴に推し量ることはできない。ただ、おそらく朋子の場合は、同じく幼馴染みである近藤や沖田についても同様に熱弁を振るうのだろうけれど。

「そういう真琴ちゃんはどう? やっぱ高杉?」
「ン!?」
「そういえば、この間真琴さんと高杉さん、一緒に下校されてましたよね。私見ましたよ」
「いやあれは向こうから勝手に……」
「ほらァやっぱ高杉って妙〜に真琴ちゃんには絡んできてるよね! こりゃもう完全にホの字じゃないか! 普段サボりまくってるくせにいざ来たら絶対真琴ちゃんと話してんじゃん!」
「いやあの、」
「あでもあんな厨二ワルに真琴ちゃん取られるとかやっぱねーわ! ナシナシ! 真琴ちゃんあんな不良とは付き合っちゃ駄目だから! お父さんそんなの許しませんよ!」
「なんでお父さんっていうか違うから人の話聞けやァァ!」

 ダンッと力強く机を叩く真琴。見かねた羽月が「どうぞ〜」とポテチの袋をこちらに向けてきたため、一枚頂戴しながら真琴は椅子に座り直した。心なしかその顔色は青い。

「高杉は、ほんと、違うって無理なんだって……あの人めちゃくちゃ怖いし……」
「そうですか? 確かに高杉さんは素行も言葉遣いも悪く態度も粗暴な方ですけど、」
「結構ボロクソ言うね」
「でも、高杉さんは真琴さんには親切だと思います。私でも分かります」

 真琴は言葉を詰まらせた。確かに、高杉に気に入られている自覚はある。鈍感代表の羽月が断言するほどだ。それ自体について悪い気はしないのだが、彼の周囲を考慮するとそう呑気でいられなかった。本人が物騒なら、彼と関わる人間や環境も物騒。そういうことである。どちらにせよ、高杉という人物が真琴の好みから外れている上に苦手であることに違いないのだが。

「……そ、それよりホラ、雪ちゃんと銀八先生ってどう思うよ!」
「雪さんと坂田先生ですか?」
「あ〜あそこ絶対なんかあるよね! 距離感が普通の生徒と先生じゃねェってあれは! はっ……まさか禁断のKOI!? あっポテチちょーだい」
「どうぞ〜」
「やっぱさ〜普通だったら生徒に手出されたり(物理)足出されたり(物理)しないでしょうよォ! 絶対昔からの因縁とかあって、卒業して晴れて先生と生徒の仲じゃなくなったら思いっきりボコられるフラグだって!」
「待って、そんな話に持っていくつもりは微塵もなかった」
「この間もぎんぱっつァんがまた余計な一言言って鳩尾に肘入れられてたしね!」
「微笑ましいですね〜」
「どこをどう見たらそうなるの!? ……はァ、もうちょっと雪ちゃんも素直になればいいのにねえ」
「なァに勝手ほざいてんだ。私はいつだって自分に素直だよ」
「またまたァ〜………………」
「…………」
「…………」
「フォアアアァァァ!??」
「ウオェアアァァァ!!!」
「あ、雪さんおかえりなさい」
「ん。あー羽月それ一枚」
「どうぞ〜」

 知らぬ間に溶け込んでいた雪に、真琴と朋子は思わず絶叫しながらとび跳ねる。唯一扉が見える位置に座っていた羽月は、さして驚きもせずニコニコと雪に言葉を掛けた。

「あ゛ーびっくりした……眼鏡割れるかと思った」
「いやなんで?」
「んで、なァにくだんねェ話してたわけ」
「恋バナだぜ恋バナ!」
「このメンツで? 爆笑モンじゃん」
「そんなに!? いやいやそこそこ恋バナでき……てたって、多分……あ、ほら! そういえばさ、一時期羽月ちゃんと沖田のケンカップル疑惑とか流れ、」

 バリンッ!!!
 ──盛大な破裂音と共に、二袋めのポテチがあえなくすべて床にぶちまけられる。袋を二つに引き裂いた犯人である羽月は、過去気に食わない男との心外な噂が立った屈辱を思い出し、また食べ物をばら撒いてしまったショックも相まってワナワナ震え上がり──彼女らしくもなく絶叫した。

「ギャアアァァすみませんやってしまいました!!」
「あ゛あ゛あ゛ボデヂィィ!!」
「落ち着けオメーら、ここは一時間以内に清掃されたばかりだ。三十秒ルールが適用される」
「おっしゃ拾おう! 余すことなく! 勿体ない!」
「たりめーだ勿体ない」
「食べ物を粗末にするわけにはいけませんからね! すみません御手数お掛けします!」
「口動かす暇ありゃ拾え」
「ラジャー隊長!」
「了解です!」

 床に錯乱した大量のポテチを淀みない動きで回収していく三人に、真琴はポツリと呟く。

「……駄目だこりゃ」