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「げっサド……」
「沖田さん! 良かった、無事だったんですね!」
「オイオイ……なんでお前らがこんなところにいるんでィ」

 共に捕らえられていた男──奇しくも甘味処うぐいすで話を聞いていた、行方不明の遊吉という男であった──と共同して、牢からの脱出に成功した沖田。彼は遊吉の手引きにより、捕縛者の武器が仕舞われた武器庫に案内されると、取り上げられていた己の得物も無事に見つけ出すことができた。その間一切の敵に鉢合わせなかったことが奇妙ではあったが、それよりも羽月を捜し出すことが先決だと踵を返したところで、万事屋の新八と神楽に鉢合わせしたのだった。

「沖田くんの友達?」
「薄気味悪ィ勘違いしてんじゃねェや」
「反吐が出るネ。カーーーッペッッッ」
「そんなに?」
「私たちたっちゃんのトモダチに依頼されて来たアル」
「たっちゃん? ……あー、なるほどねィ。で、万事屋の旦那はどうしたィ」
「雪さんと別行動してます」
「あの人も来てんのかよ」

 妙に大所帯になっちまったねィ……そんなことを呟いて、沖田は傍らの遊吉の背中を押しやった。

「お前ら、代わりにこっちの天パ連れていけ」
「はァ? 嫌アルいらないヨ」
「こいつ眼鏡無くしてこの世の全てにモザイク掛かってるらしいんでィ。俺ァやることがあるから、足手纏い背負ってらんねェ」
「あの〜さっきからちょいちょい酷くないかな?」
「世界中に規制掛かってるアルか、やるアルなオッさん」
「オッさん!? えっ僕もうオッさん!? えっまだギリギリ三十路手前なんだけど!?」
「っていうか新八はこんなだけど、一応連載中ずっと眼鏡枠として体張ってたネ。もう眼鏡キャラはいらないアルヨ」
「連載とか言わないでくれない? つーかこんなってなんだよ」
「ウチだって眼鏡キャラは間に合ってらァ」

 己の押し付け合いを繰り広げる沖田と神楽に、遊吉はひっそりとため息を吐きながらそっと懐を確認した。先ほどの武器庫には、彼が捕まる際に奪われた得物も鎮座していた。一つだけ見落とされたことで命拾いしたが、全身に隠していた得物をほとんど根こそぎ取っていったあたり、やはり"彼"は侮れない。

「っていうかそもそも、捕らわれてる人たちがどこにいるかもわからないじゃないですか」
「あ、僕そのたっちゃんって子の居場所、一カ所心当たりあるよ」
「えっ本当ですか!?」
「やるアルなオッさん! サドよりよっぽど優秀ヨ!」
「うん、オッさんは心に刺さるからやめてね。煤賀すすが遊吉ゆきちです。ただ調査の途中で捕まっちゃったから、他にも人を捕らえておける場所はあるかもしれないんだけど……」
「調査って?」
「それは……あ、待って、……ハックション!!」

 ドガァァァァァン!!!

「え?」
「え?」
「え?」
「え?」

 遊吉のくしゃみから間隔をあけない衝撃。遠方からの爆発音。振動。天井からパラパラと砂が降る。すとんと表情の抜け落ちる一同。見合わせられた顔。数秒の間が開いた。

「……何したアルかァァオッさんんんん!!」
「やばいやばい僕くしゃみで世界滅ぼせちゃう系だったのォォ!?」
「いや違うだろォォォ!! やばいですよコレ早く逃げたほうがいいんじゃないですかコレ!?」
「どうやらちんたらしてる暇はねェみてェだな。オイ、お前ら三人でその心当たりとやらに迎え。俺は別の場所を探す」
「えっ? でも沖田さん一人で大丈夫ですか? あの変な傀儡に襲われたりでもしたら……」
「俺を誰だと思ってるんでィ。つーか、むしろ足手纏いがいねェ方が動きやすいんでねィ」
「きみきみあのね(ヒソヒソ)沖田くんは連れの女の子が捕まってるらしくて焦ってるんだ。そんな姿を人に見られたくないのかも(ヒソヒソ)よっぽど大事な子なんだよきっと(ヒソヒソ)」
「オイ何ヒソヒソヒソヒソ法螺吹き込んでんだ聞こえてんだよ腐れ天パ」
「イダァァァァ頭ハゲる頭ハゲる!!」

 沖田に容赦なく髪を鷲掴みにされ絶叫する遊吉。新八は口元を引きつらせながら「わかりました。じゃあそっちは沖田さん一人でお願いします」と告げた。

「っていうか遊吉さん、視力悪いらしいですけど眼鏡なしで案内できるんですか?」
「ちょっと気配だなんだには聡くてね。戦闘は難しいけど、覚えてる道の案内なら問題ないよ」
「そうですか、それじゃあお願いします」
「任せてよ。あ、そうだ沖田くん。もしそっちに僕の仲間も捕まってたらよろしく頼むね」
「オイそれチャイナ」
「あの本当に任せて大丈夫なんですか」







「オイオイオイオイどんだけいんだよ!!」
「キリがねェな」

 新八・神楽と別ルートを進んだ銀時と雪は、入り込んだ部屋にて傀儡の大群に襲われていた。飛び掛かる木偶を躱し、防ぎ、斬り倒していく。個々の強さは大したこともなかったが、生物でないそれらは、完全に破壊して動きを止めるまで何度でも襲い掛かってきた。そのうち二人は互いの後ろを預け合うように背中合わせになり、ぴったり合ったコンビネーションで傀儡と相対していく──

「あ、」
「うおわァァァ!? てめっ俺まで斬り殺す気か!?」
「んだよなんでンなとこにいんだオメー殺されたいの?」
「理不尽んん!!」

 雪の白刃が掠った天然パーマが僅かに散る。その間にも傀儡は迫り、銀時は苛立ちをぶつけるように木刀を振るった。不幸中の幸いというべきか、傀儡の数がさらに増えるといったようなことはなく、少しずつ先が見えてくる。周囲には傀儡の残骸がごろごろと増していった。壊れてしまえばただのガラクタであったが、人型をかたどっているだけあり、さながらその光景は死屍累々と言えた。
 時折どこからか聞こえてくる爆発音に気を取られたが、銀時は心乱すことなく傀儡を破壊し続ける。後ろの雪も同じように、的確に敵を斬り倒していった。室内が次第に静まっていく。
 銀時が次の一体と対峙した。その傀儡は手に獣のような爪を持っており、その手を大きく振るい飛び掛かってくる。銀時はその攻撃を紙一重で交わすと、その腹に木刀を叩き込み──何を思ったか、突然身を引いて距離を取った。

「オイ何してんだ天パ」
「雪待て、斬んな」
「あァ?」
「──おお、おお、なかなかやりよるなァ、おにーさん」

 突如、上から降ってきたのは男の声。独特な訛りを含むそれはいたく楽しげで、この戦地にはあまりにそぐわない。銀時と雪は薄暗い天井を見上げながら構えた。

「オーイ誰だ。コソコソ隠れてねーで出てきやがれコノヤロー」
「いや〜アンタおもろいやっちゃなァ。そかそか、真剣やないから斬り倒す前に重さで気付けたんか」
「オーイ無視か。無視なのかコラ」

 気の抜けたやり取りを繰り広げる銀時と男。雪が怪訝そうに顔を歪めていると、視界の端で何かが動くのが見えた。先ほど銀時が倒し損ねた傀儡だ。それは弾けるように、今度は雪に狙いを定めて攻撃を繰り出す。銀時が反応するよりも早く、雪は取り乱すこともなくそれを正確無比な剣裁きで一刀両断した。──その断面から、勢いよく弾け出した鮮血に、「あ?」と雪の喉からその一文字が転がり出た。
 無生物から、血が噴き出すという荒唐無稽な光景。
 彼女が思わず動けずにいるうちに、残りの傀儡が一斉に飛び掛かる。雪の反応が一歩遅れた。しかしそれらは銀時の木刀によって、一瞬で吹き飛ばされた。雪は銀時に助けられたことに眉をひそめながら、未だ動きの止まらぬ傀儡にとどめを刺す。周囲には未だ複数の傀儡が構えていたが、頭上から突然ぱちぱちと降り注ぐ拍手がまるで合図だったように、ソレらは動きを止めた。

「いやァ、アンタら凄いなァ。ホンマえげつないわァ。いくら精度落ちるタイプとはいえ、この数相手にお二人さんで無双しよるなんてなァ。にしても、試運転にぶっけてみたはエエけどやっぱ失敗やったなァ。ま意表つけるし打撃もおもなるけど、動きおっそいし。そもそもコスト掛かりすぎやわ。中の適当・・なん見繕うのも面倒やし。ま、でも失敗は成功のオカン言うからなァ」

 天井からは、依然聞こえてくる声。聞いてもいないのに紡がれる長広舌は、独り言にしては大き過ぎて、銀時と雪にわざと聞かせているようにも思えた。そしてその言葉は、先ほどの傀儡の正体について二人に確信をもたらした。

「オメーさん、随分胸糞悪ィことしてんな」
「別にエエやろ。俺ァ外道やない、中に入っとるんもそこらのクソザコ攘夷浪士、犯罪者や」
「悪趣味にもほどがあんだろ」
「オッキーくんが可愛く見えら」
「お前がそれ言うの?」

 雪に白けた目を向けた銀時だったが、大儀そうに頭を掻くと再び天井に顔を上げた。周囲は臨戦態勢の傀儡に囲まれているというのに、随分と緊張感がない。

「どうでもいいけどよォ、お前人と話す時は同じ視線に立つのがマナーなんじゃないですか? オラッ降りてこい」
「もちょい部下残っとったらこの場も任せられたんやけどなァ。ホンマ、今日に限ってなんやゾロゾロ来よって最悪やで。人員足りひんがな。までも時代は安地でどっかりしよるボスより、最後までいっちゃん体張るボスの方が人気出るしなァ」
「オイこいつさっきから全然俺の話聞いてねーよなんなんだよ」
「おーいオメーさん、真琴はどこだ? あとたっちゃん」
「んァ? その真琴っちゅうんはしらんけど、あの小僧ならどォせ他の奴らが見つけとるやろ、心配しなさんなって」
「オイなんだよこいつ雪には応答すんのかよ」
「オイ天パ。真琴来てないらしいから私ァ帰るわ」
「この状況で!?」
「たっちゃんはオメーのとこに来た依頼だろ。私が此処にいる意味もうないし」
「いやいやいや何敵の言う事鵜呑みにしてんの!?」
「すべては信ずることから始まります」
「その心は?」
「ぶっちゃけもうダルい」
「ふざけんなァァァ!」

 銀時がシャウトした。彼に近いほうの耳を指で塞ぐ雪は、もはやひとかけらのやる気も感じられない。その時、ガシャンと大きな物音がした。二人は一斉に音の発生源に視線を注ぐ。そこには、周りを囲んでいた傀儡に加えて、いつの間に現れたのか更に別の傀儡たちが増員されていた。

「エ? なんで増えてんの?」
「お、電波ようやく繋がったか」
「電波? 今電波っつった? この土ン中で?」
「こンの傀儡な、多少の距離なら遠隔操作可能やねん。俺も俺ン部下も優秀やからなァ」

 銀時と雪は、鋭くあたりを見渡しながら今一度得物を構えた。彼の言葉を鵜呑みにしていいのであれば、男の部下がここ以外の場所から操作しているのだろう。

「お前よォ、傀儡っつったら上から糸で操るモンなんじゃねーの。それなら糸斬るだけで済むっつーのに、こいつら本体完全に叩き壊すまで止まんねーからタチ悪ィんですけど」
「はァ〜〜〜糸でしか操れん傀儡なんて古い! 古いわァ! 時代は令和やで」
「いや江戸なんですけど」
「もっと簡便で、傀儡術なんて特別なモンなーんもいらん。誰もがおにんぎょさん遊びできる時代になったんや」

 厭な笑いを含んだ声色が、銀時の腹の奥底をざわりと撫でる。──その時、鼓膜に響く大きな爆発音が地面を揺らした。