行く年来る年

【大晦日/緑主】

 ついこないだまでは電飾まみれだった町並みが、クリスマス終わった途端一気に正月カラーに塗り替えられた。年中行事に合わせてコロコロ変わる町並みは、見てるだけで忙しない。どこもアホみたいに混雑してるし、スーパーはやれおせちだ鏡餅だしめ縄だ、安くもねェモン宣伝ごり押し。誰が踊らされるか。正月料理の具材なんか、シーズン外の値段と比べると反吐が出るわ。

『年が変わるってだけで、なんでこんなにやかましくなんのかねェ』

 そう天パがぼやいてたのは去年だったか。奴一人の万事屋は、玄関に正月飾りが買われることもない。どこかうんざりしたような、興味なさげなその様子に、珍しく同感だと思っていたが。

「随分とまァ様変わりしたもんだ」

 天気も良好。久々に布団でも干すかとベランダに出ていれば、向こうからぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩いてくる万事屋の奴らが見えた。家賃もロクに払わん身分で、手元にはそこそこ膨らんだ大江戸スーパーの袋。モコモコと厚着した新八と神楽に挟まれたソイツの姿は、かくもやかましい。三人は門松の飾られたスナックお登勢の前を通り、バタバタと階段を登っていくと、しめ縄の掛けられた玄関に入っていった。



【初日の出/赤主】

「初日の出か?」
「副長さん」

 吐く息で手を温めながら縁側で待機していた私に、声をかけたのは副長さんだった。彼らの勤務体制は詳しくないけれど、寝間着に羽織ものをしているあたり、副長さんはしっかり休まれたのだろう。新年の常套句を告げれば、素っ気なく返事が返ってきた。

「お前の故郷でも、正月文化はあんのか」
「ふふ、江戸には色んな面白い年中行事がありますもんね。でも流石にお正月はありましたよ。毎年おじいさまとおせち料理を作って、飾りも用意して……それで、初日の出を一緒に拝んでいました」
「そうか」

 お盆や年末年始は他の女中さんも休みに入る。交代制の勤務で常にお忙しい隊士の方々を、我が儘に付き合わせるわけにもいかない。だから今年は、初めて一人きりで初日の出を拝むのだと思っていたけれど。どうやら副長さんも見たかったらしい、私の隣に少しだけ距離を空けて立ったまま、空を見上げていた。
 濃紺だった天は次第に明るさを増していき、美しいグラデーションを作る。間もなくして、ようよう顔を出した御天道様が江戸の町を今日も照らし始めた。



【お年玉/青主】

「ん」
「ん?」

 突然手のひらを差し出してきた総悟隊長は、きゅるんと愛らしい丸目でこちらを見つめている。何、この手? しばしきょとんとしていると、彼は表情を変えぬまま再び口を開いた。

「正月に大人が子どもに渡すモンっつったら一つしかねーだろ」
「え? ……アお年玉!? いやいやいや隊長殿あたしよりよっぽど稼いでんじゃん!!」
「それがお子様に向ける態度か死ねコノヤロー」
「そっちも人に金銭ねだる態度じゃないよね!?」

 こんな横暴上司にお年玉ってそれもうお年玉じゃないよね!? 完全に貢ぎ物の類いだよね!?

「んだよ……俺ァせっかく朋子から貰えると思ってずっと楽しみにしてたのに……」
「え……」
「俺ァ……俺ァ……他の誰から貰っても意味ねェ、他の誰よりもお前からのプレゼントが欲しかったんでィ……」
「そ、総悟隊長……」

 しょぼ、と残念そうに視線を落とす総悟は、小動物のようないじらしさと健気さを放つ。そのいたいけな姿に、あたしは──

「いやそれあたしの財布蹂躙したいだけだろーがァァ!!」
「いいからさっさと金寄越せ」
「もはやカツアゲじゃねーか!!」



【初詣準備/黄主】

「真琴、ちょいと」

 お登勢さんに呼ばれて、わたしは自室からそちらの部屋に移動した。彼女は引き出しの開いた箪笥の前で、芥子色の布を手にしている。それを片手でひょいと手渡されて、ようやくそれがマフラーであることに気がついた。

「昔使ってたのが出てきてね。アンタ、こないだマフラー駄目にしちまっただろ」
「え……えっ? くれるんですか? いいの!? やったー!」

 マフラーとお登勢さんに何度も視線を行き来させて、最終的にマフラーに持ってくる。誰かからのお下がりなんていつぶりだろうか。畳まれていたそれを嬉々として開き、早速くるくると首に巻いた。

「へへ、お登勢さんありがとう」
「フン、今日はまた一段と冷え込むらしいからねェ。風邪引くんじゃないよ」
「はァい」
「キャサリン、たま! 準備はできたかイ!」
「バッチリデスヨ、オ登勢サン」
『昨年の御札も回収済みです』
「そんじゃ、そろそろ出掛けるよ」

 ぞろぞろと移動するスナックのメンバーの、最後尾に続く。マフラーは箪笥の匂いと、少しだけお香かなにかの匂いがしたけれど、それもまたなんだか愛おしくて、にやけた顔を隠すために口元をうずめた。あ〜、あったかい。