15
ぱちり。
ハナコが次に目を開けるとそこは一面に白。そして鼻をツンとつくエタノールの臭い。ぼんやりする頭では状況判断をするのにいささか時間を食ったが、どうやらここは医務室のようだ。いつかと似た光景に、ハナコはしゅんと眉を下げる。
「また、ここ…」
「あっ、気がつきましたか?」
「……うぉー、か」
ハナコが小さな声で名を呼ぶと、アレンは困ったように微笑んだ。
「アクマ、は」
「僕が倒しましたよ。…て言っても、貴女がだいぶ弱らせてくれていたおかげですけどね」
「イノセンスは」
「発動させることができました。神ノ道化(クラウン・クラウン)っていうんですよ」
「クラウン・クラウン…。つよそうです」
「ははっ、そうですか?ありがとうございます」
アレンは照れ臭そうに後頭部を掻いた後、再びハナコと向き合った。
「あの時はすみませんでした。僕がイノセンスを発動できなかったせいで…貴女が大怪我を…」
「……」
いきなり自分の前で反省を始めた少年を見て、ハナコはきょとんとする。そして小さく鼻息を吐いた。
「あなたはわるくないですよ、ウォーカー。ケガをしたのはわたしのじつりょく不足です」
「ハナコ…」
「しかしそれもせん無きこと。もしそのようなことでこころを痛めているのなら、どうか気にとめないように」
静かに目を閉じてあのアクマとの戦いを思い出し、反省点を見つけていくハナコ。その時、ふとハナコの体に圧迫感。驚き目を開いて見ればアレンがハナコを抱き締めていた。
「…ウォーカー…?」
「貴女は…エクソシストである前にひとりの女性だ。だからどうか、無理をしないで下さい」
「……ありがとうございます」
そっとアレンの背中に手を回し、ポンポンとあやす様に叩くハナコ。
「今回…」
「?」
「今回僕がイノセンスを復活させれたのはハナコ、貴女のおかげです」
「わたしはなにもできませんでしたが」
「いいえ。あなたの支えがあったからこそ、僕は決心できたんです。僕の生きる道を」
ハナコはそこで腕を緩めてアレンと向き直った。
「ウォーカー、あなたはつよいひとです。だからイノセンスがあなたにこたえた。…ですがどうか、ほんとうのじぶんをお忘れのないよう」
「…はい。本当にありがとうございます」
アレンはほんのりと頬を染めてにこりと微笑む。ハナコも口角をゆるりと上げる。そしてそれを見て目を瞬いたアレン。
「…どうかしましたか、ウォーカー」
「…いえ」
そしてアレンは頬をポリポリと掻きながら続きを口にする。
「ただ、あなたは笑っている方が可愛いなと思って」
「……よけいなおせわです」
口元をきゅっと引き締めてぷいっと顔を逸らすハナコ。それから彼女はいそいそとベッドから降りようとし始めた。それを慌てて止めようとアレンがハナコの肩を押さえる。
「ダメですよ!まだ安静にしてなくちゃ!」
「そうはいきません。このぐらいのケガ、どうってことありませんので」
アレンの制止を無視し、ハナコはとうとうベッドから降りてぷいっと点滴を抜いてしまった。アレンはどうしたものかと思いながらハナコの行動を見守る。
「アレン。バクはどこにいますか?」
「あ、え、バクさんですか?今は多分モニタールームにいると思いますけど…ってハナコ!?あなた本当に出歩いても大丈夫なんですか!?」
「もんだいありません。なれてますので」
「問題大アリだ馬鹿者!」
バコン!小気味のいい音が医務室に響く。見れば医務室に入ってきたバクにハナコが頭を叩かれていた。
「いたいよ、バク。なにをする」
「それはこっちのセリフだ、まったく!また医務室から抜け出す気だっただろう!」
「あたりまえだ。わたしはこれからフォーに会いにいくの。バク、フォーはどこにいる?」
「人の話を聞かんか。ボクがお前のような重症患者を出歩かせると思うか?」
「バクはあたまが堅くていけない」
「お前は常識が欠落し過ぎだ」
「あの、ふたりとも…?」
バクとハナコはおろおろするアレンに気付かない。
「なにを言うか。わたしはつねに常識的にこうどうしている」
「どこがだ!ケガ人は大人しくしているのが普通だろう!」
「しかしフォーの安否をじぶんで確かめたい」
「…後じゃだめなのか」
「だめ。最優先事項だから」
きっぱりと言い放ったハナコを見て、深く深く溜息を吐いたバク。ハナコはふんと鼻を鳴らしてバクを見る。
「…フォーなら……―、」