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ハナコはバクに教えてもらったとおり、今はフォーが眠りについている扉の前まで来ていた。
「…ハナコか…」
「うん」
扉から聞こえた声にハナコは安堵したような、泣き出しそうな顔になった。
「お、おいっ!なんて顔してんだバカハナコッ!腹でも空いてんのか!?」
「……おなかは…ちょっとへってる。でもバカじゃ…ない」
「うっ…わ、悪かったよ。だから泣くな!」
「ないてないっ」
目にいっぱいに涙を溜めたままマユミはぐしゅっと鼻を啜る。どこがだよ!と内心思ったフォーだったが、口には出さなかった。
「フォー…」
「なっ、なんだよっ」
「…いきてる?」
「はぁっ!?当たり前だろ!でなけりゃ今お前と話してんのは誰だと思ってんだ。…まぁ、まだ擬態はできないけどな」
「そっか。でも…よかった」
そう言ってハナコはその場に蹲る。膝に顔を埋めてしまったため、フォーは彼女の表情を伺うことはできなかった。
「おい、どうした。腹でも下したか?」
「…じ、」
「え?」
小声でポツリと声を漏らしたハナコ。フォーはかろうじて聞こえるそれを、聞き逃すまいと意識を集中させる。
「戦闘中にいしきを失うだなんて、まつだいまでの恥」
「…はっ!?」
深刻な空気だったであろうにも関らず、フォーは素っ頓狂な声を上げた。ハナコは続ける。
「こんなに甘ったれているようでは、ローズクロスをかかげれない」
「お前、さっきからどうした?」
「こんな醜態さらしているようでは、おとうさまにも鴉たちにもあわせる顔がない」
「おい、ハナコ…?」
「わたしにまかれてる包帯みたら、きっときっと鴉たちはためいき吐いて、ついでに説教たれて悪態つくんだ」
「………そんなわけが、」
「しょせん、"温室そだちの鴉"だったんだもん。エクソシストになったって、たかがしれてるんだ」
「…人の話を聞けェエエ!!」
どんどんいじけていくハナコに、フォーはついに怒髪天をついた。ハナコは驚く素振りも見せずに扉を見やる。
「ったくよォ。誰が"温室育ちの鴉"だ。あ?」
「わたし」
「誰がお前にそんな事言ったんだよ」
「むかし、教団に行ったときにみみにした」
「…お前みたいな野性の獣もビックリなやつ、温室で育つわけがねェっての」
「…」
「あとな、お前の仲間!」
「?」
フォーはそこで盛大に溜息を吐いてみせた。
「あのどろっどろに甘々で心配性な砂糖菓子も溶けさせるような過保護っぷりのへんちくりんな鴉どもが、心配すれどもお前に悪態なんてつくかよ!」
「……へんちくりん、」
「そうだよ、ついでにお前もへんちくりんだ。こんな事でいじけやがってバカハナコ!泣くほどのことじゃねェだろ!」
「だからバカじゃないもん」
「バカだよバァーカ!第一、あたしはお前に心配されるほどやわじゃねェからな!」
「フォー」
「お前が一々いじけてたんじゃ、こっちの身がもたねェ」
それから暫くお互い無言になる。少しして、くすくすと可愛らしい笑い声が響き始めた。
「…なんだよ」
「ありがとう、フォー」
「おっ、おう…。つ、疲れたから寝る!もう邪魔すんなよ!」
「うん、わかった。おやすみ」
「……おやすみっ」
そしてフォーは意識を沈めていった。ハナコはふふっと笑いながらそこを後にするのだった。