17
ハナコが病室を出て行った後、残されたバクさんは盛大に溜息を吐いた。
「どうしたんですか、バクさん?」
「いや…。ハナコは昔から変わらないなと思ってな」
「昔?バクさん、昔のハナコを知ってるんですか?」
そういえば僕がここでハナコと会った時も、ハナコはバクさんと打ち解けているように見えた。そう思い僕がそう訊ねると、バクさんはあぁと短く返事をした。
「最後に会ったのはハナコが12歳のときだから、6年前になるか」
「へぇー………って、えぇっ!?ちょちょちょっと待ってください!!」
「はっ!?どうかしたのか、ウォーカー?」
今さらっと言ってたけど、バクさんそれウソですよね!?
「12歳で6年前って…もしかしてハナコは18歳なんですか!?」
「あ、あぁ。なんだ、ウォーカー。そんなに慌てて」
慌てる僕とは逆に、きょとんとしているバクさん。これが落ち着いていられますか!だってまさかそんな!
「ハナコが僕より年上だっただなんて!僕てっきり同い年かそれよりも下くらいだと思ってました…」
「……それ本人の前で言うなよ」
「でもバクさん!ハナコはリナリーよりも小さいんですよ!?顔もいくらか幼げですし…」
「あぁ、それはあいつの母親の血が濃いからだろう。彼女の母親は日本人だったらしいからな」
バクさんは少しもの哀しそうに睫毛を伏せる。だった、なぜ過去形なのかはなんとなく察しがついた。
「あいつは面白いくらい父親に似てなくてな。父親と似てるのは精々あの頑固なとこくらいだろう」
「へぇ…」
そういえば僕はハナコについてあまり知らない。髪が綺麗な黒だから、リナリーと同じくアジア系なのかとか推測はしていたけれど。
「あの、バクさん」
「なんだ?」
「ハナコについていろいろと教えてください」
そう言うと、バクさんは少しだけ目を見開いた後フッと微笑んだ。
「もちろんだとも。そうだな、まずはどの話をしようか…」
「幼い頃のハナコってどんな子だったんですか?」
するとバクさんは口元に手を当てて短く笑う。
「あぁ、そりゃもう強情でな。最初に会ったのは11年前…中央庁のお偉方がここに来た時で、父親に手を引かれてよく一緒に来ていたんだ」
「中央庁…?」
「黒の教団を設立したところだ」
「へぇ。それで?」
バクさんはあまりいい顔をしなかったので、中央庁についてはあまり深追いはしなかった。
「7歳だったあいつはチビで一生懸命で…あぁ、その時はコロコロ頻繁に表情変えてたな」
「そうなんですか?…今はほとんど表情変わらないですよね」
「……意地を張ってるんだろう」
「意地?」
「あぁ。…それであいつと出会ったのはお偉方が会議してた会議室の前でな」
コホンと一つ咳払いをして話を戻したバクさん。僕は近くにあったベッドに腰掛けて続きを聞く。
「うろうろと会議室の前歩いてたから、つい話し掛けてみたんだ。あいつは一丁前に父親を守るために警護しているだとかなんとか言ってたな。そりゃあもう誇らしげに」
「なんか、想像できそうでできないですね」
「だろう?それで…―、」
バクさんは懐かしそうに話をしながら、なぜか彼女の詳しい出生などについては語らなかった。単に彼女の許可を得ていないからとかではないように思える。でもそれは、また本人の口から聞けばいいこと。
取り敢えず今は、バクさんの語る幼い日のハナコの数々の奇行について耳を傾けよう。