19

"……聴こえるかい?アレンくん。「方舟」の内に入れたかい………?"


コムイさんの声が脳内に響き、ゆっくりと目を開ける。そして目に入る一面の白、白、白。


「はれ?」
"は?どうかした!?"


僕が素っ頓狂に声を上げると、コムイさんの慌てたような声が返ってきた。


「あ、いえ。すみません。予想してたイメージとだいぶ違くて…ってあっ、コラ!ハナコ!何してるんですか!」
「…なにって、ばくだんを作るためにですね、」
「やめなさい!」


ハナコが僕の隣でガチャガチャと音を立てていたのでそちらに目をやると、壊れたゴーレムを手にして弄くりまわすハナコの姿が。慌てて止めたが、ハナコはとてもとても不服そうだ。作業の手は止めたが、口はぶつぶつと動いて不満を漏らしている。


「このゴーレムをつかったばくだんは火薬だけのそれとはちがい、でんき回路のショートをりようした新じだい型ばくだんであって……ぶつぶつ…」


僕にはイマイチ理解できないが、とても不満なのはよく分かった。


"…ハナコくんが何かしたのかい?"
「あ、いえ。大丈夫です」
"そうか"
「…?」


どうしてだろう。今一瞬だけ、コムイさんの声が冷たく感じられた。


"…それで、何が見える?"
「南国のような…白レンガの町がずっと続いてます」
「この黒いちょうちょについていけばいいよ」


ハナコはそう言って、ティキのものと同じであろうあの蝶々を指差す。


"体は?"
「平気です。ハナコ、貴女は大丈夫ですか?」
「もんだいありません」


ハナコはこちらにちらりとも視線を寄越すことなく蝶々をじっと見つめながら、淡々とそう答えた。彼女やコムイさんの態度には違和感のようなものを感じる。


"慎重にね!!迷子にだけはならないでね!!!"
「……」


コムイさんの言葉がビシッと突き刺さる。


「コムイさん」
"ん?"
「みんなは大丈夫でしょうか……」


そう訊ねると、暫くの間僕とコムイさんの間に沈黙が漂った。


"不安なときは楽しいこと考えようよ"


コムイさんのその言葉に、僕はとっさに何も思い浮かばなかった。


「楽しいコト?えーと…」
"あれっ、思いつかないかい?例えばね…"


"「みんなが帰ってきたら」"


コムイさんの穏やかな声が耳から脳へと響き渡る。


"まずはおかえりと言って肩をたたくんだ。で、リナリーを思いっきり抱きしめる!"
「はは…」


コムイさんらしいその言い様に、思わず笑いが零れた。


"アレンくんにはご飯をたくさん食べさせてあげなきゃね。ラビはその辺で寝ちゃうだろうから、毛布をかけてあげないと。大人組はワインで乾杯したいね。ドンチャン騒いで、眠ってしまえたら最高だね…"


僕ははたと止まる。静かに目を閉じて、コムイさんの言ったように想像してみた。


"そして少し遅れて、神田くんが仏頂面で入ってくるんだ"
「ははっ。目に浮かびますね」
"だろ?"
「ウォーカー」


クスクスと笑っていると、不意にハナコに名前を呼ばれた。


「とまらないでください。じかんがない」
「そうですね。行きましょう」


僕が再び歩き出すと、ハナコは振り向いていた顔を前に向けて歩き出す。

そうだ。まずはみんなを助けないと。


「ハナコ」
「はい。なんでしょう」
「少しだけ、手を繋いでもいいですか?」


僕の問いに、ハナコはきょとんとした顔で振り返る。それからひとつ小さな溜息を吐いて、僕の元へと歩いてきた。


「なにをおもっているのか知りませんが、それであなたの気が安らぐならどうぞ」
「ありがとうございます」


そっと差し出された白い手を握る。手から彼女の体温が伝わってきて、少しドキドキした。僕の手を引くようにして歩き出したハナコ。

僕もつられるようにして歩き出した。


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