20
(ラビ視点)
千年伯爵の攻撃で、一瞬で江戸がスッカラカンになった。オレもじじいもクロちゃんも、クロス部隊は全員が虫の息で。
「う…リナ…リ…」
"ラビ"
肘をついてなんとか起き上がりながら、リナリーを呼ぶ。すると、直接脳に響き渡るようなリナリーの声。はっとして横を見ると、そこにはいつかと同じく結晶の中に閉じ込められている彼女がいた。
「!!また…っ」
「おい…何だコレは…!?」
ユウがオレに聞いてくるが、それはオレも聞きたい。
"神田…ラビ…。みん…な…皆…皆…っ!!"
リナリーの手が結晶の中に映る。まるでオレらに手を伸ばしてるみたいに。
「危険だぞ神田!」
「!!」
不意にマリの声が響き、それとほぼ同時にオレの横を勢いよく何かが突っ切った。ノアだ。あの天パのノアがユウに攻撃をして、ユウもろともすっ飛んでく。
「ユウ!…!?」
ユウに気をとられていたせいで気付かなかったが、オレの頭上に陰りができた。
「甘いのは好きか?」
ずんぐりむっくりのデカいそのノアは、拳でオレを圧倒してくる。咄嗟にイノセンスで防ぐが、一方的な攻めに成す術も無い。ふと、視界の隅にリナリーのいる結晶のもとへ降り立つ伯爵の姿が映った。
「リナリィー!!」
オレの叫びはただ木霊するだけで、結晶に伸びる伯爵の手が止まるわけもなく。
その時、何かが空に向かって伸びた。オレも、オレに攻撃してくるノアもそちらに目をやる。
「空が割れた…!?」
その次の瞬間、ドンッと重い音をさせて何かがオレのすぐ横に落ちてきた。短く声を上げて顔を腕で覆う。それから腕を退かせてちらりとそちらを見ると、そこには仮面のようなものがいて。
「(アクマ!!?)」
新手のアクマかと思い構えるが、次の瞬間肩の力が抜けた。
「ラビ!?」
なんと目の前に落ちてきた白いアクマかと思われた物体は、オレらの同僚のアレンで。
「伯爵がこっちに来ませんでし…―」
「まちやがれコラァ!!」
アレンの声が、ユウの怒号に掻き消される。
「死ねェ!!」
「うわっ!?」
瞬時にユウの攻撃を左手で受け止め、戸惑いながらも「神田!?」と声を上げて驚くアレン。ユウも何かおかしいとやっと気付いたのか、動きを止めた。……アレンに六幻突き立てたままだけど……。
「どういう事だ………っ!?」
「僕が聞きたいんですけど」
「俺は天パのノアを追ってきたんだ!!おいラビ、奴知らねェか!」
ユウに突然話を振られ、記憶を探るが心当たりはない。というか、オレに攻撃してきていたノアの姿も見当たらない。
「あれ?そういやオレの相手してたマッチョのおっさんも…。どうなってんだ…どこにもノアがいねェ…?」
オレがそう呟いた後、ユウの舌打ちが耳に入った。そしてアレンとユウの口暴戦がはじまった。ここは大人のオレがと思い、ふたりに落ち着くように促したが揃って「うるせェ刈るぞ」って言われていわゆる石化したオレ。皆して酷いさ。
「あれ?そういえばハナコを見ませんでした?」
「へ?ハナコ?」
アレンがはっとしたようにきょろきょろと忙しなく辺りを見渡し始める。ハナコ?あいつもここにいるんさ?
「おかしいな。一体どこに…」
「わたしをお探しですか、ウォーカー」
「うわぁっ!?ハ、ハナコ!あなた今までどこに…!!」
いつの間にかアレンの真後ろに気配もなく立っていたハナコは、いつも通りの無表情でこてんと首を傾げた。
「はい。伯爵とノアのけはいを探っていました」
「えっ!貴女そんなことまで出来るんですか!?」
「やろうとおもえば」
「で、どうだったんさ!?」
「あぁ、ラビ。お久しぶりです」
「あれ!?感動の再開のはずなのに!」
久し振りに会ったにも関らず、ハナコの反応は薄い。オレら、一応打ち解けたんじゃ…?
「いまのところここ一帯…江戸のなかにはけはいを感じません。おそらくどこか別のばしょに隠れたか、身をひいたのでしょう。ところで…、」
話しながらハナコは、ちらりと結晶へと目を向けた。
「あれはなんですか?」
「あれは…話すと長くなるさ」
「…なにがあったのですか?」
その時、リナリーが結晶から姿を現した。ハナコもアレンも相当驚いたようだったが(ハナコは少し驚いているぐらいにしか見えなかったさ)、アレンはさも当たり前のようにリナリーを抱えて歩き出す。それからオレらは安全な場所へと移動しながらこれまでの経緯を話した。アレンは大声を上げたり、目をかっ開いたりとリアクション大きかったにも関らず、ハナコはいつも通り静かだった。