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リナリーの姿が消える間際、アレンは咄嗟に彼女に向かって手を伸ばした。しかしそのアレンの姿も地面に沈み消えていくものだから、ラビ、チャオジー、神田、クロウリーの順でその穴へと飛び込む。ハナコもクロウリーのマントの裾をギリギリで掴み、穴へ吸い込まれていった。
気が付けば7人は真っ白な空間へと移動していて。
「なんだこの町は」
「ふむ、見おぼえのあるけしきです。どうやらここは方舟のなかのようですね」
「えぇっ!?」
「あ?」
神田の呟きにハナコが答えると、神田は眉間に皺を寄せてアレンを睨み付けた。
「なんでンな所にいんだよ」
「知りませんよ」
ふたりの間に険悪な空気が漂う。
「ケンカはよくないである!!」
「そうですよウォーカー、神田。まずは状況をはあくしなければ」
「おっ、おい!!リナリーの下に変なカボチャがいるさ!!」
クロウリーとハナコが神田たちを宥めていると、ラビの切羽詰まった声が響いた。そして意味の分からない彼の言葉を確かめるため、全員がリナリーの方を見る。そこには確かにカボチャの頭がついた傘があり、それははっと声を上げて喋りだした。
「どっ、どけレロ、クソエクソシスト!ペッ!!」
「なんと。かさが喋りました。これはじつに興味ぶかい」
「「お前か…」」
「キャーッ!!」
ハナコがほほぅと顎に手をやりながらそう言うが、それを遮るようにしてアレンと神田がカボチャに各々のイノセンスの切っ先を向けた。そして更に脅迫をし始めるふたり。
「スパンと逝きたくなかったらここから出せオラ」
「出口はどこですか」
ふたりの凶王に詰め寄られ、ブルブルと震えるカボチャ。
「でっ、出口は無いレロ」
「ふむ。これが"ぜったいぜつめい"というやつですね。困りました」
「全然困ったように聞こえないさー、ハナコ…」
『舟は先程長年の役目を終えて停止しまシタ♥』
その時、カボチャから先程までの声とは別の声が発声された。
『ごくろう様ですレロ♥出航ですエクソシスト諸君♥』
カボチャの口から千年伯爵の形を模したものが現れ、それが声を発し始める。
『お前達はこれより、この舟と共に黄泉へ渡航いたしまぁース♥』
ドン!!伯爵がそう言うと同時に、辺りの建物が崩れ始めた。
「!?」
『危ないですヨ♥ダウンロードが済んだ場所から崩壊が始まりましタ♥』
「は!?」
「どういうつもりだ…っ」
『この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまス♥お前達の科学レベルで分かり易く言うト……あと3時間。それがお前達がこの世界に存在してられる時間でス♥』
「こしゃくな」
ハナコはそう呟いて伯爵に向ってイノセンスを投げる。が、それはヒラリと躱されてしまい、イノセンスは手元へと戻ってきた。
『おやおや♥血気盛んな鴉ですネ♥あぁ、今はエクソシストなんですカ?キミの愚かな父親はさぞ鼻が高いのでしょウ♥』
「あまりかるくちを叩くな。つぎはあてる」
『ウフフ♥足掻きますネ、エクソシスト♥あぁ、それとそこの可愛いお嬢さん…』
伯爵はリナリーへと視線を向けた。
『良い仲間を持ちましたねェ♥こんなにいっぱい来てくれて…みんながキミと一緒に逝ってくれるかラ、淋しくありませんネ♥もっとも、約一名キミが嫌っている人物がいますガ…♥』
「伯爵…っ」
リナリーは顔を少し青くしながら、懸命に伯爵を睨み付ける。伯爵は風船のように(ていうか風船だ)上へと浮かび上がりながら続きを口にした。
『大丈夫…♥誰も悲しい思いをしないよう、キミのいなくなった世界の者達の涙も止めてあげますからネ♥』
「うっとうしい」
「ハナコッ!危ないですよ!!」
マユミは地面を蹴り上げ、伯爵の形を模した風船へと飛んで行った。そしてイノセンスを構える。
「このからだは本体とつながってるのか?」
『ウフフ♥さァ、どうでしたかネ♥』
「ふん」
風船な伯爵の首をイノセンスで掻き切ると、それはパァンと音をさせて弾けた。ハナコが地面に着地すると、アレンが真っ先に駆け寄ってくる。
「なんて無謀なことをしたんですか、貴女は!」
「しんぱいない。アレはことばを介すためのただの"ばいかい"でした」
「そういう問題じゃなくてですね…!」
「そんなことよりもウォーカー。じかんがありません。はやく行動しなくては」
ハナコがそう言うと、アレンは他にも言いたいことがあったのだろうがそれを呑みこんでひとつ頷いた。