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再び攻撃を始めたふたりだったが、ノアが有利という状況だった。ふたりは形勢を立て直しきれず、ハナコは地面に叩きつけられ、神田はノアの技の"神罰"をくらう。ノアの技が決まると神田は更にボロボロになっていて、ハナコは動けない自分の不甲斐無さを心底恨んだ。
「おぉい。これは死んでいいんじゃねェかあ〜?」
「おのれっ、ノアめ…!」
あれほどの攻撃を食らっても尚、神田の心臓は動きを止めることをしなかった。それに気付いたノアは首を傾げる。
「何回殺せば死ぬんだお前」
「やめろ…っ」
「首を焼き切るしかないか」
「きさまっ!!」
ハナコは痛みで悲鳴を上げる自分の体に鞭を打ち、イノセンスを開放した。
「第二かいほう、さんの業!豹氷懺鬼(ひょうひょうざんき)!」
すると鎖鎌が冷気を帯びた透明な大剣に形を変えた。ハナコは瞬時にノアの背後に回り込み、ブォンと重たい音で風を切りノアの脇腹目掛けて振った。
「ぐぉあっ!」
攻撃した箇所がビシビシと音を立てて凍っていく。ノアの意識がハナコの攻撃に移った。その時だった。
「この瞬間を待ってたぜ」
そう言うや否や、神田はノアに六幻を突き立てた。
「うおあああああああっ!!」
ノアがこれでもかというほど大きな雄叫びを上げた。
「死ねっ、死ねっ、死ねぁあああ!!」
「なんとくちぎたないっ」
ハナコは一度大剣を引き、もう一度今度はノアの背中に突き立てる。
「おぉおおおっ!!」
「ああぁああっ!!」
神田とハナコは自分たちを鼓舞するように声をあげた。
やがて神田が突き刺した六幻を振り抜ききり、ハナコも縦に突き刺していた大剣を横に倒す。同時にハナコの手にも、神田の首を絞めつけていたノアの手からも大量の電流が流れた。
ぐらり、三人の体が同時に崩れる。先に立ち上がったのは神田だった。
「ぐ…あああ…体が…体が…っ、イノセンスの野郎に…っ犯されていく…」
神田はボロボロになった自分のイノセンスを持ち直し、ノアに歩み寄る。
「お前ぇぇ…自分の武器が溶け出すまで己のエネルギーをあえて喰らったのか…」
ピキピキと音を立ててノアの体が硬直していく。同時に体が氷に侵食されていった。
「だが…カハッお前のイノセンスも…そこの女ももう…使い物にはならねぇ…な」
ノアはそれを最後に動かなくなった。神田はノアの前に立ち、その様子をじっと見ている。
「ノアは不死か…。そんなデマ…誰が言ったんだかな。人は死ぬものだ」
人で在る限りな。そう言い残し、神田はハナコの元へと早足で向った。ハナコの近くまでくると、彼女の体がいかに傷ついているのかを目の当たりにできて神田は思わず顔を顰めた。
「ったく。女のくせにこんななるまで戦いやがって」
「かんだ…」
虫の息のハナコが薄らと目を開けた。そんな彼女を抱え上げると、神田は再び出口のドアに向って歩き出す。
「かんだ…なにをする…」
「あ?何がだよ」
「おいていきなさい…。これでは…じかんとろうりょくのムダです」
「知るか。お前がいなきゃ意味がねェんだよ」
神田はぐっと呻き声を漏らしながらも、ハナコを抱える腕の力を緩めない。ハナコは困惑しながらも続ける。
「あなたひとりで…おいきなさい…。わたしはどのみち、もう…」
「諦めっかよ。死ぬな、ハナコ」
神田がぎゅっと腕に力を込める。その時、後ろの方で爆音とともに大きな光が天に向かって伸びた。
「うそだろ…まだ…っ!あの野郎!」
視線の先にはボロボロになったノアが立っていて。ハナコはそれをぼんやりと見ながら体を起こす。するりと神田の腕から抜けると、ハナコは神田を出口のドアに向って投げ飛ばした。
「んなっ、何をしやがるテメェ!!」
叫ぶ神田だが体がすでにいうことを聞かず、受け身をとるのに精いっぱいだった。
「いまならまだ、間にあいますから…はやく、」
ハナコはそれだけ言うとノアのいる方へと体を向ける。
「護羽(まもりばね)」
「オイ!ハナコ!!」
ハナコはあるだけすべての札を出し、神田と扉に向って投げた。それから呪文を唱え終わると、無表情にボロボロになったイノセンスを構える。
「第三かいほう、煉獄領域。二刑、焔堰(えんぜき)」
神田の視界に、赤黒い壁が広がっているのが見えた。