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何が起こっている。俺は今、自分の目の前の光景が一体なんなのか把握できずにいた。
「第三かいほう、煉獄領域。二刑、焔堰(えんぜき)」
あいつがそう言った瞬間、俺の目には見覚えのある多数の札と赤黒い焔の壁しか映らなくなった。あいつの姿はかろうじて視認することはできるが、もう倒れる寸前で。
「おぉおあああああ!!」
一段と高いノアの雄叫びが聞こえたかと思うと、目の前の壁がぐらんと大きく揺れた。ゴォォオと唸るような轟音が鼓膜を震わせる。やがて一際大きな音の後に目の前が真っ白に光りだし、きつく目を瞑った。
「ハナコ!!」
光がやみ、俺はいの一番にあいつの名前を叫んだ。しかしさっきまであいつがいた所にその姿はなくて。ハラリ、ハラリと宙に浮いていた札が焦げて落ちていく。そしてやっとしてあいつを見つけた。
「おい、ハナコ!」
ハナコは砂が硬くなってできた太い剣山みたいなやつに串刺しになっていて。その手に握られているあいつのイノセンスはボロボロに溶け出していた。
「やった…壊した…奴を…くっ、」
ノアはニヤリと口角を上げて息を漏らす。
「ギャハハハハハ!!」
「この野郎ッ!」
狂ったように笑い出したノアに怒髪天をついた俺は、すでにボロボロになった六幻を握りしめて立ち上がる。その時だった。
「まだ…おわってませんよ」
「…あ?」
ハナコがか細く声を出してふふっと笑う。
「ごの業…光刃煉、塵」
「なにっ!?」
溶け出したあいつのイノセンスが煌々と光り出し、霧状になってノアを覆った。そしてそれはヒュンと風を切って面積を狭める。
「ぐぉおああ!!」
数段大きな雄叫びの後、光はぱらぱらと落ちていった。同時に姿を現したノアの目はもう虚ろになっている。
「おわったか…」
「わかってねェなあ…。言っただろ…ノアは不死…だ」
ノアは体が灰になって消えながらまだのたまう。
「まだ…終わってたまるかよぉ〜」
そしてノアはドンという爆発音とともに塵になって消えた。決まった。そう思いながらあいつのもとへと足を引きずりながら行く。
「これでホントに終わりだ…」
よくやった
そう言ってハナコをぎゅうと強く抱きしめた。なんでかは知らねェが、ただそうでもしないとこいつが消えてどっか行っちまいそうだと思ったから。
「ばかですね…。あなたのお仲間とのやくそくをやぶる気ですか、まったく…」
「知るかよ。勝手に向こうが言った約束だ」
「はやくおいきなさい。わたしはもう、やくたたずですから…」
目を閉じたままくっと眉を寄せてそう呟くハナコ。
「ンな事ねェよ」
「…わたしはもう、もうあうこともかなわぬのですね…」
不意にこいつはわけの分からないことを言い出した。話に脈絡がない。誰の事を言ってる?
「かんだ、かんだ」
「なんだ」
「おねがいです。どうか…いきて、」
瞬間、一際大きな地鳴りの後地面が大きく揺れた。そして目の前の景色が消えて無くなっていく。ハナコを抱く腕にさらに力がこもった。
「置いていけるわけねェだろ、バカハナコ」
そして思考回路が止まる。