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ハナコは皆が猛ダッシュで走って行ったのを至極不思議に思いながら歩いていた。ぼんやりとマイペースに歩いていると、仕舞いには彼らの後姿も消えていて。はたと一度立ち止まったが、また歩き出す。どうやら来た道を覚えているようだ。


「…いいな」


誰もいないからと安心したのか、ふとそんな声がこぼれた。


「わたしも、あいたい」


いつもよりどこかか細い声が紡がれていく。彼女はまた立ち止まり、その場に佇んだまま目をつむって上を向いた。


「…あ、」


ぱちり、目を瞬いて開く。


「てがみ、書かなきゃ」


それだけ言うとまた歩き出した。今度はさっきよりもどこか軽快に。


「ふふっ。かえれる。わたし、いきてる」


いつもの無表情はどこへ行ったのか、とても嬉しそうに微笑みながら歩く。


「ありがとう、みんな。ありがとう。ウォーカー、神田、みんなありがとう」


方舟で死を意識した際に現れた人たちや先ほどのエクソシストたちを頭に思い浮かべ、感謝の言葉を言うハナコ。笑顔なのに、口元はどこか泣きそうに歪んでいて。


「ぐぬ…ふっ…うぇっ、く…」


途端、ダムが決壊したかのように涙がボロボロと流れ始めた。顔がぐしゃぐしゃになっているのに、足は止めない。


「泣いてないよ…ハナコ、ないてないからぁ…っ」


そう言いながら彼女は手の甲で乱暴に涙を拭う。


「さみしくなんか、ないっ、もん…!」


うじゅうじゅと鼻水を啜りながらその場に体育座りした。


「ぶぇぇぇ…っ」


そのまま少しの間だけぐずぐず言った後、ぱっと立ち上がる。その目は少し赤くなっているが、表情はいつも通りのポーカーフェイスに戻っていて。


「…いかなきゃ」


泣きたい心を押し殺しているその姿は、どこか寂しそうで。それでも彼女は誰もいないその道を、ひとり歩いていった。




「やっと追いつきました」
「あっ、ハナコォー!置いてって悪かったさー!!」


ようやくしてピアノの置かれている部屋までたどり着いたハナコは、着くや否やラビに飛びつかれていた。一瞬よろめくが、そこは意地で踏ん張ったハナコ。ちらりとラビ越しに見えたリナリーは、ハナコを見て顔を顰めているのが彼女には分かった。


「あ?…おっと、随分久し振りだな。子ガラスよ」
「おや、お久しぶりですねクロス元帥。ところでたいへんヒンシュクですが、わたしはもうカァとは鳴きませんよ。そして子どもではありません」
「あれっ?師匠、ハナコと知り合いなんですか?」


アレンが自分の師匠、クロス・マリアンにそう訊ねる。すると元帥はくっくと喉を鳴らして笑った。


「まァな。…しっかし、なんとまぁ…笑わなくなっちまったか」
「あ、それオレも思ってたさ!なんでさー?」


今度はラビが声を上げて自分の腕に収まるハナコを見下ろす。ハナコは相変わらずの無表情で身じろぎをした。


「そうですよね。あ、でもハナコは笑うととても可愛らしいんですよ!」
「なっ!?なんでアレンが知ってるんさ!」
「そうだな。笑ってると余計幼く見えるがな」
「…たごんしないでいただきたいのですが」


いささかムスッとした顔になるハナコの頭をぐりぐりと撫でるラビ。


「今度、思っきし笑わせてやっからな!」
「えんりょする」
「えっ、なんでさ!?オレもハナコの笑った顔見たいさー!!」
「たいしたことありませんよ。さぁさぁ、リーさんの安否もかくにんできたようですしはやく方舟から出ましょう」
「そうだな」


神田が返事をし、ハナコを一瞥した。それからぺしんと彼女の頭を叩き、背を向ける。


「オラ、さっさとしろよモヤシ」
「アレンですって何回言えば分かるんですかね!!」
「はなしをすすめましょう。元帥、ここにいるということはなにか知っているのでしょう?どうすればわたしたちは方舟から出られますか?」


再びいがみ合う二人を放置し、クロスに話し掛けるハナコ。すると元帥はニヤリと口角を上げてから話し始めた。


「アレンが本船の"江戸接続"を解除する、ってだけ言えばいい」
「"江戸接続"?なんですかソレ」
「いいから言え、タリーな。それで外に出られんだからよ」
「あとでキッチリ説明してくださいよ、師匠!」
「オレも聞きたいさ〜♥」


見るからに怠そうにそう言う元帥に、アレンはちょっと声を張って返事をする。



「さっさとしろよモヤシ」
「アレンだっていってんでしょ」
「ケンカしないのっ」


またしても二人の間でビシリと固まった空気。リナリーがそれを叱咤すると、取り敢えずその場は収まった。


「ではいきますよ…。ほ、本船の"江戸接続"を解除。方舟よ、ゲートを開いてくれ」


開くゲートの行き先は―…


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