03
彼女の1日は、いつも決まった時刻に始まる。6時起床。まずは洗面所に向かい、顔を洗ってうがいをする。その後ハイネックの袖無しインナーを着て、黒のズボンを穿く。胸元まである髪を髪ゴムを使わずに、後ろで一つ結びのようにしてまとめる。
「おはようございます」
身なりが整うと、自室の机に飾られている写真に向かって律儀に頭を下げて挨拶。そこには中央庁特別監査役長官であり、彼女の父であるマルコム・C・ルベリエと綺麗な長い黒髪の女性が寄り添うようにして立っていた。ハナコの両親である。このとき6時15分。女子にしては早い準備だ。それから彼女は本棚から一冊の本を取り出し、読み耽る。それからきっかり15分後、6時30分。読んでいた本を閉じ、本棚に戻してから静かに部屋を出る。
6時42分、修練場へ到着。今日はどうやらぼんやりしていたらしく、2分の遅刻。それから鍛錬を始める。
7時15分、修練場を後にする。
7時30分、食堂へ到着。
「おはようさー、ハナコッ」
「おはようございます、ラビ」
ハナコは赤毛の青年、ラビを一瞥してまたスタスタと歩き出す。ハナコはこの男をあまりよく思っていないらしい。本人曰く、監視されているようだとか。
「なぁなぁ、折角なんだし一緒にメシ食おうぜ」
「えんりょする」
ハナコは料理長の前まで行く。
「おはようございます、ジェリーろうりちょう」
「アラん、おはようハナコちゃん。また呂律が回ってないわよ」
「おはようございますジェリー料理長!」
表には微塵も出さないが、焦ったようにすぐさま言いなおすハナコ。ハナコは料理長のジェリーに好感を持ち、信頼を置いている。
「今日は何を食べるのかしら?」
「ガーリックトーストとベーコンポテトパイ、コーンスープとポーチドエッグのサラダとパンプキンパイください」
「今日も沢山食べるわねぇ。待っててちょうだいね」
「はい」
ハナコはひとつ頷き、カウンターに一番近いテーブルに着いた。ここが彼女の定位置なのだ。そこに座れたことに満足しているのか、ふーんと大きく鼻から一息。
「随分とジェリーに懐いてるみたいさね」
「いたのですか、ラビ」
「あれ?オレとジェリーの差って何?」
そう言いながら自分の前に座った兎を心なしかじとーっと見るハナコ。
「そんなに見つめるなって。可愛い娘に見つめられたら照れちまうさー」
ハナコはアハーと笑う目の前の兎をシカトすることに決めたらしく、ふっと静かに目を閉じた。
「あれ、無視?ヒドイさ!」
「だまっていてください。わたしはいま瞑想中です」
「…」
目の前の兎が落ち込む姿が閉じた瞼の向こうで感じられた。しかしハナコは目を開けることなく、じっと瞑想。
「ハナコちゃーん、できたわよぉ!」
「ありがとうございます」
ジェリーの声が聞こえた瞬間、とてつもない速さで反応したハナコに、ラビは目をかっ開いた。なんてインパルスさー…。小さく呟いたラビの声は、しっかりとハナコの耳に届いたがやはりスルーされるのであった。