04

「いただきます」


きちんと手を合わせてそう言ったハナコ。それを肘を突いてじっと見つめるラビ。


「美味しいさ?」
「もぐもぐもぐ」
「なぁ、それ一口オレにもくれさー」
「もぐもぐもぐ(バシッ)」


ハナコはガーリックトーストに伸ばされたラビの手を叩き落した。


「…なぁ、なんでそんな頑なにオレをシカトするんさ?仲間になる気ないのか?」


その言葉に、ちらりと視線を上げたハナコ。それからお茶を一口飲んだ後、ラビと目を合わせた。


「なかまになる気はあります。なりたいとおもっています。しかし今のままでは、あなたとなかまになれるとはおもえない」
「…どういう意味さ?」
「わたしを監視しているのでしょう」
「!……なんでそう思うんさ?」
「あなたの目がわたしの行動をちくいち記録しているようにおもえます。とてもふゆかいだ」
「それはそっちの勘違いじゃないの?オレはブックマンの後継者なんだし、なんでもそういう風に見ちまうのは職業病みたいなモンさね」
「ちがう。あなたの目はわたしを警戒している」


そこでサラダを口に入れるハナコ。ラビは先程までのおちゃらけた雰囲気ではなく、剣呑な空気を纏っていた。


「わたしを監視するのはかまいません。ですがわたしの存在がいやなのであれば、無理にわたしにかかわらぬよう」
「…それ、どういう意味さ?」
「おたがいいいことなしじゃないですか」


熱いコーンスープの入った器をゆっくりと傾ける。その時だった。


「ムカツクさ」
「〜〜〜〜〜っ!!!」


あろうことかラビが顔に笑顔を張り付けたままその器を人差し指でくいっと押し、それによって器の中の熱いコーンスープがハナコの顔、首にと降りかかったのだ。


「確かに監視していたのは事実さね。お前の言ったとおり、行動を記録していたのも事実。けど、」
「……」


顔を手で拭いながら恨めしげにラビを見上げるハナコ。ラビは立ち上がり、憤りを露にしていた。


「けど、そうしなきゃお前が何をするか分かんないだろうが!中央庁でさえ何を考えてるか分かんねぇのに、鴉だったなら尚更さ!余計な真似されて、こっちが酷い目に遭うなんて真っ平ごめんさね!」


食堂にいる全員が、ハナコたちを見る。ハナコは静かに一度頷いてからラビを見上げる。


「あなたの言葉はうそまみれでしたが…ようやく本心がきけました。とりあえずこれはわたしにとってはプラスなのでしょう」
「は?」
「そうですね。教団でわたしがこのまれない存在になるであろうことはここに来るまえからわかっていましたし、だとしたら情報を隠蔽しなかったこちらのせきにんでもあるのでしょう。…いやしかしそれはやりすぎですね。…ふむ、どうもわたしは人づき合いは不得手なようです」
「さっきからなにブツブツ言ってるんさ」
「ラビ、あなた歳はいくつですか」
「…は?」


思いも寄らない唐突な質問に、ラビは素っ頓狂な声を上げる。が、ハナコは至って真面目である。


「ふざけてんのかお前」
「まじめですよ。で、おいくつなんですか?」
「…18さ」
「そうですか。わたしとおない年ですね」
「…だったら何さ?」
「趣味はなんでしょう」
「…読書」
「きぐうですね、わたしもです」
「だからそれが何なんさ!?」


バンッと荒い音を立ててラビがテーブルに手をつく。


「なにって…まずはおたがいを知ろうとおもっています」
「はぁ?」
「べつにわたしはあなたとなかまになりたくないわけではありません。むしろ積極的になりたいとおもっています」
「さっきなれないって自分で言ってただろが」
「それはあなたがわたしに対して敵意をいだいているからです。わたしはあなたに敵意をもっていません」
「それで?何で心変わりしたのか聞いてみたいさね」
「こころがわりではありません。あなたの本心を聞き、わたしなりに改善することができると思ったのでこころみたまでです」
「…改善?お前が中央庁のモンだって事実は変わらないさ」
「それはしかたありません。事実は事実です。しかしながらあなたの中からわたしへのわるいイメージ…希望としては中央庁のわるいイメージも払拭できたらとおもっています」


騒がしかった食堂中がしんと静まり返る。


「わたしはエクソシストとしてここへ来ました。他意はありませんし、中央庁からなにか指令があったわけでもありません。それでもなおわたしを疑い、監視しつづけるというならどうぞ。しかしわたしは、一度あなたとなかまになろうとおもってしまいましたので、これからもそのつもりで挑みます。かまいませんね?」


ラビは拍子抜けたようにハナコを見つめ返した。その後、ぷっと吹き出す。


「はははっ!」
「なにかおかしいことでもありましたか?」
「いや、無いさ。ただ、かまいませんねって…ぷくっ」
「ひとのセリフを笑うとはなにごとですか」
「わりぃわりぃ」


そして気付けば、2人の間に剣呑な空気はなく。ラビはどかっと投げやりにイスに腰を下ろした。


「ほんとに、悪かったさ」
「かまいません。警戒されるのはなれています」


真剣なトーンで話すラビに、ハナコはさも当たり前のように言って肩を竦める。口調は淡々としていて真意は読み辛いが、茶化しているわけでもないようだ。


「ホラ、お前も知ってる通りうちのエクソシストにお前の父親にトラウマ持ってるやつがいてさ。そいつを思うと、どうにもお前のこと気に入らなくてな」
「存じてます」
「中央庁も好きにはなれないね」
「はい」
「でも、さ」
「はい」


ラビはそこで一拍置き、その後少し照れ臭そうに笑った。


「オレ、お前とは仲良くなれるかもって気ぃしてきたさ」
「光栄です。わたしも仲よくなれる努力をします」
「おう。よろしくな、新入り」
「よろしくおねがいします」


8時24分。
いつもより9分遅く、ハナコは朝食を終えた。しかし彼女はこのいつもと違う今日に、とても満足したようだった。


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